第95話 ユニコ君とテツ(42)
リンカと大宮司君が降りた駅は、オレもヒカリちゃんも立ち寄らない駅だった。
しかし、大宮司君は知っている様子でリンカと共に一つの商店街へと入って行く。
「ほー、こんな所に商店街があったなんてな」
この様な商店街は大型デパートに追いやられるイメージがあるが、意外にも活気に溢れていた。
「わたしも知らなかった」
来なければ知る良しもない。
商店街には、この近辺の学生などが食べ歩きしている様子で、ちらほらと知らない学生服を確認できる。すると、あるモノを見たオレは全身に雷が走った。
「なん……だ? ありゃあ――」
白い肌に額に生える角。尻尾に蹄。それがずんぐりした体型で動き回り、商店街を通る客に全身を使って愛想を振り撒いていた。
「白馬のゆるキャラ?」
「白馬って言うより……ユニコーンかな」
馬には無い頭部の角と言う特徴から架空の生物であるユニコーンに思い至る。
「お二人さん」
すると背後からの声。オレは、おのれ何奴!? と振り向き、ヒカリちゃんは、きゃっ!? とその声に短い悲鳴を上げてオレの後ろに隠れた。
「小生は名はテツ。この界隈のナビゲーターと思って頂ければ」
現れたのはテツと名乗る中年の男。小太りで眼鏡。魔法少女リリリがプリントされた服を公衆の面前で平然と着こなす強者である。ちなみにヒカリちゃんは、うわー、とちょっと引いていた。
「テツ……何歳?」
「42」
テツの年齢を知って、うわぁ……とヒカリちゃんはもう一度引く。さすがにそれは失礼だよ。
しかし、テツはさほど気にする様子なく、ペコリと頭を下げる。
「JKよ。小生はその眼を幾度と向けられて生きておる。今さら怯むと思うなかれ! それどころかご褒美――」
「それ以上余計な事を喋ったら通報しまーす」
ヒカリちゃんの言葉に、すみません、と土下座するテツ。ヒカリちゃんはオレの影に隠れたままテツとの距離を一定に保っていた。
「それで、あのゆるキャラは?」
「あの方の名はユニコ君。この商店街を救ったとされる英雄、だ!」
なん……だって? 英雄? アレが? 蹴り倒したら自力じゃ起き上がれそうにない体格をした……アレが?
「作ったらお客さんが来るようになったとかでしょ」
ヒカリちゃんが一般的な結論を述べる。まぁ、深く考えなくてもそうだよね。
しかし、テツはチッチッチッと、素人の考えだと言いたげに指を動かした。ヒカリちゃんは少しイラっとする。
「かつて、この商店街は二つのヤクザ組織を挟むシマだったの、だ」
テツは腕を組み電柱に背を預けて語り出す。オレは少し興味が出たが、ヒカリちゃんは、終わったら言って、とリンカたちの動向を注視する。
「二つの組の縄張りに挟まれた商店街。抗争による怒号は絶えず、客足も遠退き、人々は怯え、去っていく者も多くいた。そして、ある日二つの組織はケリをつけるべく動き出し、この商店街が戦場と化す……その時!」
「その時?」
オレは一度、息継ぎをしたテツに聞き返す。
「ユニコ君が現れたのだ! 二つの組織を隔てる様に……そのど真ん中に!」
「……アレが?」
「うむ」
オレは商店街に買い物に来た母娘の子供に愛想を向けているユニコ君を指差す。
「……中に人居るよね?」
「ふっ……それは野暮な言葉、だ」
ユニコ君。あぶねぇ事してるな。いや、中の人か。
「二つの組織はいきなり目の前に現れたユニコ君に最初は物怖じしたがすぐに持っている刀と銃を向けた」
死んだなユニコ君。
「しかし、ユニコ君は両方の組織に殴りかかったのだ!」
「ぶっ!」
思わず吹いた。仮面ラ○ダーでさえ、ポーズ決めてから攻撃を仕掛けるのに。
「そこからはちぎっては投げ、殴っては倒し、蹴っては踏みつけ。それは戦場を駆ける赤兎馬の如く、身体は返り血で染まった!」
暴れ馬かよ。ユニコ君、狂暴過ぎるだろ。
「そして、ユニコ君は勝者の様に佇み。その身体には刀傷や銃弾の痕が残ったと言われている」
「いや……でも流石にそれは嘘だろ?」
ゆるキャラにあるまじきヤベー過去。普通に考えれば常識外も良いところだ。と言うか……まともな神経のヤツなら着ぐるみ着て、ヤクザの前になんて立たない。
「今から50年程前の話だが……真実、だ!」
さっきからテツが台詞の後ろに度々“、”をつけるのは謎。当時の中の人生きてるかなぁ。
「その後、商店街はあらゆる組織にとって争いを許されない
続きは気になるが、それよりも一つ聞いて起きたい事があった。
「何でユニコーンなんだ?」
「それは永遠の謎、だ!」
「わからないのね」
まぁ、50年も前の話ならそんなもんか。
「ちなみに鳴き声は、ユニコォォン! だ!」
あー、もう設定メチャクチャだよ。突っ込みどころが絶えないユニコ君。全てを知るには一日では済まないだろう。
「ふっ……それでは。『第二章 ユニコ君とヤクザとアウトロー』をお話しようか」
なんだソレ。超気になる――
「ケン兄! リン達動いたから行くよ!」
と、電器店のテレビでアニメを見ていた子供を強制的に引っ張る母親の如く、ヒカリちゃんはオレの手を引く。
「悪いな、テツ。オレ行くわ」
するとテツは、スッ、と一つの番号が書かれた紙を差し出す。
「小生の番号だ。全てを知りたければかけてくると良い」
「テツ……」
「ほら! 行くよ!」
あー、と引っ張られるオレに背を向け、テツも歩いて行った。
「それ、捨てて」
「え?」
「いいから捨てて」
ヒカリちゃんの異様な圧力にオレはテツの番号を捨てた。
すまねぇ、テツ。だが、お前とはまたどこかで会える気がする。
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