第9話


「よーっす。なぁなぁ聞いてくれよ? こないださ、隣町に行ってたんだけど、カワイイ娘達がいたんだよ。うまくカラオケ一緒にいってきてさ」


 朝から女の話をしてくるのは当然、悪友の鳴門しかいない。


「朝から新しい女の話しか、ブレないなオマエ」


 ホント、盛んな奴だよ。


「まぁそう言うなよ。でもよぉ、こないだ言ってた外国人の美少女なんだけどよ……」


 俺は内心ビックリした。鳴門はまだサキのこと探してたのか。


「あれからさっぱり見かけなくってさ。今度会ったら絶対に電話番号ゲットしてやるんだけどなぁ」


「そ、そっか。最近は出歩いてないんじゃない?」


「ん? なんで京がそんなこと知ってんだ?」


「知ってなんかないよ。ただの勘だよ」


「ふーん、なんか京の勘って当たりそうなんだよな。ま、いいか。よし、今日からは隣町を重点的にナンパすっかな。京もどうだ?」


「俺は間に合ってるよ」


「お?彼女でも出来たか?」


 内心ドキリとした。が、サキは彼女ではないのだ。同棲はしてるけど。


「それこそまさかさ。俺だってせっかく一人暮らし始めたんだから、彼女つくって家で遊びたいって思ってはいるんだけどさ」


「ま、京は性格も悪くねーし、顔もソコソコだから、頑張ればすぐなんじゃねーかな。それに家があるなんて……うらやましいよ」


そうこうしているうちに学園の始まるチャイムが鳴った。


「お? じゃまたあとでな」


 鳴門は勘がするどいから、言葉を選んじゃうな。恋人でもない女と同棲してるって言ったら騒がれそうだし。黙っておくのが吉だろう。


   *


 学園の帰り道。ふとサキと出会った公園の近くまで来ると、見慣れた女と出会った。


「やっほ〜、主」


 サキが片手を上げて挨拶してきたのだ。しかも機嫌が良さそうだ。


「サキか、めずらしいな。外出してるなんて」


「あ、いつも引きこもってるって思ってるんでしょ?これでも軽く散歩くらいはしてるんだからね?」


「そうだったのか」


 サキと出会ってからというもの、外に出ているのをほとんど見たことがなかったので、驚きの新事実だな。


「ん。今日は主と歩きたいなって思ったの」


 嬉しいことを言ってくれる吸血鬼だ。本当に人外であることが悔やまれる。


「じゃ一緒に買い物してから帰ろうか? 今日はカレーにしたいんだ」


「わーい、主、だいすき〜」


 サキはすぐに俺の横に並んで、手を繋いでくれた。しかも、指を交互に合わせる恋人繋ぎってやつだ。俺はまた一つ夢が叶い、感動に胸が震えてしまう。


 ゆっくり公園を歩いてそろそろ出口に差し掛かるころ、木の陰からゆらりと人影が現れた。


 それは大柄な男だった。髪はオールバックにまとめ、鋭く細い目で明らかにこちらを睨んでいる。ブラックスーツを着こなし、髪型と相まってとても威圧感を感じる見た目だ。体格がよく、スーツから覗くYシャツがパンパンに張っている。


 なんとなくだけど、また巻き込まれる……流れなのか?


