第134話 シスターズ
『えっと、繋がってる?』
「おお。カメラは映ってないけど声はバッチリだ」
オレはマックス経由で、フォスター姉妹と通話を接続していた。
『そっちは映ってるんだけど……ちょっと待って』
『ミスト! 駄目! 映さなくていい!』
すると、フォスター四姉妹の次子――サン・フォスターの声が聞こえる。
「お、サンも来てるのか。じゃあリンクもいるのか?」
『居ますよ』
『当たり前! どんだけ待ちわびたか……さぁ! お姉様を出しなさい! 出せぇぇー!!』
ガタガタ!(ディスプレイを揺らす音)
『サ、サンお姉様落ち着いて!』
『PC壊れるって』
「おいおい、禁断症状が出てやがる。リンク、寝室に行ってダイヤの枕を持ってこい。そいつの顔面に押し付けろ。ハハ」
『は、はい!』
カメラは映っていないが、フォスター三姉妹のドタバタ具合が目に浮かび、思わず笑ってしまった。
『何笑ってる! お前が居なければお姉様はそんな所に居なかったのに……うう絶対に許さない! こっちに来たらマフィアどもの死体と一緒にジョン・ドゥにしてくれる! うきぃぃぃ!』
「英語の早口だとオレは半分程度しか読み取れねぇぞ。ゆっくり喋れ。ゆっくり。スロートーク、OK?」
『ファッ○! ジャッ○!』
「放送禁止用語で来たか。ハハハ」
『サンお姉様! ダイヤのお姉様の枕です!』
『すーはーすーはー』
お姉様依存症にトリップしてたヤツが少しスカイプから離れる。リンクが、ゆっくり吸って! ゆっくり! と介抱しているようだ。オレは終始笑いを堪えていた。
『ニックス。笑ってるでしょ?』
「あはは! 耐える方が無理だ。お前達は相変わらずだな」
会話相手は四女のミスト。ちゃんと会話の出来るハイスクールガールである。
『……ダイヤお姉様は笑ってる?』
「ああ。ずっと笑ってるよ」
『今は居ないの?』
「ちょっと家庭教師に行ってる。もうすぐ戻るだろうからお前達とすぐに話が出来るようにな」
『……ありがとう』
「お? なんだなんだ。反抗期を抜けたか?」
向こうに居たときはミストから、ありがとう、なんて言葉をオレが貰うのはレア中のレアだ。
『べ、別に! ダイヤお姉様が心配なだけ……』
「何も問題ないぜ。オレが側に居るわけだからな!」
『まぁ……全然信用出来ないけど』
「辛辣! ハハ。そう言う事でいいよ。アイツは護られる様な性分じゃないからな」
歩き出す時は常に先頭。そんな彼女をフォローして、周りを整備してやるのがオレの役目だった。仕事でも、プライベートでも。
『けど……ニックスは例外だと思う』
「そいつは光栄だな」
『ニックスは、お姉様の事どう思ってるの?』
「どう思ってて欲しい?」
『……その返しズルくない?』
「そんな事はないぞ。オレとしてはお前達がどう思ってるのかが第一なんだ」
サンとリンクもミストも、言わずもがなダイヤの事が大好きだ。
それは四人の枠の外から見てても解るし、そこへオレと言う異物が割り込んだ事で、誰かが肩身のせまい思いをするのは耐え難い。
「オレの存在はお前達にとってあまり良くなかっただろうからな。なんやかんやで三年間も世話になっちまったが……ようやく日常に戻っただろ?」
『私達はね。でも……ダイヤお姉様は違ったと思う』
ミストは、ダイヤの心境の変化に気がついてる様だ。
「大丈夫だよ。ダイヤはオレよりもお前達の方が好きだからさ。ちゃんとお前達の元に帰るよ」
『……ニックスはもうこっちに来ないの?』
「今のところ予定はない。日本には……色々と放置した問題が山積みだからな」
『そっか……』
「残念~?」
『別に! ダイヤお姉様、まだ帰って来ないの?』
「あんまり遅くはならないと思うが――」
「タダイマヨー、ニックス」
お疲れー、とオレがダイヤを労うと、その声を聞きつけた向こうから、ドタドタとサンが動く音が聞こえた。
『ダイヤお姉様ぁ~』
「ウン? サンのボイスネ?」
「繋がってるから、話してやってくれ」
そう言ってオレは席を譲る。嬉しそうにPCに近づくダイヤを見たオレは、フォスター姉妹の水入らずに微笑み部屋を出た。
「追い出されたのか?」
部屋を出ると階段から上がってくるリンカと鉢合わせた。
「今、オレの部屋はフォスター家に貸し出し中。リンカちゃんは?」
「ヒカリの見送り」
勉強会は、ヒカリちゃんのお迎えが来たことでお開きになったらしい。
「忍者とか言うふざけたのがいるらしいからな。哲章のおじさんが迎えに来てた」
「あー、そっか。そっかそっか」
暁才蔵の末路を一般社会が知るのは先の話か。ヤツは二度と世間を騒がせることはあるまい。
「たぶん、忍者は自首するよ」
「? なんか知ってるのか?」
「大人の事情。まぁ、忍者の事は考えくてもいいよ」
「?」
リンカは怪訝そうな顔を浮かべたが、部屋の前で待つオレの隣に同じように並ぶ。
「テストはどう? 上手く行きそう?」
「まぁな」
「それは良かった。オレじゃ教えるのは無理だったからさ」
「……向こうに三年も居たのに?」
「必要最低限のモノだけだよ。喋る方は行けるけどね。読んだり書いたりは……筆跡に癖のある文字を見たときは頭を悩ませたから」
日本語も同じだ。仕事で殴り書きの資料を受け取った時、想像と発想である程度は解読出来るが、英語で同じことが起こると全くわからない。
「その時はアメリア生まれでアメリア育ちの同僚に何度も助けられたよ」
まだ、支部の立ち上げ時は二人一組で動く事が多かった。ダイヤとは四六時中一緒に行動したものだ。
「……仲良かったんだな」
「まぁね。朝起きてから夜寝るまでずっと一緒――リンカちゃん?」
じー、と睨む様にオレを見るリンカの視線。何か失言をしたっけ?
「……なんか、変な事言った? オレ」
「……別に」
今度はそっぽを向いた。これは……嫉妬と言うヤツだろうか?
「……嫉妬してる?」
しれっと踏み込んで見る。
「はぁ? 何であたしが……」
と、否定しようとしたリンカはその言葉を止めた。
「……そーだよ。嫉妬してるんだよ。お前が楽しそうだから……」
「なんだ。なら、リンカちゃんもフォスター家と話してみる? 前にも言ったけど四女のミストは君と同い年で、話も合うと思う――」
そこでまで言ったオレは、じとー、と睨んで来るリンカの視線に気が付く。その目は、何でわかんないだよ、と言っている。オレの方こそわからん。
「えーっと……リンカちゃん?」
「夜ご飯の用意があるから。じゃあな」
そう言ってリンカは部屋へと戻る。
うーむ。リンカのオレに対する気持ちを理解したからと言って、彼女の言動を全て察せるわけではないか。
まだまた難解だぜ。思春期の女の子は。
「……ダイヤさんは――」
「ん?」
ドアノブて手を掛けた状態でリンカが告げる。
「……多分、お前の事好きだぞ」
「そうかもねぇ……」
「……お前は……どうなんだ?」
「重要なのはオレの気持ちじゃないよ」
ダイヤが一番大切にしたいと思っているモノは何なのかを理解する事だ。
「オレは君の側にいるよ」
「――あっそ」
短くそう言ってリンカは部屋へ帰って行った。
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