第33話 羽靴
「やっぱりスゲーな。宗太」
「そんなことないですよ」
トロールの上で横になりながら受け取った指輪を眺めていると、赤崎さんがそう言って声をかけてきた。
「いや、これだけ暴れまわっててそれは流石に嫌味ってレベルだぞ?」
「あぁ、そっちでしたか」
赤崎さんは冗談めかして周囲を軽く指さしながらそう言った。
俺の中では報酬を見てたから報酬の話かと思ってそう返したが、どうやら違ったみたいだ。
「うん? よく聞こえなかったがなんて言った?」
「いぇ? 何も」
確かに言われてみれば確認するすべが無いからな。
そう思いながらコメント欄を見てみれば……
≪おい……やば過ぎるだろコイツ≫
≪いやいや、普通無理だろ≫
≪あのアイテムを自在に出すやつのおかげだろ! あれがヤバいんだよ!!≫
≪今手に入れたアイテムの効果を教えてくれ!!≫
≪無駄だ。コイツ一回もコメントに返してないから多分見てないぞ≫
という感じだった。
俺の視点等で視聴することは可能でも、フレイバーテキストは見えていないみたいだな。
にしても今回はやりすぎたな……
これはダンジョンを出た後かなり面倒な事になりそうだ。
「そうか? まぁいいや。それよりも宗太はどうした? 個人報酬の選択」
「報酬の選択ですか。まぁ悔いのない方を選びましたよ」
「何だよその勿体ぶるような答え! 因みに俺ははいを選んだぜ」
「そうだったんですね」
俺は赤崎さんにそう答えながら赤崎さんの方をチラッと見る。
恐らくあれが獲得したアイテムだろうな。
俺が目星をつけたのはダンジョンに入った時とは全く違う、鳥の羽のようなデザインの入った白い靴だ。
元々このダンジョンを完全攻略するつもりで来ていた人間はほぼいないだろう。
ただ少し進んで引き返すだろうという想定だったはずだ。
それに仮に攻略するとしても出来るだけ持ち物は無くすべきだ。
食料や水分に至っては衝撃に耐えらえれるように多少手を加えておかなければすぐにダメになるだろう。
しかも戦闘が始まればそれを投げ捨てなければ動きを阻害する可能性もあるし、態々準備した物を捨てる事に抵抗のある人間だっているだろう。
しかしながらそんな事で判断が鈍ったり動きが阻害されていては簡単に死んでしまう。
現状はダンジョンを攻略するにしても少数での最速クリアか、逆に大人数でじっくりゆっくり攻略するかのどちらかになっている事だろう。
ただこれはあくまでも俺の予想でしかない。
そんな事を大々的に発表している所は無いからな。
それ故に装備を変えればそれだけで怪しいという事だ。
俺みたいにアイテムを仕舞っておけるアイテムでもない限りは、な。
……少し探りを入れてみるか。
「選んだ結果もらえたその靴はどんな感じですか?」
「お! コイツか? いやコイツすげぇんだよ。何と三回空中を足場に出来るんだ! しかも地面に着地すれば再度使用できるとかいうヤバい性能だぜ!」
「……」
ダメもとで聞いてみたんだが……
まさかこうもあっさり教えてくれるとは思ってもいなかった。
何せ現状では聞いてるのは俺だけじゃないからな。
ただここまであっさりと聞けると、逆に鵜呑みにするのは危険かもしれない。
仮に三回だと決めつけていて実は四回でしたなんて事があるかもしれない。
それにこれだけじゃなく他にも付随効果があるかもしれないしな。
だがそれでも今聞いた効果はかなり汎用性が高いだろう。
まず空中への回避の危険が極端に軽減される。
そして本来届かない高所への到達も余裕だ。
このトロールとの戦闘を例にするなら、顔を攻撃する時俺みたいに態々トロールの腹を足場にする必要はない。
トロールに近づきながらジャンプし、そこから更に跳躍することで恐らく加速力を乗せた攻撃が可能だろう。
しかもこれのヤバいところは、使用制限がほぼ無いことだろう。
地面に着地すれば再度三回使うことが出来るというのは余りにも緩すぎる気がする。
しかしながら俺は赤崎さんのアイテムにそこまでの魅力は感じない。
何せ疑似的にではあるがその効果は現状の俺でも再現できるからだ。
ただ問題なのは、これ程のレベルのアイテムを他の三人も手に入れているという事。
アイテムの効果を聞ければ一番いいんだが、恐らく赤崎さんみたいに簡単には教えてくれないだろう。
効果が分かりやすいものなら見てるだけで予想できるんだが、俺の手に入れた指輪みたいに客観的にはわかりずらい効果だった場合、能力の予想はほぼ不可能だろう。
「どうだ!? すげぇだろ!」
「そうですね。かなりアクロバティックな動きが出来そうです」
まるで子供のように嬉しそうにそう言ってくる赤崎さんに俺はそう答える。
「だよな!! そういえば宗太はどんなアイテムだったんだ?」
「俺はこの指輪でした」
俺はそう言いながら右手の人差し指にはめた指輪を見せる。
「何か変わった形の指輪だな。それに色も半透明で少し透けてるし……効果はどんな感じなんだ?」
「効果は見てからのお楽しみという事で」
「何だよそれ! 滅茶苦茶気になるじゃねぇか! 使う系のアイテムってだろ?」
「さぁ? どうですかね」
「何だよ教えてくれよ!!」
「それよりも少し肩を貸してくれませんか? 次の階に行くためにも集まった方が良いでしょうから」
「お? あぁ、悪い悪い。気が利かなかったな」
俺は露骨に話題を変えながら大木付近に出現していた大きな扉を指さしながらそう言うと、赤崎さんはそう言ってぴょんぴょんと早速アイテムの効果を使いながら俺の元まで来る。
「よっと」
そんな声と共に赤崎さんは俺が立ち上がる為に上げていた右手を取るのではなく、俺を両手で持ち上げた。
しかもそれは完全にお姫様抱っこのような形で、だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!! 肩を貸していただくだけでいいですから!!」
「気にすんなって! 宗太は今回の一番の功労者だぞ? 一番疲れてるんだから運んでやるよ」
「ならせめておぶってください! これは辞めてください!!」
「遠慮すんなって!」
赤崎さんはそう言うとトロールの上から飛び降り、大木の方へと足を進める。
本当に頼むから辞めてくれ!!
俺はそう思いながらコメント欄を見る。
≪まさかそっちルートだったのか。俺はてっきり水野ちゃんルートか槻岡さんルートだとばかり……≫
≪あぁ、いいっすね≫
≪俺達はそう言ったのには寛容だぞ≫
≪どんまい≫
と言った感じで変な勘違いが広がり始めていた。
クソが……
俺が反応しないことを良いことに、俺をおもちゃにしようとしてるだろ……
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