第31話 確立され始めた戦い方

「ハァ……ハァ……ハァ……ギリギリだった」


 俺は結界の中で膝をつき、呼吸を整えながら結界の外を見つめる。

 そうすれば結界のすぐ近くで暴れているトロールが確認できる。

 ギリギリ結界に攻撃は届いていないので何とか事なきは得ている。


「おい! 大丈夫なのか宗太!!」

「俺は大丈夫ですから魔物に集中してください!!」


 遠くからかけられた赤崎さんの心配の言葉に、俺は大声でそう返す。

 時計回りにトロールの視界を奪っていた俺は、それと同時に赤崎さん達に俺の予想と作戦を伝え、結界周辺に集まっている魔物を先に処理していくよう指示を出した。


 皆結界が縮んでいるのを確認しているので、俺の考えに即座に賛同してくれたのは要らぬ時間をかけずに済んで非常に助かった。

 そして現状は皆が結界の中に入り、そこから結界に攻撃している魔物を優先して攻撃している状態だ。


 正直やってることはかなり卑怯かもしれない。

 これがゲームだったら即修正されるレベルの行為だろう。

 ただそれでもこれは安全に倒せるというだけで数が劇的に減るというわではない。


 外に出て結界にギリギリ攻撃が届かないぐらいの距離から戦う方が効率は良いだろう。

 ただ先程見た感じやはりこういった混戦に慣れている人間はほとんどおらず、軽傷ながらも傷が目立ったのでこうするように指示を出した。


 ただ一人。

 槻岡さんを除いて。

 彼女は驚愕することに無傷でゴブリンや狼を数多く屠っていた。


 本当にあの人は一体何者でどんな職業を持ってるんだよ。

 恐らく僧侶と言っていたが、絶対に違うんじゃないかと思わせる戦いぶりだったからな。


 とはいえ俺も呑気にここで休み続けるわけには行かない。

 俺はそう思いながらスタミナが回復してきたので立ち上がる。

 戦いの中で忘れそうになっていたがこのミッションには功績に応じた報酬もある。


 トロールを足止めし更にはそのトロールにかなりの数の魔物を倒させている事も功績になるなら、かなりの報酬を期待していいと言えるだろう。

 ただ功績によって貰える報酬の上限が無いのであれば、今の俺に到達できる最高点を目指すべきだ。


 もしかしたらダンジョンを攻略するよりもいい報酬が貰える可能性すらあるのだからな。

 俺はそう思いながら指輪から右手に[猛火の剣]、左手に普通の剣を取り出す。


 そして結界に張り付いているゴブリンに向かって二本の剣を突き刺し、左右に切り裂きながら外に出る。


「蹂躙してやる」


 俺はそう思いながら右手の[猛火の剣]に炎を纏わせるが、明らかに最初より炎の威力が落ちているのが見受けらる。

 俺自身の何かを消費するわけではないが、やはり無制限に使えるわけではないという事か。


 そんな事を思いながら俺に向かって噛みつくために飛んできた狼を軽くしゃがみ回避しながら、剣の刀身を狼の軌道上に置く。

 すると勢いよく飛んできた狼は自身から吸い込まれるようにブレードに飛び込み真っ二つに頭上で切り裂かれた。


 頭上から降り注いだ血を多少拭いながら立ち上がる。

 直後俺に向かって飛んできた氷の塊をその場で軽くジャンプしながら体を捻り背面飛びのような形になりながら避け、氷の塊を撃ってきた狼に向かって左手の剣を全力で投げる。


 投げた剣は凄まじい速度で狼の口に向かって飛んでいき、まるで吸い込まれるかのようにきれいに口の中に刺さる。

 俺はそれを確認して、すぐさま指輪から別の剣を出しながら投げた剣を指輪へと仕舞う。


 そして地面に着地しながら斬りかかってきたゴブリンの攻撃を、左手に持つ剣で受けながら右手の[猛火の剣]で斜めに切り裂く。

 そのタイミング、丁度斬り上げた直後に矢が俺の背中に向かって飛んできた。


 流石にそれは回避するには体勢的にも難しかったので、即座に左手の剣を指輪に仕舞い盾を取り出す。

 そして右手で斬り上げた勢いを利用しながら体を回転させ、盾で矢を受け止める。


 本当にこの指輪はやば過ぎると再認識させられる。

 アイテムを出すのと仕舞うのがほぼノータイムで行えるからこそできる無茶な戦い方だという事はわかっている。

 

 何せ主要武器を投擲武器として使ってもすぐに回収し、武器の切り替えも自由自在。

 絶対に俺なら相手にしたくないけどな。


 俺はそう思いながら飛びかかってきた狼を矢の刺さった盾で力一杯弾き飛ばす。

 こういった多対一で注意するのは出来るだけ一対一を繰り返すことだと何かで聞いたことがある。


 とはいえ弓を持ったゴブリンもそうだが、狼に関しては全個体が遠距離攻撃の手段を持っていると考えると一対一を状況的に作るのはかなり難しい。

 故に俺は攻撃してきた一体の対処に時間をかけないようにしている。


 攻撃された瞬間に反撃、あるいは受けながら反撃し即座に次の攻撃を警戒する。

 集中力と精神の摩耗が凄まじいが、この数の中で一人で戦うとなるとこれぐらいしなければ即座に死んでしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る