 サキを見るとその男を凄まじい形相で睨んでいた。


「サキ、あいつは?」


「主〜、ごめんね。お買物いくのちょっと遅れそう」


 男はゆっくりと歩いて近づいてきた。


「我の弟の操り人形が貴様に接触したとのしらせがあって来てみたが、正解だったようだな」


「あの気色悪いオッサン達のこと? ホントに趣味悪いんだから」


「フン、吸血鬼の王女よ。恨みはないが我が姉君のため、消えてもらう」


「まったく、懲りない奴らだよ? 私はもう平和に暮らしてるんだからほっといてくれればいいのに」


「そうはいかん。オマエを倒し、我の姉貴が魔族の新たなる王女となり、君臨するのだ」


「はっ、ほんとにくらだない」


 なんか二人とも知り合いのようだけど、いまにもドンパチ始まりそうな雰囲気だ。な、なんとか逃げなきゃ‥‥。


「貴様、この女のつがいなのか?」


「番?そういうのじゃないですけど……」


「そーだ、この方を誰と思ってんだ! アタシのご主人様なんだぞ!」


「……ほぅ。興味深い」


 男の周りに黒いモヤが浮かび上がった。


「面白いことを言う。その吸血鬼と契約でもしたのか?」


 黒いモヤは男を中心に渦巻くように動き、今もその範囲が広がっていく。


「くっ、サキっ、な、なんとか逃げれないのか?」


「もう無理だよ。アタシが戦うから主は後ろに下がってて」


 俺にはわかってしまった。あの男は強い。男の周りにかかっているモヤは魔力ってヤツだろう。その魔力が周りの空間を歪め、視界がぐにゃりと曲がっていく。


 気がつけば俺の足もとまで奴のモヤに包まれていた。俺の膝はガクガクと震え止めることができなくなっていた。


「ふん、おもしろそうな男だ。女を倒したら姉貴に献上するとしよう」


そう言うと男の姿が一瞬で消えた。サキの目の前に火花が散った。こんな夕暮れの公園に似つかわしくない光景が繰り広げられる。男は素早くパンチを繰り出し、サキは軽く手で払いつつ蹴りで反撃していた。


