第6話
「ふ、ふけつよ〜!」
部屋に轟いたのは女の絶叫する声。俺の目はすぐに覚めた。
「どうした? いったい」
ベッドの脇には、口元を抑えた綾が目を見開いて驚きつつ、俺のほうを指さしながらワナワナと震わせている。
飛び起きた俺はベッドの横に手をついた。すると手にムニュっと柔らかな感触が伝わってきた。
「あんっ。ご、ご主人様っ、朝からいきなり、激しすぎっ」
そーっと俺の手の行き先に視線を滑らせていくとそこは大きい胸の頂上だった。この吸血鬼は俺の隣でそのまま寝ていたのだった。
タオルケット一枚を隔てて大きくて柔らかい胸が量感たっぷりの感触を伝えてくる。
このダイレクトな柔らかさは、”薄い布一枚の下は豊満な生乳”がある、ということを示している。そしてこの女はブラもつけずに俺の隣にいたのだ。
「お、おまっ、なぜここに?」
「私とご主人様は、もはや一心同体♪ ご主人様いるところにアタシがいるのです。」
女はゆっくりと身体を上げながら、胸にタオルケットを巻いた。しかし、大きすぎる胸はタオルからはみ出し、上半分が丸見えとなっている。
ジッと見てしまうのは健全な男ならば仕方のないところだろう。
「お、お兄ちゃんのバカ〜〜〜〜ッ!」
再び轟く絶叫と供に綾は走って家から出て行こうとした。俺はすかさず後ろから追いかけ、玄関口で綾の細い腕を後ろから掴んだ。
「ま、待ってくれ。お、俺にも何がなんだかわからないんだよ」
「触らないで、浮気者!」
バシッ!
綾の平手が飛んできて大きな音を鳴らすと、掴んでいた腕はいつのまにか抜けており、綾は走って帰ってしまった。
俺はジンジンする頬をおさえながら、このどうにも出来なかった誤解をどう解けばよいのかわからず、呆然とすることしかできなかった。
………浮気者っていったいなんのことなんだ? 妹と付き合ってるわけではないんだけどな‥‥。
綾が平手を打つ時、目には涙を浮かべていた。こりゃ当分はご飯作ってくれそうにないんだろう。
「大丈夫? ご主人様。ま、元気だしてよ」
後ろからのんきな声聞こえてきていた。
*
「さ、状況を説明してもらってもいいか?」
「状況? 前に説明したじゃない。アタシはご主人様の下僕になったの。それ以外になにもないよ?」
「なにもなくないよ? なんでいきなりそんな設定が追加されてるの?俺、何かした?」
「えぇ、だってぇ、ご主人様がその強力な魔力で私を屈服させ、強制的に眷属化したんじゃない」
目の前の美少女はさも当然のように胸を張って語る。大きい胸がブルンっと揺れた。
思わず頭を抱えこんでしまう。
「俺が魔力で屈服させた? まるで心当たりがないんだが……」
「やだっ、ご主人様ったら。アタシが血を吸った時に決まってるじゃない。アタシ、あんなに濃い魔力は初めてだったのよ」
イキイキとした笑顔で話し出す目の前の美少女。
「その血を吸われるのとご主人様ってのはどう繋がってるんだ?」
「人間の血をエネルギーに変えるには血の契約ってのが必要なのよ」
「血の契約?」
「そう。血の契約はお互いの魔力の量に応じてどちらが有利な契約になるかが決まるのよ。びっくりしちゃった。ご主人様の魔力ったら私の10倍以上もあるんだもの。」
「ってことは、俺の魔力が強くって、お前に不利な契約になっちまったってことか?」
「不利なんてものじゃないわ。アタシ達の契約は完全なる主従の契約になっちゃったの。ご主人様が言ってくれたらアタシ、なんでも言うこと聞いちゃうんだから!」
全く盛り上がっていないが、力こぶを作るポーズをアピールされてしまった。
頭が痛くなってくる。そんな偶然あるのか?
というかコイツの名前すら知らないことに今頃きづいたよ。
「えぇと、お前さ、名前はなんていうの?」
もうこの女に敬語なんて必要ないな。さっさとタメ口にしておけばよかった。
「はいっ、サキ っていいます!」
サキは俺の両手をギュッとにぎってにこやかに答えた。見た目は美少女なので、いきなり目の前に来られるとドキッとする。
話の途中であれだが、俺はこれから学園に行かないといけない時間になっていた。とりあえず、コイツには家に帰ってもらうとするか。
「そうか、サキか。それじゃ、とりあえず自分の家に帰ってくれ」
「え?」
「俺はこれから学校に行かないといけないんだ。サキ、ゴーホームだ。わかった?」
「そんなの出来るわけないじゃん!」
「なんでだよ?! さっきなんでもするって言ってたじゃないか」
「だってアタシ、家が……」
サキは頬を赤くして少し俯いた。俺はそんなサキの姿が可愛いなぁと思いつつもさらに聞いてみる。
「家がどうしたの?」
「家がないんだもん!」
思いっきり耳元で叫ばれてしまった。耳がキーンと鳴り響く。
「っ……いきなり叫ぶなよ。……それにしても家がない?ホームレスだったの?」
「ホ、ホホ、ホームレス違うよ!」
「家がないのにホームレスじゃないってのか?」
サキの話はホントよくわかんないな。なんの頓知だ?
「えと、アタシさ、魔眼ってのを持ってるんだけど、それで優しい人を捕まえて泊まらせてもらってたの……」
「ん? えっと、俺の動きを止めたあの朱い目か?」
「そう……あの目で精神的に弱い人を捕まえてさ、援助してもらって暮らしてたの」
なんてこった。一方的な援○交際かよ。まさか赤の他人に寄生するだけ寄生してサキは何もしないなんて……言葉にすると”ニートのプロ”ってところだろうか。
「じゃ、とりあえず、おとといまで泊まってた所にいけばいいじゃんか」
「ご主人様っ! それはできないんだからっ!」
サキは口を尖らせて、俺の前に顔をずいっと寄せてくる。そして俺を指さした。
「まったくもうっ、ご主人様はご主人様としての自覚に欠けてるんだからっ!」
「自覚もなにもあるわけないじゃんか。だって今その契約だって知ったわけだし」
「い〜え、それでもなんだからっ! アタシのご主人様になったからにはアタシを養育する義務があるんだからねっ!」
「は?」
「ご主人様。い〜い? アタシのご主人様になったからには、もうここがアタシの家なんだからっ!! わかった?」
「なんだその強引さ……ダメだ……全然わかんねぇ……」
思わず両手を床について項垂れてしまった。俺はこのニートのプロみたいな女に捕まって、これから寄生される側になってしまったってことなのだろう。
どうしてこうなった? 俺は一人暮らし始めて、彼女作って連れ込んで……っていうパーフェクト計画が崩れ去っていくのを抵抗も出来ずに見ているだけなのか……。
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