第115話 スプ○トゥーンもあるよ!
オレと轟先輩は火防議員を見送る事になった。ダイヤと社長は共に坂東さんへ料理の感想を伝えているのでこの場にはいない。普通はこっちが優先だと思うけどなぁ……
「鳳君。ダイヤの様子はどう?」
「ちょっとスキンシップが過剰ですけど……馴染んでますよ。社長の厳選だそうで」
「まぁ……ちょっと運任せな所もあったけどね」
「……」
オレと轟先輩は意外と接点がある。彼女はオレが海外支部にいたとき、現地の進行状況を確認に度々訪れたからだ。その際にダイヤや他の面々とも知り合いなのだ。
「ヴェイグやマックスでも良かったんだけど、ダイヤがどうしてもって」
「そうなんですか?」
「うん。それで社長が、私に勝った者が日本行きだ! って言って……」
「はは……」
「……」
あー、もう社長は愉快な人でいいや。それよりも轟先輩。隣に立っている火防議員を無視しないであげてください……妙な圧力でオレが汗だらだらなので……
「彼女は3日程の滞在するから、面倒をお願いね」
「いいですけど……」
「カンナ」
「……何でしょうか? 火防議員」
ひぇっ……
「たまにはジローに会いに家に帰って来い」
「……社長を呼んできます」
え? 行っちゃうんですかー、轟先輩――
「鳳、と言うのか?」
「は、はい……
オレは遅れながらも名刺を差し出した。緊張のあまり、相当震えている。すると、火防議員も内ポケットから名刺を取り出し、交換した。
「火防剛三郎じゃ。鳳君、一つ聞いてもええか?」
「な、なんでしょう?」
火防議員はオレの名刺を見ながら聞いてくる。
蛇に睨まれた蛙の気持ちだ。オレは失礼の無い様に火防議員の質問に全神経を集中する。
「『神島』の姓を持つ、親族はおるか?」
「いません」
オレの即答に火防議員は、そうか、と何かを考える様に口を閉じた。
「……」
気まずい……。轟先輩……早く帰って来てください……
「気にならんか?」
「な、何がでしょう?」
「あの子とワシの姓が違う事じゃ」
「それは……知ってます」
「ほう」
政界は多くの派閥があり、何かしらの失態を狙い続けているらしい。その為、身内に被害が及ばぬ様に離れて暮らす家族にはなるべく繋がりを薄くするのだとか。
「政治家さんの間では色々とあると言う事ですよね?」
オレは、ははは、と愛想笑いで乗り切る! 乗り切れ! 頼む……
「国を弾き返す、ここなら安心できるからのぅ」
「え?」
火防議員の意味深な発言。すると後ろから、
「ニックス!」
「お待たせたました。火防先生!」
轟先輩が社長とダイヤを連れて来てくれた。すると、火防議員はダイヤを見て、
「外人の姉ぇちゃん」
「ン?」
「この会社はどうじゃ?」
げっ! よりにもよってこの中でダイヤにその質問しちゃいます?
「グッドカンパニーネ。エージェントヒブセもここでワークすれば解リマース」
「――そうかい」
「それに、ニックスも居るネ!」
と、ダイヤはオレの腕を組んでくる。ふくよかな胸の感触よりも、火防議員の反応が気になる。
「はっは。鳳君、女難の相が出ておるぞ」
「はは……気を付けます」
何も否定できねぇ……
ケンゴとダイヤは、一礼して先に仕事に戻った。
残った黒船と轟は火防と土山の乗った車が見えなくなるまで見送る。
「少し疲れたね。カンナ君」
「……」
車が見えなくなってもその方向を見ている轟に黒船は声をかける。
「名残惜しいかい?」
「え!? そ、そんな事はありません」
「ふっはっはっ! 三年前の事なら気にしなくてもいい。君は君。彼は彼だ」
「……はい」
轟は嬉しそうに微笑む。黒船は彼女と火防の関係は知っていた。
「それに親と話せるのは居るうちだけだよ」
「あ……ごめんなさい」
「気にしちゃいないさ! 私にとって社員の皆が家族のようなモノだからね!」
黒船は誰もが眼を背けたくなるような地の底を見てきた。父親に呼び戻されなければ、まだ世界を回っていただろう。
「国のトップか。現実的ではあるな」
「……王城総理はご高齢です。政権交代の時期はそう遠くないでしょう」
「阿見笠議員がサポートをしている様だが……時間はあまりないか」
ここ数年が勝負だ。足場を固め、横の繋がりを強めなければ。タンカを切った手前、醜態は晒せない。
「忙しくなるぞ! カンナ君!」
「本日のスケジュールはもうありません。明日の予定を繰り上げますか?」
「いや、今日は休もう。私に付き合わせて20連勤目だろう? 君もたまにはゆっくりしたまえ! 家賃が勿体ない!」
「あ……は、はい」
明らかに気落ちする轟。その様子から、ふむ、と察した黒船は、
「カンナ君。色々やるのは色々終わってからだったね! 丁度いいから色々やろうか?」
「――え? ええ……ええ?! しゃ、社長……それって――」
「ふむ……君が色々やりたくないと言うなら、この発言はセクシャルハラスメントだな! 七海君に殴られる制裁で済ませて欲しい!」
「あ! いや! だ、大丈夫です! です! い、色々――や、やりましょう……」
ふしゅー、と顔を赤くして湯気を出す彼女に黒船は笑った。
「よし、私の家でスマ〇ラをしようか! スプ○トゥーンもあるよ! テレビと本体も2台ずつだ!」
「…………はい」
ガクッと轟は肩を落とした。
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