第92話 はっはっは!
「え? ちょっとリン! それホント?!」
昼休み。リンカは今日の放課後に大宮司に付き合う事をヒカリに話していた。
「そんなに驚く事かなぁ?」
「危機感が欠けてる! あの大宮司先輩だよ?! ヤクザともつながりがあるって噂の!」
「だからヒカリが思ってる様な人じゃないよ。先輩は」
「事情はあんたから聞いてるけど……やっぱり軽率よ! 何でそこまで信用できるの!?」
一般の観点から見ても大宮司は触れることも危険とされる認識が強い。何故リンカはこうも大宮司を信用できるのか、ヒカリには解らなかった。
「恩人だからだよ」
ケンゴを失って憔悴していたリンカは当時限界だった。しかし、大宮司に助けられた時にケンゴの事を思い出したのである。
「自分を犠牲にしてでも他人を助ける人は悪い人じゃないよ」
「あんたね……」
額に手を当てるヒカリ。しかし、彼女もそう言うことを平然とする
「まったく……もう」
と、ヒカリは自分のスマホに入ってるデータチップを取り出すとリンカに渡した。
「貸してあげるからスマホに入れておいて」
「何これ?」
「スマホから一ボタンでパパに直通するチップ。通話後はGPSにもなってパパのスマホに場所が指定されるわ」
「使っていいの?」
「今日必要なのはわたしよりもリンでしょ」
「ありがとう、ヒカリ」
親友を護るためにヒカリ自身も少ないながらに手を打つことにした。
「お、よう! 鳳!」
昼休憩の最中。トイレから会議室へ戻るオレは螺旋階段を登っていると、廊下側から声をかけられた。
「うぉ!? 出たな!」
それは眼鏡の田中。ヤツも
「あ、いや。ホント祭りの時は悪かったって。すまん」
両手を合わせて心から謝罪している様に見える。完全に二人きりなので、佐藤の時よりは信用出来ないが……毎回毎回逃げるのも疲れる。箕輪ロックが効いている事を祈ろう。
「詫びに今度なんか奢るよ」
「他に誰か誘って良いなら」
「おっけ。そんじゃ決まり」
と、まぁ。普通なら良い奴なのだ。
「それはそうと、ウチの室長を見かけなかったか?」
田中は自分たちの研究室のトップの人間を捜しているらしい。
「昼休みだろ? 飯とか?」
「いいや、あの人は仕事中に早弁するんだよ。俺らが仕事してる横でな」
「……それって大丈夫なのか?」
なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「まぁ、俺らの研究室の頭脳を八割占める人だからな。俺らは手足兼、首輪役」
優秀だと優遇されるのはどこも同じか。
「やぁやぁそこの人ー」
すると、螺旋階段の手摺を滑り台の様に一人の女の子が、しゃー、と滑ってくると、オレの目の前で、キキッ、と止まった。
十代前半のような姿。首には魔法少女のアイマスクを垂れ下げている。
「説明会に居た子だね。ワタシは半分寝ていて聞いてなかったが毎年ご苦労様。
え? なにこのエンカウント。いきなりヤベーのに遭遇したんですけど……
「国尾室長! 見つけましたよ!」
「む! 田中君か!」
「エレベーターは全員張ってますからね! 今度は持参のムササビスーツで屋上から社外に逃げられませんよ!」
「はっはっは! 捕まえられるかな? 二十代のヒヨッコの分際でこのワタシを!」
そう言うことで! と、女の子――国尾室長は手を上げると、しゃー、と滑って行った。
田中は勢いよく手摺まで走って出てくると、すいー、と下へ行く国尾室長を見下ろしつつ、腰の無線を口に当てる。
「おい、佐藤! 螺旋階段だ! 下に行ったぞ! 捕まえて説明会に連行しろ!」
『了解』
『了解ッス!』
「はっはっは! 何のために室長にまで登り詰めたと思っている? これをするためさー!」
「クソ! 大学時代からちっとも変わってねぇ! じゃあな、鳳。説明会には絶対に連れてくる!」
「お、おお……頑張れよ」
そう言うと田中は無線で連絡を取りながら螺旋階段を降りて行った。
何かと開放的な国尾姉弟の一幕を垣間見た。同じ名字だなぁ、と思っていたがまさか姉弟だったとは。しかも姉。DNAの配分はどうなってんだろう?
国尾さんの系譜に振り回される苦労はわかる。オレらの場合はケツを護らにゃいかんが、こっちはケツを追いかける側か。
「まぁ、頑張れよ。田中」
変に動いて更なる魑魅魍魎に遭遇する可能性を考えると、残りの昼休みは説明会の部屋で過ごした方がよさそうだな。
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