第30話 大混戦
俺は魔物の群れに突っ込みながら、真っ先に狙いを定めたのは初めて見るトロールのような魔物だ。
俺はソイツに向かって切り開かれた道を一直線に進む。
先にソイツを狙う理由は至ってシンプルだ。
魔物の群れの中で一番強そうだから。
明らかに群れの中で個体数が少なく、巨体から繰り出される攻撃が強力である事が予想されることからその考えに至った。
現状ゴブリンや狼の攻撃ではビクともしていない空間……仮に今は結界と呼称するとして、その結界は果たして奴の攻撃にも耐えられるのか? それは楽観的に試せる問題じゃない。
一つ間違えれば取り返しのつかない状況になる今、不安要素は極力排除するべきだ。
俺がそんな事を考えている間にトロールと思われる魔物のすぐそこまで接近した。
ただ敵も俺の接近をたやすく許してくれるはずは無く、トロールは俺に対して右手に持ったかなり重量のありそうなデカい棍棒で殴りかかってきた。
受ける選択肢は絶対に無い!
俺はそう思いながら高く飛びあがり、盾で下からの攻撃に備える。
そうすれば殴られた地面は凄まじい衝撃と共にえぐれ、砕けた石が周囲に飛び散った。
それにより近くに居たゴブリンは何体かが石が体を貫通しその場に倒れ、狼は貫通とまではいかないまでも、痛みで唸り声を上げていた。
勿論上に跳んだ俺も砕けた石が凄まじい速度で飛んできた。
ただ事前に来る可能性を考慮して盾で体を守っていたおかげで俺自身は無傷だ。
しかしながら攻撃を防いでいた盾に関してはボコボコに凹んでおり、正直このまま使うには扱いづらい形に変わっている。
にしてもやはり魔物によって防御力も違うのか。
俺は下の惨状を軽く一瞥しながらそう考える。
ただ敵も俺をそのまま放っておいてくれるはずもなく、弓を持ったゴブリンは俺に向かって弓を構え、狼は口を大きく開き氷を飛ばそうとしている。
そんな状況にトロールはわかりやすく俺に向かって笑みを浮かべる。
この状況では攻撃を避ける事は不可能だと思い、何もできずに死ぬ未来を予想しての事だろう。
だが……
「悪いがこれは想定済みだ」
俺がそう言った呟いた直後、矢と氷の塊が俺に向かって勢いよく飛んできた。
ただ俺はそれに焦ることなく左手に持つボコボコに凹んだ盾を自身の足下にやる。
そしてその盾に向かって[風魔法]を全力でぶつける。
「うっ!」
あまりの衝撃に思わず声が漏れるものの、予想通り俺は空中であり得ない加速をしながらトロールに向かって上から斜めに飛んでいく。
勿論俺に向かって飛んでいた攻撃は全て空を切り、果ては反対側の魔物に向かって攻撃が降り注ぐ始末だ。
しかしながら俺はそんな事には目もくれず、加速した速度を利用しながらトロールの右腕に斬りかかる。
「チッ」
俺は舌打ちをしながら両断できないと判断した瞬間、剣の刃先を流すようにしながらトロールの横を抜け後ろに回るようにして地面に着地する。
右腕は両断するつもりだったが、半分ほど切るので精一杯か。
[風魔法]の加速も乗せてこれとは……面倒だな。
そんな事を思いながらチラッと配信画面のコメントを見れば、「何だよアレ!!」「今空中で方向転換して加速しなかったか!?」「何したんだ! まさかそういうアイテムを持ってるのか?」と言った感じで魔法については一切気付いていない様子だ。
こっちもある程度予想通りで助かる。
ここまで俺は全く魔法を使わず[猛火の剣]を使って戦っていた。
真っ先に思い浮かぶのはアイテムだろう。
魔法が使えるなら使っていると考えるはずだからな。
その上[風魔法]は無色透明。
目視する事は不可能だろう。
俺はトロールのデカい図体を後ろから見上げながらそう考える。
ただトロールは斬られた腕を一瞥し、特に何も感じていない様子で俺の方を見ると斬られた腕をそのまま引きずるようにして後ろに振ってきた。
コイツ何も考えてないのか!!
