第14話



「あぁ、朝から忙しいな……」


 俺は朝から朝食の準備に奮戦している。


 家に住む家族が3人も増えてしまい、しかも楓が絶世の美女なものだから真夜姉ぇと綾のツッコミは激しかった。しかし、住む家のない3人を放り出すわけにもいかなかった。


 ウチで暮らしてもらうということを説得するのは大変だったが、無事に今は5人で暮らしている状態だ。


 今日は真夜姉ぇと綾は来れないと言っていたので、俺は朝からみんなの朝食を作っていたのだ。2人だったのが5人に増えた今では準備の手間が段違いに多くなった。


 そして当然のようにほとんどの者が家事を手伝わない。楓だけが俺の手伝いをしてくれるのだが、まだ慣れておらず、現状は俺が一人でほぼ全てこなすしかない。まぁ、サキや楓が俺の血を吸ってくれると何故か体が軽く、何でもできるような感覚になるので助かっているといえばたすかっているのだが……。


「さてと、朝食の準備も整ったな。みんなを呼びに行くか」


 我が家はまだ空き部屋があったので皆が寝る分には問題なかったのだが……。


 庭に行くと、ごうあきらがいた。剛は朝から庭で岩をサンドバッグ代わりに殴りつけている。顕は黒い影を出して撫で回し、ペットでも飼っているかのように可愛がっていた。


 基本的にこの二人は部屋で寝るという習慣もなかったので庭で寝泊まりしている。二人とも庭の真ん中で豪快に野宿しているのだが、雨や風は顕の黒い影がテントのように変形し二人を守っているのだった。


「おーい、二人とも、朝食ができたよ〜」


「フム、ちょうどいい頃合いだ。身体に栄養を与えるとしよう」


 この剛という男は根本的に脳筋で、いつもトレーニングに余念がない。しかも、庭に岩なんてなかったはずなのに、どこからともなく拾ってきては背中に乗せて腕立て伏せをしたり、パンチを打って鍛えている。そして、砕け散ってはまた拾ってくるので、いつのまにか、庭は砕けた小石で敷き詰められてしまった。雑草を取る手間が省けているのは助かるけどね……。


「クヒヒッ、じゃいってくるか、ミチル、ヨシコ、カオリ、いい子にしてろよ?」


 顕は影の一つ一つを名前で呼んでいる。どこからどうみても同じ影にしか見えないのだが、それをツッコんでしまうと、拗ねて口を聞いてくれなくなる。脳筋の剛ですらその点には注意を払っているのだ。


 そして、影に話しかけ、撫で、餌(鳥や豚の肉が好きらしい)を与え、可愛がっている。その姿は偏執的といっていいだろう。当人いわく、”世界で一番影を愛する男”だそうだ。


 俺は楓を呼びに庭の隣の部屋の前に立った。


「楓さん〜、朝ごはんですよー。そろそろ起きてくださいね」


 するすると戸が開いていく。


「んぅ〜、もう朝ですの? ふぁ〜〜あ」


 俺はとっさに眼を反らし、後ろを向いた。楓は一糸まとわぬ姿で出てきたのだ。


「か、楓さんっ、家の中では服を着てくださいって言ってるじゃないですか」


 楓は寝るときに裸で寝るらしく、最初はビックリしてしまった。そうでなくても家の中では薄着であったり、胸元が大きく開いたピチピチのシャツを着たりと自己主張が激しい。俺も一緒にいるだけでドキドキしっぱなしなのであった。


「あら、ご主人様ったら、私のことは楓と呼び捨てにしてくださいっていつも言ってるじゃないですか」


 楓は後ろ向きの俺に身体を密着させ、腕を廻し、豊満な胸をギュッと押し付けてくる。


「か、かかか、楓さんっ」


 俺はあまりの展開に頭がついていかず、身体が硬くなってしまう。


「ご主人様、えぇ、朝ごはんもいただきますが……、アレもいただきたいのです。……その……はしたない女なんて思わないでくださいね。ご主人様の熱くてドロドロしたアレ……また、欲しいな……」


「わ、わかりました! わかりましたからっ、早く服を着てくださいっ」


「ふふっ、ご主人様ったら……かわいいのね」


「あぁ〜、主ったら! 何やってるのよ! 朝からそんなに鼻の下のばしてっ!」


「あら、おはようございます、サキ先輩。今日もご主人様がアレを私にくださるって言ってくれた所なのよ」


「え〜〜っ! 昨日も楓だったじゃん! ずるい〜〜今日は私の番でしょ?」


「あ、あぁ、わかったよ。サキも後でな」


「むぅ〜っ、対応が雑っ! 訴えてやるんだから!」


「訴えるって、え? 誰に?」


「真夜ちゃんと綾に言いつけてやるんだからっ!」


「そ、それはダメっ、話がややこしくなるからっ、なっ。そうだ。お昼にクレープでも食べに行こうか? おいしいお店を教えてもらったんだよ」


「わーい、主っ、大好き!」


「チョロいな……」


 前からタックルしてくるようにサキが抱きついてくる。二人の大きく柔らかい双丘がダブルで俺を挟む。俺の意識は今にも天にも昇りそうだ。


 これから騒がしい日々が始まると思うと不思議と楽しく思うのであった。

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