第39話 提示された条件
「わざわざご足労いただきありがとうございます」
そう言って俺達に頭を下げたのは、スーツ姿の中年男性。
俺は今、冒険者協会本部のとある一室にいる。
ここにいる理由は簡単で、先日家にスーツ姿の槻岡さんが来たかと思うと「今週の土曜日に冒険者協会本部にご家族と一緒に来てほしい」という話をされたのだ。
理由は今後の話と、ダンジョン内で状況的に槻岡さんが使うことになっていた[氷装のナックルガード]についての話をしたいということだった。
家族同伴の理由は、恐らく俺が未成年だからだろう。
てなわけでここには俺と一緒に父さんが来てくれている。
父さんが来てくれたのは、「母さんだと話が拗れるかもしれないからな」ということらしい。
因みに槻岡さんが動いてくれたからなのか、槻岡さんが家に来た後から今まで家の周りにいたマスコミが嘘のように消え、その後も再び現れる事はなかった。
「私はこういう者です」
「これはご丁寧にどうも、今は名刺の持ち合わせがなくてですね……」
「いぇいぇ、来ていただいてるのにそんな事は申しません。宗太さんにもこちらを」
「ありがとうございます」
俺はそう言いながら受け取った名刺を見る。
名刺には冒険者協会本部所属・人事部長・
「立ち話もなんですのでどうぞお掛けください」
「失礼いたします」
俺は父さんのその言葉に合わせて軽く頭を下げ、父さんに促されるまま隣に座る。
今この部屋には俺と父さん、そして柳原さんとスーツ姿にサングラスをかけた男性が二人居る。
「この二人は私の秘書です」
「木下です」
「園部です」
柳原さんが座った後ろに綺麗に二人並んで立っている男性は背筋を伸ばしたまま軽く頭を下げてそう言ってきた。
ガタイもしっかりしてるし秘書ってよりは護衛って言われた方がしっくりきそうだけどな。
俺はそんな事を思いながら頭を下げ返す。
「本題に入る前にお父様は宗太君の活動についてどこまでご存じでしょうか?」
「……配信されていた映像は見ていました」
父さんはチラッと俺を見てから柳原さんの問いにそう答える。
これは父さんと事前に決めていた事だ。
基本的に父さんと決めたことは二つ。
一つは父さんは知っている事を正直に話していいという事。
もう一つはこうだろうと予想している事は話さないという事。
実際父さんが知っている事はほとんど他の人と変わらないレベルだからな。
それなら変に嘘をつくより正直に話しておいて問題ないと判断したのだ。
父さんも俺がそう言うならとそれについては快諾してくれている。
「なるほど。でしたら話は早いですね。我々は宗太君のあの戦いを見て、ぜひ冒険者協会所属の冒険者として活動していただけないかと思い、この場を設けさせていただいた次第です」
柳原さん笑顔でそう言いながら父さんを見つめる。
やはりそう言う話か。
ここまではある程度予想で来ていた。
「そうでしたか。ですがそれは本人が決める事ですので、私がどうこう口出しするつもりはありません。ただ宗太が不利になるような事がある場合は遠慮なく口を出させていただきますので、悪しからず」
「それもそうですね。宗太君……いぇ宗太さん、我々冒険者協会所属の冒険者になって頂けないでしょうか。詳しい契約内容に関しては机の上の書類を見ていただければと思います。勿論、変更してほしい点等がありましたら遠慮なく申してください」
柳原さんは真剣な表情でそう丁寧に言うと、俺と父さんに机の上の書類を見るように勧めてきた。
確かに気にはなっていたのだ。
あからさまに俺と父さんの前に置かれていたこの紙の束が。
俺はそんな事を思いながらも勧められるがままに机の上の書類を手に取り、目を通していく。
書類に書かれていた事を要約するとこうだ。
・契約金は前金として五千万、月々の給与に関しては同じく五千万を支給。税金に関してはこちら側で支払いを行っておく。
・非常事態時の政府や冒険者協会からの支援要請には必ず応じる事。
・ダンジョンの攻略は日本国内であれば許可は必要なく、攻略した場合も事後報告で構わない。
・ダンジョンで入手した物に関しては全て本人に所有権があり、報告する義務はない。
・ただしアイテムを売る場合は市場価格よりも割高で買い取る。
・更にダンジョンに関する何らかの情報に関しても報告があれば言い値で買い取る。
・家族の安全の為に冒険者協会並びに政府が動く。
・この契約期間中は双方の同意無くして契約の破棄は出来ないものとする。
・契約期間は双方同意のもと一年おきに更新されるものとする。
という感じだ。
正直なところ金額に関しては桁が大きすぎて現実味が無い。
何せ少し前までバイトしてもせいぜい月に三~五万入るかどうかだったのが、いきなり五千万なんて言われても想像できるわけない。
俺としてはどうしてこんな普通……ではないが、一学生にこれ程の契約内容を提示できるのか意味が分からない。
勿論金額だけではなく他の契約内容も含めて言っている。
これは余りにも俺が有利な契約内容に見えてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます