第7話


 結局その日は学園を休んでしまった。


 だってコイツ居座る気マンマンなんだもん。いくら見た目が可愛くても人外なのだ。また血を吸われた日にはホントに出血多量で死にかねない。なんとか説得して追い出したいところ……なのだが。


「ほら、今日の昼飯だ」


「わーい、ってカップ麺だけ?」


「いつもなら学食で食べてるからな……って、もしかしてこれから飯もずっとウチで食べるのか?」


「え? あたりまえじゃーん、アタシが下僕なのよ? 面倒みるのはご主人様として当然だと思うんですけど」


 くっ、怒りたい! が、怒っちゃダメだ……。


 なにせ、サキは俺よりも圧倒的に強いし、気に入らないことがあればまた魔眼を使われてコイツの言いなりになっちまうかもしれない。ここは穏便に話し合いで、この家から出ていってもらうのがベストだ。


「そ、そっか。じゃぁそれ食べたら買い物か、掃除でも……」


「そんなん出来るわけないじゃーん、アタシをなんだと思ってるの?」


「いや、吸血鬼様だとは思ってるけどさ、一応聞くけど、俺がオマエの主人なんだよな?」


「そーですって何回も説明してるのに……もうご主人様ったら忘れやすいんだから」


「そ、そそそそうか。ところで、オマエは掃除とか洗濯とかいわゆる家事ってやつをやろうって思わないのかな〜って」


「そんなのご主人様の仕事に決まってんじゃん。じゃ私いそがしいから、あとよろしく〜」


 目の前のぐうたら女はいそがしいと言いつつアニメを見ながらカップ麺をすすりはじめた。しかも、床に横になりながら器用に上半身だけ起こし、肘を立てながらカップ麺を持つという、年頃の女性にあるまじき格好だ。いや、俺がそう思ってるだけで結構そういう女性がいるのかもしれないけどさ。


 頑張って作り笑いをしていた俺のコメカミがヒキついて止まらない。


 おかしい。コイツ、俺のこと絶対パシリだと思ってる。俺が一応ながら主人のはずなんだが……。このままじゃまずい。永遠に寄生されないよう上手く立ち回らねば。


「夕食に食べるものを買ってこないといけないんだけど……」


「はい〜、いってら〜〜」


 サキはこちらを見向きもしない。もうやだっ、こんなの俺が望んでた同棲生活じゃないっ!


 なぜだろう?今日のカップ麺……いつもよりしょっぱいな。頬もなぜか濡れてる……のかな?


   *


「ご主人様〜、お腹へった〜」


「ご主人〜、ヒマだからなんかない?


あるじ〜、もうっ、返事くらいしてよね〜」


 美少女との同棲生活が始まってから早くも3日経った。字だけ見ると うらやまけしからん! と周りの人たちは言うかもしれない。だが、断じてサキとの同棲は甘くない。


 サキが俺を呼ぶ言い方はどんどん短くなっており、早くも一文字になった。


 今はあるじだけどそのうちしゅとか呼ばれるんだろうか?


 なし崩し的に突入させられた、憧れ? の同棲生活なのだが、、コイツは家事を一切しない。もちろん働かないので俺の小遣いを削って食費を賄うしかない。


 サキをチラリと見た。


 相変わらず録画したアニメを見ながら、床に横に寝っ転がり、朝からポテチをつまんでいる。


 はぁ〜っ、朝から長いため息が漏れてしまう。


 確かに俺は美少女との同棲生活を夢見ていた。サキを始め見たときに遠くをぼんやりと見つめている姿にドキドキが止まらなかった。こんな女性と付き合えたなら……あわよくば同棲できたら……と無想するのも男ならば致し方ないものだろう。俺は現実と無想の落差に、世の中の世知辛さを痛感している。


「おまえな〜、朝からだらけてないで何かやったらどうだ? ウチに居座るにしてもせめてバイトとかしてくれよ」


「んん〜? 主はお金ないの〜?」


「今は大丈夫だけどさ」


「じゃいいんじゃない〜。仕事なんて面倒くさいし。働いたら負けっしょ」


 くっ、マジで怒りたいっ!


