第8話
「うおおおおっっっ身体がみなぎるっ!」
俺の身体は一体どうしたというのだろうか? 何をやっても全く疲れるということがないのだ。それどころか、とにかく身体を動かしたくてたまらない衝動にかられている。
あっというまにその日の家事を終えてしまったが、まだまだ何かをやり足りないのだ。力が有り余ってしまった結果、思わず家で叫んでしまった。
「主〜っ、元気になってよかったね」
サキは笑顔で言った。床で寝転がりながら。コイツはホントに変わらない。いつもどおりに何もせずゴロゴロと転がっているだけ。だが、今の俺にはそんなことは気にならない。
「なんか知らんがやる気が出まくってるんだ!」
「にゃはは、主ってば魔力が多いのはいいんだけど〜、あまりにも多くなりすぎちゃって、身体が濁っちゃうみたいなんだよね。定期的にヌいてあげるね」
「そ、そうなのか?それはありがたいな」
ぐうたらしてるだけかと思ったら役に立つじゃないか。俺はサキを見直してしまった。
その後も屋根の修繕などをどんどんこなしていき、忙しく身体を動かしまくっていると、玄関からインターホンの音が鳴るのが聞こえてくる。
たった今、掃除も終わってお茶を淹れ、一休みしようとしていた時だった。
「はーい、どなたですか?」
ガチャっと玄関のドアを開けると、真剣な目つきの真夜姉ぇと綾が立っていた。
*
「真夜姉ぇ、綾……」
「京ちゃん、綾から聞きました。あの女がいるんですってね……」
真夜姉ぇの口調がいつもより硬い。怒ってるんだろうか。
「あ、あぁ。すっかり家にいつかれちゃってさ……はは」
俺は頭をポリポリと掻きながら返事をした。真夜姉ぇの雰囲気がいつもと違うので、どんな態度で返事をすればいいのかわからなかった。
「そうですか、失礼します」
二人は俺を手で押しのけ、部屋に上がるとすぐにサキのところへむかった。
「アナタ、私の京ちゃんを食い物にするつもりでしょうけど、そうはいきませんわ!」
「ふにゃ〜? 主とは契約してるし、共生関係ってやつ? うまくいってると思うんですけど」
怒鳴る真夜姉ぇに対し、サキは寝転んだまま平静として答える。
「アナタは人間に仇なす吸血鬼の一族。兄さんを眷属にしてここを根城にするつもりなんでしょうけど、絶対に許さないわ! 私はアナタに宣戦布告をいたします!」
「ぶっそうな姉ちゃんだねぇ。あ、あと主を眷属化なんてできないよ? アタシが眷属になってるんだし」
「問答無用なんだから! アンタなんか追い出してやる!お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから! アンタなんかに渡さない!」
激昂する綾。これはさすがに止めねばならん。
「ま、まぁ待ってくれ。ここは穏便にいこう。な? 現に俺は元気にやってるワケだし」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
綾は俺すらギロリと睨みつけてくる。
おぉう、聞く耳もたずってやつか。
「まったくうるさいんだから〜、もう〜、せっかくアニメ見てたのに、興ざめだよ」
「ふっ、ふふ……ノンキにしていられるのも今のうちよ」
「主〜っ、主の姉ちゃん、なんか怖いよ」
「私、神城 真夜と綾はアナタたに決闘を申し込みますわ!」
「やだよ、めんどくさ。しかも2対1なんて卑怯じゃん」
真夜姉ぇまで激昂しちゃってるよ! サキは冷静だけど……。
「ムッキー! 絶対に追い出してみせるんだからっ」
ムッキーなんてリアルでは初めて聞いたな? しかし、綾、なんだその魔法陣みたいなのを浮かべて……おいおいちょっと待て!
「と、とととととりあえず落ち着こう! ほら、綾! 俺は問題ないし、その物騒なやつはとりあえずしまおうっ! なっ!」
綾を止めるつもりで割って入るつもりが、またしても足がもつれてしまった。
「うあっ、しまっ」
バッタ〜ン!
大きな音と供に倒れ込んでしまった。
床に倒れ込んだはずなのに顔には柔らかい感触で包まれている。
「ん? なんだこの柔らかいの」
手でこの柔らかいモノを確認するべく、色々触ってみる。
ふにふに……。
握ると柔らかいだけでなく温かい……。
顔をゆっくり上げた。
目の前には綾の豊満な双丘がって!?
