第32話 個人報酬

「これで……最後だ!」


 俺はそう言いながら炎の消えた[猛火の剣]を地面に横たわるトロールの心臓付近に突き刺す。

 そうすれば横たわったトロールはうめき声を上げたかと思うと、次の瞬間には全身から力が抜けているのを感じた。


 俺はそれを確認してから、トロールの腹の上に疲労感と共に脱力して横たわる。

 周囲にはおびただしい数の魔物の死体が広がっている。

 勿論トロールが暴れて死んだ魔物も中に入るが、ほとんどが俺が倒した魔物だ。


 あれから襲ってくるゴブリンや狼を次から次へと倒し、数がかなり減った段階で結界付近の守りは赤崎さん達に任せて俺は一人でトロールと戦っていた。

 最初は攻撃しても回復するトロールをどう倒そうかと頭を悩ませたが、その問題はすぐに解消された。


 何と軽い攻撃を何度かしているうちに、傷が回復しなくなったのだ。

 軽いとは言っても盾と[風魔法]の加速を使ってそれなりのダメージは勿論与えていた。


 どうやら回復するのにも上限があるらしいと分かればそこからは早かった。

 回復しなくなるまで攻撃を加え、その後盾と[風魔法]を使って加速した重い攻撃で致命傷を与えていくという繰り返し。


 MPが尽きれば結界の中に入り少し休憩し回復した後に同じことを繰り返す。

 ただそれを繰り返すのみだった。

 しかしながらこれもかなりギリギリではあったのだ。


 何せ最初は半球状だった結界が、今では円柱のような形で大木ギリギリの所まで迫っていたのだ。

 あと少し何かが遅れていれば間に合っていなかった。


 それほどまでに危険な状況ではあったのだ。

 ここまで頑張ったんだからそれなりの報酬でなければ満足は出来ないぞ?

 俺がそんな事を思っていると、突如として青白いウィンドウが視界に表示される。


「……何だよこの選択肢」


 俺は表示されたウィンドウを見ながらそんな率直な感想が漏れる。

 突如して出たウィンドウには……



 ???の小木に向かってやってくる魔物の群れから???を守りきることに成功しました。


          成功報酬を付与いたします。

     個人報酬にこの戦闘で獲得した経験値を加算しますか?


             はい/いいえ



 と記されていたのだ。

 そしてこの時点で初めて俺は気づく。

 言われてみればあれだけの数の魔物を倒したのにレベルが上がって戦闘が楽になる気配は全くなかったという事に。


 俺は慌てて自身のステータスを確認する。



名前 久遠 宗太 

職業 魔法戦士

レベル 11


HP  39/46

MP  12/49


攻撃力 44

防御力 44

敏捷性 51

魔力  45


ステータスポイント 40


▼称号

 【最強へと至る資格】【先駆者】【踏破者】


▼スキル

 [剣術 LV2][短剣術 LV1][盾術 LV2][格闘術 LV2]

 New[投擲術 LV1][火魔法 LV1][水魔法 LV1][土魔法 LV1]

 [風魔法 LV2][身体強化 LV1][斬撃耐性 LV3]

 [刺突耐性 LV3][打撃耐性 LV3][痛覚耐性 LV3]

 [精神耐性 LV3]New[衝撃耐性 LV1]



 レベルがこのダンジョンに入る前と比べて一しか上がってない!?

 ありえない!

 あれだけの魔物を倒してたったの一しか上がらないなんてありえないだろ!


 いくつかスキルが増えたりスキルレベルが上がっているのは恐らくあの特殊な戦い方の影響だろうし、この大木に来るまでにも狼かなり倒してる事を考えると、レベルアップしてるのはここに来るまでに倒した狼によってと考える方が自然だ。


 となるとこの選択肢の内容は正しいという事なのか?

 この防衛戦が始まってから倒した魔物の経験値は現在保留状態であり、それを獲得するかあるいは獲得せずにアイテムの価値を上げるかという、究極の選択を迫られているという事かよ!


 クソ!

 何ていう選択肢を出してきやがるんだよ!!

 経験値の獲得を選べば次の階層以降の攻略は比較的楽になる可能性は極めて高い。


 ただアイテムに投資すれば、この先手に入らないレベルのアイテムを入手できる可能性も無いとは言えない。

 つまりはどちらにもそれなりの理が存在するという事だ。


 ……

 …………

 ………………


「……決めた」


 俺はそう呟きながら表示されているウィンドウのの方を軽くタッチする。

 俺がはいを選びこの戦闘における経験値を捧げると決めた決め手は、手にはいるかどうかだ。


 経験値に関しては後からでもダンジョンに入れば入手することが出来る。

 ただ今経験値を捧げて得られるアイテムは恐らく他では得られないんじゃないかと考えたのだ。



 ……現在功績に対して獲得していた経験値を加算し個人報酬を選定中です……



 目の前のウィンドウに表示されるその言葉を見ながら、鼓動が速くなっているのを感じる。

 この選択が間違いではなかったという確信をくれ!!


 ここまで必死に頑張ったのが無に帰るのだけはごめんだ!!

 頼む!!

 俺はそんな祈るような気持ちでウィンドウを見つめる。



 選定が終了しました。

 個人報酬……[空虚なる極致の指輪]を付与いたします



 そんなウィンドウ表示と共に、俺の目の前にまるでメビウスの輪のような半透明な指輪が現れた。


「これが苦労して得られる予定だった経験値を消費して獲得したアイテム?」


 俺は出現した指輪に疑問を抱きながらも手に取り、「フレイバーテキスト」と呟き効果を確認する。



[空虚なる極致の指輪]


 この指輪は装着者の魔力及び大気中の魔力で満たすことで装着者専用のアイテムへと変化する。

 変化した際装着者に最適な効果へと変わる。

 現在の効果はMPの回復速度上昇及び魔力感知能力の向上並びに魔法威力上昇。

 更に一日に一回だけ魔法を完全に無効化できる。



「……」


 疑ってすみませんでした!!

 俺は心の中でそう叫ぶ。

 正直判断に困る部分はあるものの、それでもなおかなり優秀な能力だ。


 MPの回復速度がどの程度上がるかは後々検証が必要だろうが、それでも同じ土俵の人間よりは多く魔法を使えるという事になるだろう。

 それに最後の一文。


 一日に一回魔法を完全に無効化するってなんだよ。

 正直やば過ぎるだろ。

 しかもこれ以上に強くなる可能性を秘めてるとか……ホント無に帰るかもしれないなんて思ってすみませんでした!!

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