 尋常ではないのは威力だろう。サキの蹴りを男がかわすと後ろにある木の幹がゴスッと鈍い音を立てて変形し砕けていく。


 男のパンチも凄まじい速さだった。長身から繰り出されるパンチは上から超スピードで振り下ろされ、サキが手で払って躱すとアスファルトがクレーター状に割れた。


 正直、どちらが有利なのか全くわからない。だがサキの表情には笑みが浮かんでおり、余裕が感じられた。


 そうこうしているうちにサキの蹴りがようやく一発入った。男は8メートル以上後ろに吹き飛んだ。が、まだしっかりと足で立っている。


「ぐぅ……」


「もうそのくらいにしておいたらどう? じゃないともっと痛い目に遭うよ?」


「相変わらず強い蹴りだ」


「ふ〜ん、まだ懲りないんだ。じゃちょっとだけ本気だしてあげるね」


 赤いモヤがサキの身体を覆った。先程の男が見せた魔力のモヤよりも遥かに大きく、濃い密度でサキの周りを漂う。


「こ、これは……。くっこれほどの魔力を隠し持っていたのか!」


 男の声色が始めて変わった。


 サキの身体が消えたと思うと男の腹に蹴りが当たっていた。


「ぐああああッッッ」


 男は軽く30メートル以上は吹っ飛んだのではないだろうか?相当な距離を吹き飛んで遠くの地面に転がっていた。


「さ、逃げちゃお? あんなタフな奴、相手にしてらんないからさ」


「あ、あぁ」


 俺はそれだけ返事をするのが精一杯だった。しかし、あれだけ吹き飛ばされて死んでないなんて……なんて奴なんだろう。


 サキは俺の手を握ると走り出した。先程の蹴りを放った女とは思えないほど、その手は柔らかく、温かかった。


   *


「あ〜〜〜っ、お兄ちゃん。またそんな女と手を繋いでっ」


 家についたと思ったら後ろから大声で叫ぶ綾がちょうど来たようだ。


 っていうか真夜姉ぇも綾もホント毎日必ず来てるな。


 綾はサキを目で威嚇しつつ俺の腕にまた抱きついてくる。


「妹ちゃんはいつもうるさいねぇ」


「アンタは黙っててよ! お兄ちゃん? こんな女に騙されちゃダメなんだからね!」


 綾が右腕にギュッと胸を押し付けると、サキも負けじと左腕に胸を押し付けてくる。


「騙してなんかないよ〜だ。主と私はもう結ばれてるんだから!」


 サキの”結ばれてる”発言にはドキッとした。まぁ俺の望んでいる形ではなく、彼女が行った血の契約の話だってことはわかっていたとしても、ちょっと嬉しい。


「そんな契約なんかでお兄ちゃんを縛るなんて……お兄ちゃん、私ならそんな束縛なしでなんでもしてあげるよ?」


 綾は上目遣いに俺を見つめてくる。


 くっ、そんな目で見つめながら”なんでもしてあげるよ”なんて言われたら……男として一線を超えてしまいそうになってしまう


 ただでさえ、両腕がマシュマロに包まれたように気持ちがよく温かいのだ。ムラムラとした気持ちが嫌でも募ってきてしまう。当然のように今も前かがみの姿勢になってしまっている。


「あらあら、京ちゃんったらモテモテねぇ」


「真夜姉ぇ」


「お姉ちゃんも入れてほしいなぁ」


「い、入れてほしい?」


 家の中に入れてほしいってことかな? これ以上ムラムラしてきたらホントに爆発しそうだよ。


「と、とととりあえず、家に入ろう。ね?お茶でもいれるからさ」


 家の中に入っても、サキと綾は俺の腕にギュッと抱きついたままお互いを牽制しつつ譲らなかった。非常に動きづらいことこの上ないのだが、この腕に当たる気持ちよさといったら……永遠に味わっていたい、そう心から思えた。


「んもぅ、いつまで二人で京ちゃんを縛ってるのよ! これじゃ私だけのけ者みたいじゃない」


 真夜姉ぇは口を尖らせて二人に文句を言うが、二人の耳には全く届いているようには見えない。


「京ちゃんはお姉ちゃん大好きって言ってくれたんだから! ……えいっ」


 真夜姉ぇは正面から俺をめがけて飛び込んできた。両腕がサキと綾にくっつかれ、正面から真夜姉ぇの一番大きな豊満がギュとと押し付けられた。


 が、真夜姉ぇの飛び込んでくる勢いがあまりにも強すぎた。


「わ、わわっ」


 足がちょうど段差に引っかかり、後ろに向かって倒れ込む。


「う、うぅ。いててて」


 ふと目を開いた……つもりだったのだが、視界が真っ暗だった。何も見えない。辺りを見回そうと首を動かす。


 ふにふにと柔らかく重いモノに顔が当たっており、とにかくこれをどかそうとして手でつかんだ。


「やっ、主ったら。もう〜まだ明るい時間だよ?」


「あっ、お兄ちゃん。わ、私まだ心の準備が……でもお兄ちゃんなら……」


 な、なにを言ってるの? 君たち??


このままじゃ埒が明かない、首をグリグリと動かしてはいずるように上へ顔を動かした。


「んんっ、京ちゃんったら。甘えん坊さんなんだから。でももっとしたいようにして、いいのよ?」


 ぶはっ、やっと顔を柔らかいモノから脱出できた。なんだったんだ、まったく。って‥‥


 俺の視界に映るのは3人のおっぱいが6つ。そのどれもが巨峰である。それが俺の顔の前にズラリと並んでいた。


「な、ななななんだこりゃ〜〜??」


「んもぅ、主ったら甘えん坊なんだから」


「お兄ちゃん……好きにしても……」


「京ちゃん……もっと甘えてもいいのよ?」


 こんなの童貞の俺には刺激が強すぎた。


 あれから俺の上に乗った3人はお互いに言い争いを始めてしまい、その間ずっとおっぱいに囲まれたまま生地獄を味わってしまった。なにせ、こちらからは動けなかったのに、俺の股間はテントを最大張力で張りつづけているのだ。


 ちなみに3人がどいてくれてからもしばらく動けなかった。

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