第36話 近接魔法使い

「弓兵から狙うなんてしょうもない事はしないから安心……しろ!」


 人狼はそう言いながら俺との距離を一瞬でつめ、俺に対して殴りかかってきた。

 俺はその攻撃を盾を両手に持って受け止める。


「くっ……」

「いいね! いいね! ただ連撃には耐えられるか?」


 人狼は心底楽しそうにそう言いながら、殴りや蹴りを繰り返してくる。

 俺はそれを何とか盾で受け凌ぐ。


 目では追える。

 ただ反応できるかはギリギリだ。

 この状態で反撃なんてもってのほか……


「見てから反応してるのか!! 眼が良いな! それに適度に邪魔も入る」


 人狼はそうって俺に対する攻撃を止め、真後ろに向かって回し蹴りを放つ。


「うっ!」


 その蹴りは空をきったかに思えたが、突如として蹴りの先に水野が現れ横っ腹に蹴りが入り苦痛に顔をゆがめていた。


「お? あまりにコイツが耐えるからつい力んでしまったみたいだ、な!」


 人狼はそう言いながら足を振りぬき、水野を近くの木に向かって蹴り飛ばす。

 木に打ち付けられた水野は立ち上がることなく、その場で左脇腹を押さえながら苦悶の表情を浮かべている。


 骨が折れただけならまだいいが……

 どちらにしても水野が戦いに復帰するのは難しいだろう。

 それどころかこのままでは全滅の可能性が濃厚だ。


「小僧、弓兵ならもっと工夫しろ」


 人狼はそう言いながら死角から飛んできた氷の矢を一切見ることなく手で掴み受け止める。


「例えば私が連撃を放っているときに撃つとか、あの小娘が攻撃すると同時或いは攻撃を喰らった瞬間などな。でなければこうやって攻撃をいともたやすく受け止められ、逆にこのように利用されてしまうぞ?」


 人狼はそう言いながら風吹君に向かって不敵な笑みを浮かべ、左腕を横に伸ばし掴んだ氷の矢をわかりやすいように見せつける。

 直後人狼が手に持つ氷の矢がパキパキと音を立てて徐々にその形を変え、更に大きくなっていく。


 それは瞬く間に元の矢の形ではなく槍のような形へと変わっていた。


「少し別の力が混じってはいるが、やはり媒介があると効率がいいな。これをあの小僧に向かって投げれば、あの小僧はどうなるだろうな? お前はどう思う、挑戦者よ?」


 人狼はそう言いながら俺に向かってまるで何かを期待するかのような視線を向けて来る。

 クソが……


 そんなことされたら満身創痍って感じの風吹君は避ける事が出来ず、最悪そのまま死んでしまうかもしれない……

 それに水野もこのままにしておけば命の危険があるかもしれないんだ!

 俺の手の届く範囲、それも目の前で人が死ぬなんて後悔してもしきれるか!!


 俺はそう思いながら温存しておいたステータスポイントを攻撃力と敏捷性にそれぞれ半分ずつ割り振る。

 そして指輪から[猛火の剣]を右手に出しながら軽く振り、人狼を睨みつける。


 先程の攻撃の感じ、このまままともに戦ってればコイツには絶対に勝てない。

 俺は……まだ弱い……

 力を隠していてはコイツに勝てない……


 けど、死ぬぐらいなら……

 せめて……せめて全力を出してからだ!!

 手の内がなんだ!


 死ねば何も残らないんだ!!

 自分の命もそうだが、他の人の命がかかてるこの状況で手加減してる余裕なんて皆無なんだよ!!


「いいぞ!! その眼! 覚悟を決めた奴の眼だ! そうだ全力でかかってこい! その覚悟に更に火をつけるのに犠牲が必要ならアイツ等を先に殺してやってもいいだぜ!」

「その必要はない。格上のアンタに手加減なんてしてる余裕はなっから無いんだからな」

「いいね。いいね!! その覚悟の決まってる感じ! 簡単に壊れることなく最後まで楽しませてくれよ!」

「……燃え上がれ」


 楽しそうにそう言ってくる人狼の言葉を聞き流しながら、俺はそう言って[猛火の剣]に念じながら、更に[火魔法]で燃やす。

 すると[猛火の剣]が纏う炎が今までの赤色ではなく、白っぽい色へと変わった。


 ただそんな事には全く目もくれず、俺は人狼に向かって[猛火の剣]を下から斬り上げる。

 人狼はその攻撃を左手に持つ氷の槍で受け止めながら笑みを浮かべる。


「お前、俺と同じだな? 使えるんだろ? ……

「!!」

「そんな驚くなよ。お前も感じ取って初撃を察知したんだろ? なら他にも同じような事が出来る奴がいてもおかしくないだろ。馬鹿じゃあるめぇし、それぐらい予測できるだろ」


 すぐさま魔法を使ったのに気づかれたのは驚いたが、それはそれで構わない。

 それよりもコイツが魔法を使えるとわかった方が大きい。

 それにあの初撃、あれがコイツの使った魔法だとすれば……あの時感じた感覚と、今尚コイツが持つ氷の槍から感じられるこの感じが、魔力だという事だ。


 そして同じようにコイツも魔力を感じられる。

 なら戦い用はいくらでもある!!


「近接魔法使いの戦い方を教えてやるよ!!」


 人狼はそう言いながら力任せに槍を振り、俺を剣ごと弾き距離を強制的に取らされる。

 直後人狼の頭上に氷の槍が数十本生成され、それが俺めがけてすさまじい勢いで飛んでくる。


 俺は飛んでくる氷の槍を見て、冷静に魔法を使って対応する。

 そうすれば俺に向かって飛んできていた氷の槍は俺に届くことなく、俺の魔法にぶつかり砕け、地面に落ちる。


「……ほぉ。てっきり火の魔法を使って対処してくると思ったが、まさかを使ってくるとはな。正直予想外だ」


 人狼がそう言いながら見つめる先には俺が[土魔法]で作った先の尖ったアイスピックのような形状の土の塊が浮いている。

 最初は[火魔法]をぶつけようかとも思ったが、質量のある氷を溶かしきればければ意味が無いと考え、[土魔法]で対処したのだ。


 だが人狼のあの感じからするに、どうやらこれが正解だったみたいだ。

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