第133話 片思い歴長くない?

『二日連続で連絡してくるなんて、ケンゴ~お前、俺の事好きやろ~』

「おお、好きだぞ。好き過ぎて画面を貫いて殴りたいくらいだ」


 オレは部屋でマックスと連絡を取っていた。ダイヤに非常識な入れ知恵の他に何を吹き込んだのかを突き止めねばなるまい。


『猫耳どうやった?』

「お前な、アレは成人にはキツイぞ。リアクションに困っただろうが」

『やっぱり、実検証は必要やな。データに記録しておくわ』

「何のデータだよ……」


 マックスの趣味はコマンドサンボと日本観察である。いつか完璧な日本を完成させるためとか、ワケわからん理想を掲げている。


『ケンゴ。ここだけの話、忍者って居るんか?』

「あん? そんなモンいるわけ――」


 と、否定しようとしたところで思わず昼間の事を思い出す。


『そっか、現代社会やもんな。日本の手紙は忍者が運んでるってのも間違いやったか』

「だから、どこでそんな知識を仕入れて来るんだよ……」

『これ』


 と、マックスはLINEでアメリカで販売している、『日本の実態! 忍者も侍もいる!?』と言う雑誌の画像を送って来た。


「多分、その雑誌に載ってる事、九割嘘だぞ。当ってるのは酸素吸って二酸化炭素吐いてるって所だけだ」

『それ全人類共通事項やないか! クソ! キャシーの奴、掘り出し物があるとか言って……つかませよったな!』


 キャシーとは会社の近くにある雑貨店の女店主の事だ。退役軍人。


「そんなに気になるなら、お前が来れば良かったじゃん。飽きるほど日本の真実を叩き込んでやるぞ」


 向こうに居たときもそれなりに教えてやったが、現地で案内しながら情報修正してやる方が見落としは無いだろう。


『今回はダイヤに譲る理由があったんでな』

「まぁ、支部じゃダイヤが一番業績上げてたしな」


 海外支部ではダイヤはこちらで言うところの鬼灯先輩並みに仕事が出来る。

 ムードメーカーでもあり、その性格も相まって派遣先では高評価の嵐だった。


「仕事に関する向上心は評価したいけどな。向こうでは許容されるスキンシップは、こっちでは過剰だよ」


 ダイヤが女だから良かったが、もし男だったら今頃檻の中に入れられてたかも知れない。更にマックスの『変な知恵カスタム』も加わって変人の域だ。


『なんや、ケンゴ。まだ気づかんのか?』

「何を?」

『ダイヤはなぁ、お前の前だけテンションが上がるんやで』

「え? 何で?」

『そりゃ、お前と居るのか楽しいからやろ』


 なんか意外だ。常にハイテンションな彼女の雰囲気はオレの前だけだったなんて。同時にそれはオレにある考えに至らせる。


「マックス。それ、お前が言ってもいいのか?」

『なんや気づいたんか? お前も日本に戻って心境の変化があったみたいやな』


 突如として再会してからも過剰なスキンシップ。変わらない奴。と能天気に構えていたが、それは好意を持つのなら当たり前の行動なのかもしれない。


『アイツはお前の事好きやで。LIKEやのうてLOVEや』

「それはどれくらい?」

『わざわざ、サン達を置いて日本にお前を追いかけるくらいや』

「――――」


 そう言えば、昨日の猫耳事案の時のダイヤの様子はおかしかった。

 最初はマックスの入れ知恵にまんまとのせられたのかと思ったら、珍しく羞恥心を出していたし、風呂には入って来ようとするし――


「どーしよ」

『なんや? 別に困った事はあらへんやろ。あのビックバストを好き放題出来るんやで』

「……てめえ、最低だな」

『今、ちょっと考えたやろ』


 マックスの笑いながら告げられる言葉がモロに刺さる。そりゃ男なら美女で巨乳のダイヤに言い寄られて悪い気はしない。しかし、


「オレはアイツの事は愛せないんだよな」

『なんや? 他に好きな奴でも居るんか?』

「いや……オレの問題」


 今の状態では好意を寄せられても本心からソレ答えて、愛するは出来ないのだ。


『起たんのか?』

「ちげーよ。オレはアイツにはそう言う気持ちは抱けないって事」

『なら、それをはっきり言えや。そうしなかったから、そこまで追いかけて来たんやで』

「うむぅ……しかし、ダイヤがオレに気があるなんていつからだ?」

『普通は好きでもないヤツを実家カントリーには連れていかんで』


 と言うことは……向こうに着いて二ヶ月後じゃねぇか!


「片思い歴長くない?」

『お前はちょっと鈍すぎや』


 その後、マックスにフォスター三姉妹と連絡を取って貰いスカイプを繋いでもらった。






 飛行機が飛ぶ。それを見上げた私は彼方へ消えるまで目が離せなかった。


「あーあ。やっと帰った帰った」

「……リンクは少し寂しいです」

「明日から着替える時間と場所に気を使わなくていいんだっけ?」


 妹達は各々で彼の居ない生活を想定していた。これが日常で当たり前。三年前の私たちなのだ。

 妹達との絆。大切にするべきモノ。なら、この心が欠けた様な空虚は何なのか。


「! ダイヤお姉様!? どうしたんですか!?」


 サンの言葉に私は涙を溢している事に気がついた。


「まさか……ニックスが何か――」

「違うヨー」


 私は確かめる様にサンを抱きしめる。あ、ちょっと、人目が~、お姉様ぁ~、と愛くるしく悶える妹に私は満たされる。


「ダイヤお姉様。リンクもー」

「カモーン」


 わー、とリンクも飛び込んで来る。ミストは私の見ていた方角を見ていた。


「ミストもカモン」


 ぽふっ、とミストも私達の輪に入ってくる。

 四人の絆。この中の誰かが欠ける事は考えられない。妹達がいる。それだけで私は――


“ダイヤ、オレは帰るよ。ここにはオレは必要なさそうだからな!”


 ――そんなことない。


 心に欠けたモノは何なのか。彼が居なくなった生活に戻った事で私は気がついた。

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