第40話 話し合い
「いかがでしょうか?」
「これは……」
「いくつか質問させていただいてもいいですか?」
俺の言葉を遮るように父さんが柳原さんに向かってそう言う。
どうしたんだろう?
「構いませんよ」
「ではまず、非常事態時とは具体的にどういったことを想定されていますか?」
「我々の想定では自然災害並びにダンジョンブレイクによる人的被害等を現状は想定しております」
「なるほど。自然災害やダンジョンブレイク等が発生した場合支援要請に応じるのは構わないと思うのですが、場合によっては宗太でも命の危険を感じる場合があると思います。そう言った場合拒否する権利は保証し明記していただきたい。それが出来ないのであれば、宗太もこの契約を結ぶつもりは無いと思いますので」
父さんの言葉に対して柳原さんがチラッと俺の方を見てきたので、俺も父さんと同じ考えであるという意を示すために頷く。
確かに言われてみればそうだ。
状況にもよるだろうが、明らかに勝てない相手に挑めと言われてもそれは無理な話だ。
それに俺がダンジョンを攻略している最中だった場合、即参加というのは難しい。
父さんが言っているのは強制ではなく、此方の状況も加味して参加の有無を判断させてほしいという事だろう。
「わかりました。その部分に関してはその旨変更させていただきます。他には何かございませんか?」
「では、最後の契約期間は双方同意のもと一年おきに更新されるものとすると書かれている部分ですが、この記載だけでは不明瞭だと考えます。これでは契約を結んだ瞬間に同意し自動更新されていくとも、一年おきに同意が必要であるともとれてしまう。この部分は一年おきに双方の意思を確認し、同意のもと更新されると変更していただけませんか? お互いの為に。流石に契約を破棄できない前者であるとは考えられませんから」
父さんは笑顔でありながらどこか圧を感じる口調でそう言った。
だが確かにそうだ。
父さんの言った通り、どちらとも取れてしまう。
実際俺は勝手に後者だと思っていたが、相手は前者であると考えている可能性だってある。
罠過ぎるだろ!!
「お父様のおっしゃられる通りです。大変申し訳ございません。そちらもおっしゃられた通りに変更させていただきます」
柳原さんはそう言って深々と頭を下げる。
「そうしていただけると助かります。後これは個人的な質問なのですが、家族の安全の為に冒険者協会と政府が動くというのは具体的にどういったことをされるのですか? 私自身に直接関係する事ですので気になりまして」
「そちらに関しては報道関係の対処や危険人物の接近等を未然に防ぐ事が主になってくるかと、必要であれば安全な新居を用意することも可能です」
「……わかりました、ありがとうございます」
父さんは柳原さんの言葉に少し考えるような素振りを見せてからそう答える。
一瞬何か悩んだようにも見えたけど、一体どこに引っかかったんだろう?
「私が気になるところは現状だとこれぐらいですかね。宗太はどうだ? 嫌なら嫌って言って問題ないしな。これは提案であって強制じゃないからな。ですよね?」
「それはこちらとしては困りますので、できれば嫌な部分をおっしゃっていただきたいですね。こちらとしてはその部分を改善しますので」
「そうですね……」
父さんの言葉に焦るようにそう言う柳原さんに向かってそう言いながら考える。
実際問題ここで契約を結ぶのは悪くないと思っている。
理由としてはいくつかあるが、一番大きいのは後ろ盾だ。
現状俺はどれだけ強かろうと、一般家庭の普通の高校生に過ぎない。
成人してればまだしも、未成年というのはそれだけで軽くみられることがある。
ただ冒険者協会や政府が後ろ盾となれば、俺の発言を無下にすることは難しいだろう。
勿論将来的には独立するつもりだし、出来たら自身のクランなんて持ってもいいかもと考えている。
その為の実績と人脈、そして資金調達を考えればここで契約を結ぶのは悪くないだろう。
契約内容に関しても父さんのおかげでさっきよりも俺に有利なものになったしな。
というか逆に申し訳ないぐらいに俺の方に有利過ぎる気もする。
とはいえ独立することを考えると少し吹っ掛けておいてもいいかもしれないな。
「では、冒険者協会や政府からの支援要請に応じた際は追加で報酬を支給してください。ダンジョンブレイクともなれば、ダンジョン攻略以上に危険を伴う可能性がありますから」
「わかりました。そちらも追記させていただきます。他にはございませんか?」
「現状はそれぐらいですかね……もし仮に一年間で不満があった場合、それを更新に変更することは出来ますか?」
「勿論可能です。それについての話の場を設ける事も記載しておきましょう」
「でしたら僕は契約を結んで構いません」
「ありがとうござます。では直ちに今の内容で新たに契約書の方を作成させます」
柳原さんは嬉しそうにそう言うと秘書の一人である木下さんに向かって指示を出し、木下さんはそれに対して頷き部屋を出ていく。
何というか、かなりスムーズに進んだな。
正直父さんもそうだが、かなり無茶のある変更を言ってた気がするんだが……何でこんなに要望通りに進むんだ?
逆に不安になるレベルだ。
とはいえそれは新たに来る契約書を確認してからだろうがな。
「では新たな契約書が出来るまでにうちの槻岡が使わせていただいていた[氷装のナックルガード]についての話をさせていただきたいと思います。園部」
柳原さんの言葉にもう一人の秘書である園部さんは頷き、俺の方へと何かを持ってくる。
そして園部さんは「失礼いたします」と言って俺の前にアタッシュケースを置いた。
「どうぞ、中を確認してください」
そんな状況に俺が首を傾げていると、柳原さんがそう言ってきた。
確認ってなんだよ!!
何かちょっと怖いんだけど!
俺はそんな事を思いながらも、アタッシュケースからは特に何も感じないことから恐る恐る開ける。
すると中には大量の札束が入っていた。
「……は?」
「六千万入っております」
俺が思わず出た言葉に対して、柳原さんはそう言った。
六千万??
わからんわからん!
何この金!
怖い!
「そちらで槻岡が使用していたアイテム、[氷装のナックルガード]を買い取らせていただけないでしょうか? 勿論この話は宗太さんだけでなく他の方々にもさせていただいております」
あぁそう言えば[氷装のナックルガード]に関しての話だったな。
余りにも急に大金を見せられてびっくりしてしまった。
何せこんな大金を見るのは生まれて初めてだからな。
にしても今の話が本当なら全員に六千万……つまりは二億四千万であのアイテムを買うって事かよ!!
マジか……
あのアイテムそんな高値で売れるのかよ!
「皆様には大変ご迷惑をおかけしましたので、今後の関係の事を考えたうえで多少市場価格より色をつけさせていただいております」
だよな!
にしても市場価格って……恐らく追加された売買システムを加味して言ってるんだろうが、既にそんなアイテムが取引されてるって事かよ!
俺の戦い方だといくら特殊な武器があっても困らないから手に入れられるなら手に入れるべきだろうな。
それにそこまで稼働してるなら掘り出し物もあるかもしれないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます