第116話 ワオ、これヤバイヤツヨ

「それで、3課の業務は基本的には2課と1課のサポートだ。まぁ、向こうでやってる補佐を尖らせたような感じだ」

「フムフム」


 午後になって3課に戻ったオレは新人研修で使う簡単な資料を見せながらダイヤに3課の業務内容を説明していた。


「新人研修や社外調査なんかも3課の仕事だな。来客用対応も一応は範囲内だけど、2課や4課に引き継ぐ場合が多い」

「シャガイチョーサ?」

「社員旅行とか年末の忘年会の日取りや会場の選定……まぁ、会社がやるパーティーの段取りだな」

「オゥ! パーティー! いつやるデス!?」


 無茶苦茶食いついて来やがって、お祭り娘め。


「10月だ。参加者を募る形だが、過半数揃わなくて流れる場合が多いな」


 社内旅行は参加する人は少ない。まぁ、休みの日まで会社の人と付き合うのは余程の物好きだろう。オレは毎回参加希望を出していたが。


「向こうでもやったろ?」

「クラウザーのホーム前BBQは毎週ヤッテマス」


 そういやそうだったな。海外支部のチーフは何かとお祭り好きだから、ダイヤやオレとは気が合うのだ。


「ザンネンネー」

「お前が交換派遣の要員になればいいじゃん」

「ンー、まだミスト達は心配ネ」


 自分の事は二番目であるダイヤは常に妹達の事を気にかけている。


「それに、ニックスと入れ違うのも嫌デース」

「だからオレは行かないって」

「鳳君、様子はどう?」


 背後から鬼灯先輩の声。復活したようで何より――


「……鬼灯先輩。どうしたんですか?」


 振り向くとマスクを着けた先輩が居た。明らかにキスを警戒している。


「気にしなくていいわ」

「そ、そうですね」

「シオーリ。それ息苦しいネ?」

「息苦しくないわ。ダイヤさん」


 マスクのおかげか、奇襲キスを受けたにも関わらず距離は近く接している。


「ソーリー。ワタシ、ヒジョーシキデシタ。ジャパンにはジャパンのルールあるネ」

「そうそう。出会い頭にキスなんてしねえの」


 やるとしても頬だろうが。ダイレクト決めやがって。


「フフ。私も少しびっくりしただけだから。でも、他の人にはやったらダメよ?」

「YES」


 そうだった。今は平然としているが、先輩は倒れたんだよな……


「先輩、大丈夫ですか?」

「大丈夫。心配しないで」


 そう言って、いつも通り笑う鬼灯先輩。しかし、どこか疲れているのは気のせいではないだろう。


「そう言えば、ダイヤさんは滞在中はどこに泊まるの?」


 そういや、そうだな。まぁ、ホテルとかだろう。


「ネットカフェデース! ジャパンのコミックを徹夜で読み漁りマース! プレジデントも、イイネ! と言ってくれマシタ!」

「……鳳君。彼女泊めてあげて」

「……そうですね」


 このアホからは四六時中目が離せん。






「さて……今日はどうするかな」


 帰りの電車に揺られながら、リンカは夜の献立を考えていた。

 ローテーション通りなら一番遠い一品を今日に持って来るのがベターだが……


“もっとください”


「――ふふ。しょうがないなぁ」


 一つは肉じゃがに決めた。今日は母も帰るのは早いと言っていたし、誘ってみるか。


 リンカはLINEでケンゴへメッセージを残す。

 今日、夜ご飯たべる? と――


「よし」


 急な事なのですぐの返答は期待しない。無理でも作り置きして、お裾分けすればいい。

 帰りにスーパーに寄ってジャガイモなどの食材を吟味し購入、帰宅。そして、再度スマホを見る。


「?」


 既読はついているのに返事はない。いつもは何らかの返しをすぐにあるハズなのだが。

 長文を打っている最中なのか、仕事が忙しくて手が回らないのかは解らない。


「ふむ……」


 取りあえず、夕食の用意をしていれば何かしらの連絡はあるだろう。リンカはスマホをポケットにしまう。

 程なくしてアパートに着いたが、隣はまだ帰ってきてない様子。


「まぁ、その内くるか」


 制服を着替えて台所に買い物袋を置くと、とんとん、と夕食の準備を始めた。






「……どーすっかなぁ」


 オレは駅を出た所のコンビニでリンカからのLINEを受け取った。

 晩御飯のお誘いは嬉しい。いつもなら普通に返す所だが……


「オォ。ギアフェイス、ファンタスティックネ! カイドーもラストバーニング!」


 最新の週刊少年雑誌を立ち読みしている茶髪外人が居なければいつものようにお邪魔するのだが。


「はいはい。続きは買ってからな」

「ア! いいトコロなのニ~」

「レジに持っていきなさい。そんで、さっさと帰るぞ」


 ダイヤの注目度がハンパない。コンビニ内は勿論、外を通る人もダイヤには一目向ける。外見は美女でスタイルも良くて、尚且つ言動も派手な外国人だからな。


「あ……アイアム」

「日本ゴでOKヨ」


 レジの店員さんの絞り出す英語に微笑むダイヤ。袋は不要にして貰った。


「サン達に良いお土産デキタネ!」

「雑な土産だなぁ」

「ジャパンコミックの展開気になるヨ!」


 原作が日本の漫画は海外だと一年ほど遅れて掲載される。オレもアメリカに行った時、愛読していた某海賊漫画のかなり昔を掲載していた時は、異世界転移した主人公みたいに先の展開でマウントが取れたな。


「このタメに日本語、マックスから教わったネ!」


 オレも日本に戻った当初は浦島太郎状態だった。海外だと、和の国編に入ったばかりだったが、帰ってきて見れば、カイドウと最終決戦最中だったし。


「ダイヤ。一言言って置くが、あんまりドタバタするなよ」


 ダイヤは滞在分の私物をキャリーバックに入れてゴロゴロと引いている。

 色々と相談してみたが結局の所、日本に滞在する間はオレの部屋に居ることになったのだ。


「マックス、言ってタヨ。ジャパンのモルグ、壁薄い、ロマンっテ」

「マックスのヤロウ。意味わかんねぇ事教えやがって」


 変な知識を教えんな、あのエセ関西弁野郎。ダイヤは純粋な娘なので信用しちまうだろうが。


「ア! ニックス! キャット!」


 すると、アパートからの出迎え猫のジャックが塀の上から見てくる。


「猫のジャックだ。大家さんは――」


 ジャックは塀のから降りるとそのまま、ととと、と走っていき、一人の老人の元へすり寄る。


「おや? お帰り、ケンゴ君」


 そこには片眼鏡モノクルにアロハシャツに秘境の部族が作ってそうな獣の骨の首飾りを着けた老人が立っている。


「また……凄い格好ですね。赤羽さん」


 明らかに不審者にしか見えない彼――赤羽大河あかばねたいがはこのアパートの管理者にして大家さんであった。

 すると、赤羽さんは一枚のコインを弾いて飛ばしてくる。オレはそれをキャッチ。


「お土産」

「……なんですかこれ?」

「アステカの古代コイン」

「ワオ、これヤバイヤツヨ」


 霊感の強いダイヤが言う。どこで手に入れたんですか……

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