第37話 決着

「にしても二属性持ちとは……楽しませてくれる」


 人狼は笑みを浮かべながらそう言うと体を回転させ、俺の左横腹めがけて槍を振り殴りかかってきた。

 俺はその攻撃を上半身を後ろに反らし回避する。

 変に盾で受けても衝撃で飛ばされると考え、受けない判断をした。


「駄目だぜ……その避け方はよ」


 ただその回避の仕方を見て人狼がそう言ったかと思うと、俺の真上に氷の槍が数本生成された。


 不味い!!

 これは避けられない!


 俺はそれを見てそう思いながらも、無理やり地面を蹴り体を捻る。

 直後俺に向かって氷の槍が降り注ぐ。


「うぅっくっ!!」


 背中と腹部それぞれに氷の槍がかすり思わず声が漏れる。

 しかも重力でその場に落ちるが、前後を氷の槍でふさがれ行動を制限される。

 何もしなければこのまま殺されると考え、即座に人狼に向かって[土魔法]で後ろが窪みになっており先が尖った土の塊を二つ飛ばす。


 更にその土の塊の窪み部分に[風魔法]を当て速度を更に出す。

 突如加速した土の塊に人狼は一瞬顔をゆがめながら、上手い事自身の持つ氷の槍を当てて軌道を反らした。

 

 上手く避ける可能性は考えていた!

 俺はそう思いながら立ち上がり、人狼に向かって[猛火の剣]で斬りかかる。


「まさか三属性とはな……正直今の攻撃には驚いたぞ!」

「なら、この状態でならどうだ! 燃えろ!!」


 俺はそう言って更に[猛火の剣]の火力を上げるように[火魔法]を使いながら、先程と同じ尖った土の塊を三個作り[風魔法]で加速させて飛ばす。

 それを見た人狼は舌打ちをしながら槍を力任せに降りぬき、更に土の塊に氷の槍をぶつけて速度を少し軽減しながら後ろにジャンプして距離を取る。


 飛ばした[土魔法]は空をきり、更には人狼に力任せに槍を振りぬかれ俺は後ろの木まで飛ばされるが、狙い通りとばかりに笑みを浮かべる。


「クソが!! 良くもやってくれたな!! 生意気なガキが!」


 直後に人狼は怒り狂ったかのような声を上げながらそう言った。

 人狼をよく見れば両足の裏から血が出ており、更には両肩にそれぞれ剣が突き刺さっている。


「無機物までは察知できなくて助かったよ」


 俺はそう言いながらその場に立ち上がる。

 そう人狼が血を流しているのは全て俺の攻撃だ

 とはいえ俺がやったことはとても簡単。


 人狼が着地する地面に矢を縦に指輪から五本ほどの束にして二つだし、更にはその上に剣を二本出しただけだ。

 後は勝手に人狼自身が着地して自重によって矢が足の裏に刺さり、上空に出した剣は重力によって落下した速度で肩に刺さった。


 それだけの話。

 しかしながらこれは一種の賭けではあった。

 わざとらしく魔法を連発して魔法による攻撃を印象付けてはいたものの、もし仮に奴が魔力だけでなく無機物をも感じ取る事が出来ていれば勝機は無かっただろう。


「わざと隠してやがったな……だがこれで勝負が決まったと思ったら大間違いだ!!」


 人狼は自身の両肩に刺さった剣を引き抜きながらそう叫んだかと思うと、右腕を上に掲げたかと思うと、突如として凄まじい力が人狼の上空に集まっていくのを感じた。


 この感じは初撃の攻撃と同じ……いや、それ以上だ!!

 俺はそう思ったと同時に人狼との距離をつめるために体が勝手に動いていた。

 だがそんな俺の接近を易々と許してくれるはずもなく、人狼は左手に持つ槍を軽く俺に向かって振るモーションをしたかと思うと、次の瞬間には俺に向かって無数の氷の塊が飛んできた。


 この程度なら即座に出せるってかよ!!

 俺はそう思いながら左手の盾で飛んでくる氷の塊から自身の体を守るが、数もそうなのだが威力も中々あり前に進むことが出来ない。


 そんな事をしてると上空に集まっていた力が徐々に形になり、やがて完全に形になる。

 それはまるで屈強な鎧を着た武人が槍を持っている、そんな造形の氷の塊。


「ハハハハハ! 正直これは使いたくなかった。何せ一撃でほぼ勝負がついてしまって楽しめないからな!! だがお前は特別だ! ……?」


 人狼がそう言った直後、人狼が掲げる右腕に氷の矢が飛んでくる。

 ただ人狼はそれを一瞥して、焦る様子も防ぐ様子すらもなく俺に視線を戻す。


「小僧、タイミングは悪くないが今良いとこなんだ。邪魔するな」


 人狼がそう言った直後氷の矢が人狼の右腕に見事当たるが、刺さることは無くその場に落ちる。


「これだけ氷の魔法を使ってるんだ。多少予想できなかったのか? 氷が効かないかもしれないと?」


 人狼は俺を見ながら後ろに居る風吹君に向かって馬鹿にするようにそう言った。

 風吹君が絶望するかのように肩を落としたのが見えたが、今は声をかけている余裕は無い。


 勝負は一瞬。

 しかも一度しかチャンスは無いんだ!

 二度は無い!

 失敗は許されないんだ!!


 俺はそう思いながらその時が来るのを氷の塊を受けながら耐え忍ぶ。

 その間に人狼の上空の武人は槍を回し大きく振りかぶる。

 そして目一杯力を込めかと思うと、突如として氷の塊が止む。


「これで終わりだ! 楽しかったぞ挑戦者よ!!」


 人狼はそう言いながら右手を俺に向かって振り下ろす。

 その動作と連動するかのように上空の武人が凄まじい速度で巨大な槍を投げてきた。


 今だ!!

 俺はそう思いながらその直撃すれば死は免れないだろう攻撃に向かって一直線に進む。


 丁度この飛んできている槍によって俺は人狼から死角になっている。

 今ここで全てを出し切って終わらせるんだ!!

 俺はそう思いながら[猛火の剣]に更に[火魔法]で火力を無理やり上げる。


 既に[猛火の剣]に纏う炎は白から青に変わっている。

 ただそれが許容限界なのか、[猛火の剣]に少しずつヒビが入り始めていた。

 頼むから持ってくれよ!!


 俺はそう思いながら凄まじい速度で飛んでくる巨大な槍に向かって突き進む。

 そしてそんな槍とぶつかる直前、[猛火の剣]を持つ右手を前に突き出す。

 そうすれば先程まで存在していた巨大な氷の槍が突如として消え去る。


「な!!!」


 突然自身の全力の魔法が消え去った事に動揺している隙を見逃さず、速度を殺さずに人狼との距離をつめ、青く燃え盛る[猛火の剣]を人狼の腹部に突き刺す。


「ゴフッ……いったい……」

「これで終わりだ!!」


 俺はそう叫びながら突き刺した[猛火の剣]を全力で振り上げる。

 そうすれば人狼の上半身が真っ二つとなり、更にそれと同時に[猛火の剣]が砕け散った。


 良くここまで持ってくれた……

 俺はそう思いながら砕け散った[猛火の剣]を見つめる。

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