 確かに俺だって働かずして学園に通わせてもらっている身だ。しかし、コイツのぐうたら具合は尋常じゃない。


 サキが身体を転がした。


 足を覆うスカートがめくれて、白いパンツがちらっと見えた。不思議と今までの怒りが収まってしまい、自分の脳内にイベントCGが自動的に追加される。


 基本的にサキは無防備だった。家では横になってゴロゴロしていることが多いため、今のようにパンチラがあったり、場合によってはパンモロもあった。しかも美少女とくれば最高のはずなんだが……。


 ずっと一緒にいるから自家発電オナニーする余裕もないのだ。ネタはもう揃っているというのに……。


 うううっっ、何かこう、身体に鬱々とよくないものが溜まってきている。いったいどうすりゃいいんだ?


「主〜、なんか、魔力が濁ってきてるよ?」


 またサキがワケのわからんことを言い出した。


「濁る? なんだそりゃ?」


 そりゃあ、物理的に精が溜まっていることは確かだろう。だがそれを解放する場所が今の俺にはない。この家はそんなに広くないのだ。自分で致した日にはバレることは間違いない。


「そうだ! アタシが魔力を抜いてあげよっか?」


「へ? 魔力を抜く?」


「あ、今エッチな妄想したでしょ? いけないんだ〜、このいたいけな美少女にそんなコト考えちゃうなんて〜」


「そ、そそそそんなワケあるかよっ。しかも自分で美少女言うなよ」


「ま、でも主がどうしてもっていうなら〜っ、ちょっとだけサービスしてあげよっかな?」


 サキは腰を軽く曲げた状態で俺のほうを見上げた。シャツの下には何も身に着けておらず、豊満な生の胸元が俺を刺激してくる。


「サ、サービスって?」


「えへへ〜、アタシったらホントに気が利くでしょ?」


 そう言ってサキは俺にさらに近づいてきた。


 って近づいたって距離ではなくなってしまった! 身体が密着してるのだ! サキの甘い香りにフワッと包まれると、俺の体は硬直したように動かない。そこに、お腹に当たるたわわに実った双果実が、押しつぶされて……。


 プスッ。


 噛まれた。


 ちゅるっ、ちゅちゅちゅちゅ〜〜〜っ。


 身体の力が抜けていく。膝がガクガクと震えてきて、歯もカチカチと音を立てた。


「ちょ、ちょちょちょっと待って」


「ふふっ、ダ〜メ。濁った魔力は身体に悪いんだぞ?」


ちゅう〜〜っ、ちゅちゅ〜〜〜〜っっ


 サキのまぶたが半分閉じてトロンと半眼になりつつ俺の血を吸い続ける。


「ふぁ〜っ、やっぱ主の血は最高っ。魔力が回復するどころか、より濃くなっちゃう。くせになりそうっ」


 あぁ、意識がまたぼんやりしてきた……。体に快感が走ってゾクゾクと背筋が震えた。今に限ってはサキがやたら可愛く見えてしまう……。


「んっ、すごいっ、すごいよっ、こんな濃いの。私の中っ、いっぱい熱くなってるっ!」


 じゅるっ、じゅじゅじゅじゅ〜〜〜。


「あはっ、いっぱい溢れてきてる。すごい量っ、んんッッッ。飲みきれないよっ」


「お、俺もすごく気持ちいいよ……」


 サキの大きく息を吐きながら肩を上下させた。頬がピンクに染まっている。そしてまた俺の首元に口を寄せていく。


 じゅじゅじゅじゅッッッ


「はぁ〜っ、わ、私っ、も、もうっダメかもっ。あっ、あっ、あっ、あぁ〜〜〜〜〜ッッッ」


「うっ抜かれるっっっ」


 サキはビクンッと大きく身体を震わせた。その後にビクビクッと体を震わせるながら俺をキツく抱きしめる。


 俺の体にもビクンッと快感が突き抜けると体中が脱力した。


「はぁ〜〜っ、はぁ〜〜っ」


 やがて長く甘い息が僕の肩を温める。


 サキは俺の身体に手を廻したまま大きく呼吸し、俺はサキの身体に手を廻して立つのを支えていた。


「どう、落ち着いた?」


「あぁ」


 気づくとさっきまでのイライラした感情がスッキリと落ちている。なぜかは知らないが目の前のグウタラ吸血鬼まですっかり許してしまえるほどだ。


「にゃはっ、主の身体、あったかい」


 サキは頭をそっと寄せてきた。


 俺は愛おしい人を抱き寄せるようにサキの身体をギュッとして、しばらく余韻に浸っていた。

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