第41話 散財

「よ、いっしょ!」


 にしてもこのぐらいの金額になるとかなりの重さなんだな。

 俺はそう思いながら二つのアタッシュケースを自室の机の上に置く。

 柳原さんとの話し合いを終えた俺は報酬と修正された書類を持って家に帰ってきている。


 帰る途中に家族には迷惑をかけたし、これからもかけるだろうから報酬の一部を渡すと父さんに言ったのが、「それはお前が命懸けで稼いだ金だ。俺達は受け取れないし、お前が使え。それにこれからも続けるなら資金は必要なんじゃないか? 俺達はこれぐらいで迷惑なんて思わないから気にすらな」とあしらわれた。


 その言葉に感謝しながらも、実際それなりのお金が必要だったのは事実なので素直に父の申し出を受け入れる事にした。


「確認してみるか……ステータス、取引所」


 俺はそう言いながら新しく追加された売買システムを起動する。

 起動された画面には現在出品されている物や俺が出品してる物と所持金を確認する欄がある。


「確か調べた感じ……ここを押して……」


 俺は事前にネットで調べておいた情報をもとに、自身の所持金を確認する欄をタッチする。

 すると新たに出てきたウィンドウに所持金0円と表示され、更にその下に入金・出金という表示があった。


 俺はその入金という部分を軽くタッチする。

 するとどこからともなく突然引き出しのようなものが現れた。

 その引き出しは中が真っ黒で底が見えず、一体どうなってるのか全く分からない。


「確かこの中にお金を入れればいいんだよな? 少し不安ではあるけど仕方ない……」


 俺はそう呟きながらアタッシュケースを開け、中のお金を次々に入れていく。

 これで飲まれただけで何にもならなかったら後悔してもしきれないぞ!

 俺はそんな事を思いながら全て金額を入れ、開いていた引き出し部分を押す。

 すると直後にウィンドウが切り替わり、所持金の金額が変わる。


「一億一千万……金額でみてもヤバい……普通の高校生が稼げる額じゃないだろ」


 俺はその画面を見ながらそう呟く。

 ただこの金額も売られてるアイテム次第では一瞬出なくなるんだよな……

 俺はそう思いながら画面を戻し、出品されている商品欄をタッチする。


 すると表示されたのは一番上に大きくカテゴリーと書かれ、下にはダンジョン産アイテム・生産職作成武具・食料品・飲料等かなりの数のカテゴリーのものが表示されている。


 俺はその中で試しに食料品をタッチしてみる。


「……聞いてた通りだな」


 俺は表示されている食料品の値段を見てそう呟く。

 カップ麵一個が百円台。

 野菜等も市場価格よりはかなり安く売られている。


 聞いた話では最初の方は転売等で十倍以上の値段で売られていたらしいのだが、企業や生産者がそれに対抗するように運送コストや包装等を省き、在庫を出来る限り安い値段で出品し始めたため、現在では普通に買うよりもこちらで買う方が色々と安くなっているらしい。


 正直この変化によりダンジョン攻略は大きく変わるだろう。

 今までダンジョン攻略を行うために大きな荷物を持って大勢で行っていたのを、必要なものがあればその場で買うようにすれば、少数で荷物もなく行うことが出来る。


 ただこれは俺にとってはあまり嬉しい事ではない。

 何せ俺のダンジョン攻略における優位性の一つが無くなるという事だからな。

 重い荷物を持つ必要が無く攻略速度を落とす必要が無かった。


 ただこれからはそれが全員に適応されるという事だ。

 とはいえ出すことは出来ても仕舞う事は出来ない。

 しかも出すまでにかなり時間がかかるという点を考えれば、まだまだ俺の方が優位な点はある。


 特に武器等を出し入れして戦う戦闘方法は真似できないだろう。

 そして今回はその時に扱う武器を見に来たんだ。

 俺はそんな事を思いながら画面を戻し、本題のダンジョン産アイテムと書かれた欄をタッチする。


「……マジかよ」


 俺は表示されたアイテムの金額を見てそう漏らす。


★[硬化の短剣] 1千万円

 念じる事でかなりの硬度に変更することが出来る。


★[凍結の脇差] 1千万円

 斬りつけた傷口を凍らせる。


★[旋風のチャクラム]2千5百万円

 投擲の加速力を風が上げ、更に風のアシストで手元に帰ってくる。


★[炎熱のランス] 3千5百万円

 ランスの先が熱を帯び、燃やす。


 最低でも一千万……

 高すぎる……

 正直今見た武器の効果は、頑張れば魔法で再現可能だ。


 それに対してこれ程の金額を払うというのは気が進まない。

 しかも[旋風のチャクラム]に関しては手元に帰ってくる時間よりも投げて指輪で回収して出した方が圧倒的に速いだろう。


 もし仮に買うとしてもせめて俺が持っていない属性効果のある武器や防具がいいだろう。

 ……もう少し見てみるか。


ーーー


「……とりあえずこんなところか」


 俺はそう言いながら足元に並べられたアイテムを見つめる。

 足元には持ち手が黄色いナイフと丸い取り扱いのよさそうな小さい盾、そしてゲーム等に出てくるようなハルバードが置かれている。


 これらは俺が売買システムの中を見て厳選したアイテムだ。

 因みに効果はこんな感じだ。



[紫電のナイフ]

 使用者が念じる事で紫の雷を刃に纏わせることが出来る。




[引き寄せのライトシールド]

 使用者が念じる事で攻撃や投擲物を引き寄せることが出来る




[加重のハルバード]

 使用者が念じる事で重さを変更することが出来る



 という感じだ。

 金額に関しては[紫電のナイフ]が3千4百万円、[引き寄せのライトシールド]が2千7百万、[加重のハルバード]が4千3百万という感じだった。


 つまりは今日手に入れた一億一千万円は既に六百万円しか残っていない。

 一瞬で消えてなくなったよ……

 マジで……

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