贄の娘、龍神と天上に暮らすこと

草群 鶏

序・運の尽き

 生まれた時にたまたま雨が降った。それが待望の慈雨だったなどと赤子には知る由もなかった。ところがこの手の偶然は続き、あれよあれよと祀り上げられてこのざまだ。社に籠められたまま迎えた十五の歳、娘はたくさんの供物に囲まれて、しかしたったひとりでいた。

 ことり。

 窓辺にあらわれたのは顔なじみの青年である。くつろいだ様子で肘をつき、憎たらしい笑みを浮かべている。

「お前もよくよく運がいいよな」

「どこが」

 憤慨する娘に目を細め、いつの間にするりと身を寄せた。

「俺に気に入られるなど、そうないぞ」

 行こう、と差し伸べられた手を、娘はそっと受け取った。

 晴れた空に明るい雨が降る。天に昇る龍の姿を、人々は呆けたように見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る