第12話



「すごい、俺の身体も重症を負ったと思ってたけど……」


 すっかり身体が動くようになって、手足をまわしてみても異常はなかった。もちろん、打撲も治っている。


「主はアタシと血の契約してるからさ、アタシの能力が少しだけ混じったんだと思うよ?」


「いや、ちょっとだけってレベルじゃないだろ?これ」


 回復力はもはや常人のレベルを遥かに上回っている。体力もかなりついているのだろう。


「でもさ、戦闘力なんかはそのままだから、気をつけてね」


 心当たりがありすぎるな。確かにサキを抱いて走ることはできたが、あの男を相手に俺は何もできなかった。


「少しは戦闘訓練もしたほうがいいのかな?」


「あ、無理無理。主にそんなことできるわけないっしょ」


「い、いや俺だって男だし……」


「んー、でもなぁ」


「サキに今度なにかあったら……俺はオマエを守りたいんだ」


 口を半開きにしたまま、サキは固まってしまった。


「俺にもう少しでも力があったら……」


「でもさ、人間には限界ってのがあって」


 それを言われるとつらい。俺はあの男の動きもサキの動きも全く見えないのだ。


「ありがとう、主。そう思ってくれるだけで嬉しい……な」


 サキが俺の胸に頭を寄せる。フワリとサキの香りが漂う。俺はもうサキを一人にさせたくなかった。




「ね、主? サキにこんないっぱい魔力送って……もしかして子供がほしいの……かな?」


「ぶほっ」


 せっかくいい雰囲気で抱きしめていたのに、とんでもない発言が飛び出して吹き出してしまった。


「こ、ここここ子供って……な、なんのことかな?」


 いきなりの”子供欲しいの?”発言で俺は戸惑った。


「だってさ、あんなにいっぱい血を飲ませて……私の魔力がもうたぷんたぷんってなっちゃってるんだよ?」


「その魔力と子供が関係あるの?」


「あったりまえじゃーん。ほら、私みたいな魔族は魔力を貯めて自らの分身体である子供を作るのよ」


「えっ、そんなの初めて聞いたぞ?」


 今頃知らされる驚愕の事実に俺は開いた口が塞がらない。


「うそっ、主ったら気前よく血をくれるから……てっきりアタシの子供が欲しいのかと思ってたのに……」


 サキは残念そうに俯いた。


「ごめんな、サキ。俺、全然そんなことも知らなくて……ってか、もしかして今まで俺はサキと子作りしてたってことになるのか?」


「もぅ! そんなデリカシーのないこと言って。アタシをその気にさせたくせにっ、もう知らないんだから!」


 部屋を出ていこうとするサキの手を掴んだ。


「待って、サキ」


「いやっ離してよ、主なんて知らないっ!」


 強引に俺の手を振りほどこうとするサキだったが、俺も体力がついたせいでなんとか掴めている。


 サキが強引に部屋を出ていこうとしたとき、俺の足がドアの隅に引っかかってしまった。


 勢い余ってドタッ、っと二人で倒れ込んでしまう。


 口に柔らかい感触がふにふにと当たり、温かい息を感じた。目を開ければ、サキとキスをする形になってしまっていた。


 しかも手はサキの豊満の上にしっかりと掴みかかっており、指の間から柔らかい肉がはみ出ている。


「〜〜〜〜〜〜ッッッ!」


 サキの顔がみるみるうちに朱くなっていく。


 俺は目前にサキの顔が来たことの驚きで動けない。


「ちょっ、離してよ〜っ」


「あ、あぁごめん」


起きようと手を動かしたらサキのたわわに手が沈み込み、力が入らない。もぞもぞとサキの胸を揉んでしまった。


「きゃあああああっっっ、なにすんのよっ!」


 サキから思いっきり平手が飛んできた。サキの上でもぞもぞしている俺にそれを躱すすべなどない。まともにくらい意識がプッツリと途絶えてしまった。


   *


「あぁ〜、平和だなぁ」


 ここ最近は何も起きていなかった。あの男達もみかけないし。ずっとこのままの平和が続けばいいのだけど……。


 あれからサキと子作りの話をした。もちろんお互いの誤解を解くためだ。そうしてわかったことは、どうやら血をたくさん与えるというのが、魔族の子作りとして定番ということだ。人間のように愛し合うということはないとのこと。ちょっと残念。


 まぁ人間の身体を模して変身しているそうなので、人間のようにできることはできるかもしれないと言っていた。あと、サキはキスをするのが人間という種族の子作りの行為だと勘違いしていた。テレビじゃキスまでしか写さずに、子供できたりするからな。それで、あの時、キスしてしまったのが恥ずかしかったらしい。


「やるならちゃんと言ってからしてよね!」


 なんて言われてしまった。言えばいいのだろうか?


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