「い、いやぁ〜〜〜っお兄ちゃんのバカっ! まだ早いんだから!」
振り抜かれる平手。ジンジンする俺の頬。
綾は胸を押さえながらすぐに立ち上がって帰ってしまった。
「あっ、綾ちゃん。ちょっと待って〜、もっと話さないといけないことあるのに!」
真夜姉ぇも綾を追いかけて帰ってしまった。
後には痛む頬を抑える俺と未だに寝っ転がっているサキが残された。
「いってぇ〜、胸をさわっちまったといっても偶然だってのに。ホント容赦ないんだもんな」
「にゃはは〜、主、顔まっかだよ?」
「誰のせいでこうなったと思ってんだよ……」
「主の運がなかったんじゃない?あ、でも妹ちゃんのおっぱい触れたんだから運が良かったのかな?」
「運が悪かったんだよ」
悪態はついたものの、柔らかい感触はまだ手にしっかりと残ってる。
「いつのまにあんなに大きくなりやがって……」
「主……かっこよく言ったってダメだよ? それすごくかっこ悪いからね?」
サキのツッコミはともかく、柔らかかったなぁ。
*
「主〜、夕飯まだ〜?」
あれから一週間たった。もちろん決闘などというものは起きていない。平和が一番だね。
「今できたよ。ほら、今日はグラタン作ったぞ。こっちおいで」
「わーい、アタシ、グラタン大好き!」
サキは我が家での暮らしにすっかり馴染んでしまっていた。俺も彼女を甘やかしすぎてる気がしなくもない……が、時おり濁った魔力を吸い上げてもらってるせいか、すこぶる調子がいいのだ。
今日もノリノリでグラタンに使うホワイトソースから手作りしてしまった。
「おいし〜! 主のグラタンすごい! こんなにおいしいグラタン初めてっ」
「おっ、そうか、そりゃよかった。頑張ってネットパッド見て作った甲斐があったよ」
グラタンをあっという間に食べ終わり、笑顔を向けてくれるサキ。俺は相変わらずサキの笑顔にドキドキする。サキは相変わらず食器の一つも洗ってくれないが、何故かうまくいっていた。
「ねぇ、主〜、今日はアレもらってもいい?」
「おお、いいぞ。いつでも構わないさ」
「わーい」
屈託のない笑顔で俺に近寄って噛み付く吸血鬼。サキが近づくと花のような甘い匂いが俺の鼻腔に満ちてくる。が、以前のように緊張で動けないということはなくなってきた。
「なんか血を吸われるのにも慣れてきたな〜、力が抜ける感じも軽くなってきたし」
「ふふっ、それは主が強くなってきた証拠だよ〜。主〜、大好きっ」
サキは飛びつくように俺の首元へ顔を寄せ、プスリと歯を差し込んだ。
ちゅうちゅるっ、ちゅちゅちゅちゅ〜〜〜。
「サキはホントにこれが好きなんだな」
今もむしゃぶるように吸い付き、舌を這わせて一滴ももらさないように口をべったりとつけながら吸っているのだ。
「あったりまえじゃない。でも主のが特別大好きだんだよね。もう他のはいらないんだから」
最近は軽く会話しながら吸われている。ホントに余裕がでてきたのだ。そして、サキが身体を密着させながら抱き合っていることにも大分慣れてきた。サキの大きな胸がギュッと俺のお腹に押しつけられ、サキの身体の柔らかさをゆっくりと味わっていた。
「ところでさ、俺の血って何か効果でもあるの?」
サキは2日に1度は必ず血を吸っているので気になったのだ。
「えっとね〜、主の血はすごいんだよっ! 魔力が自分の限界超えてね、いっぱいになるし〜、体力も回復するし〜、軽い怪我なんてあっという間に治っちゃうの。たぶん大怪我でも治るんじゃないかな?」
サキは目を輝かせながら答える。っていうか、俺の血はエリクサーなのか? いや、魔力が限界超えるってあたり、まさかのエリクサー超え?
「あ、もちろんそういった効果は契約が必要だからね。フッフッフ、だから主の血は私だけのモノなんだよ」
「ふーん、その契約ってのは他の人とも出来るの?」
「出来るけど、私の分が減っちゃうから、やだな」
その時、遠くでガチャっとドアが開く音が鳴った。
「あぁ〜〜っ、また抱き合ってる!」
あの日に怒って帰ってしまった綾だけど、あの日から毎日必ず顔を出すようになった。そして、サキがくっついていると引き剥がしにかかるのだ。
「ちょっと、離れなさいよ。私のお兄ちゃんなんだから!」
「主は私の主だもんね〜。絶対あげない」
「私だってお兄ちゃんにくっついきたんだから!」
「へ?」
さっきから綾の発言がちょっとばかり気になる。
綾は俺の右腕に密着してきた。サキは俺の左腕に密着している。
ちょうど両側からサキと綾にくっつかれる状態になり、二人の豊満がおしくらまんじゅうのように交互に押し当てられ、俺の股間を否が応にも刺激する。俺は前屈の姿勢を余儀なくされた。
「あ、綾、どうしたんだ。今日は思い切りがよすぎないか?」
「わ、私だってお兄ちゃんのそばにいたいのに……。それともお兄ちゃんは私のこと嫌……?」
上目遣いに加え、目を潤ませて見つめてくる。こんなの女性に免疫のない俺に耐えられるワケがない。
「も、もももももちろん大丈夫さ。綾が落ち着くまで好きにすればいいよ」
「やった! 兄さん大好き!」
「妹ちゃんあざといにゃ〜、主〜、すっかり骨抜きになってるし。しっかりしてよ〜〜」
「い、いやぁ、綾は妹だし、しょーがないかな」
「あ〜、鼻の下伸びてるし。サキがいるのに〜」
サキのせいで綾まで甘えん坊になってしまったみたいだ。でも妹だしな、どうすりゃいいんだ?
いつかは恋人と同棲したいと思っていたけれど、人外の
これって贅沢なことなんだろうか?
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