俺はそう思いながら先程よりは低くジャンプして攻撃を回避する。
ただ勿論そんな無差別な攻撃は他の魔物を巻き込み、俺の後ろに居た魔物は半円状に綺麗に巻き込まれ飛ばされていった。
周囲の魔物もコイツの行動に動揺しているようで俺が荒れた不安定な地面に着地してもなお追撃は無かった。
コイツパワーはあるがおつむの方が回らないって感じかよ。
それに痛みも特に感じず、最悪な事に回復力も高いってか……
俺は自身が斬ったトロールの右腕見ながらそんな事を思う。
俺が半分ほどまで切り裂いた腕は既に少しずつ再生し、徐々にくっつき始めていた。
「クソ……一気にけりをつけないと倒せないタイプかよ」
こういった防衛戦においてこのタイプは一番面倒だ。
こちらとしては即座に倒して次に行きたいのに、持久戦を強いて来るタイプ。
どう処理するか……
「!!」
俺がそんな事を考えていると、唐突に結界の方から割れるような音が聞こえた。
その音に対して即座に視線をやれば、結界が先程までよりも少し小さくなっているような雰囲気を感じた。
クソ!!
そういう感じかよ!
ゴブリンや狼の攻撃は特に意味が無いと思ってたが、そういうわけじゃなかったんだ。
あの結界にはある程度の耐久度のようなものがあり、それが攻撃によって一定値を下回った場合小さくなる。
そして完全になくなってしまうとこの防衛戦は失敗という事だろう。
「クソが!!」
こんなのこの人数で出来る事じゃないだろ!
せめて三倍……いや倍の人数でもいれば何とかなるのに!
結界付近で攻撃してる魔物を先に処理するべきだが、俺の予想が正しいとすればパワーの一番高いコイツを結界に近づかせるのはもっとダメだ。
何か……何か手は無いか!?
俺はそう思いながらキョロキョロと周囲を見渡すが、使えそうなものも現状の打開につながりそうなものも無い。
このままコイツの相手をしていては手遅れになる可能性がある……
……待てよ。
本当にコイツを倒す必要はあるのか?
要はコイツが結界に近づきさえしなければ問題ないんじゃないか?
それにコイツ結界よりも襲ってきた俺に意識が向いてるよな。
……
…………もしかしたら行けるかもしれない。
今回はあの大木を守り切りさえすればいいんだ。
なら別にコイツを態々倒す必要はない。
ただコイツを結界に近づけさせなければいいだけ。
そして出来る事ならこのデカブツにここで暴れてもらって、ここら辺の魔物も処理してもらえれば更に良い。
現に今の戦いだけも相当数やられてるし、やりようによっては行けるだろう。
一か八かやってみるしか無いだろ!!
他の人達の所がどうなってるかもわからないし、このままではじり貧だ。
なら少しでも可能性のある行動を取るべきだ!
俺はそう判断し、右手に持つ剣を指輪に仕舞いトロールの足下まで全力で距離をつめる。
コイツはデカくてパワーはあるが、速度は鈍い。
そして足下まで接近した俺は高く上に飛びあがる。
そしてトロールの胸辺りまで飛んだ俺は、そのままトロールの胸を足場にして更に斜め上に飛ぶ。
「今からお前にはここで暴れまわってもらう!」
俺の言葉にトロールは首をかしげるかのような動きをするが、俺はそんな事を気にも留めず指輪から槍を二本両手に出す。
そしてその槍を全力でトロールの眼に向かって投擲した。
動きの鈍いトロールはそれを避ける事は出来ず、両目に槍が突き刺さった。
その瞬間トロール大きな唸り声を上げる。
それは痛みで上げた声というよりは視界が無くなった事に対してのものだろう。
ただ俺はそんなトロールの声など気にせず指輪から盾と[猛火の剣]を出し、先程と同じように盾を足下にやり、盾に向かって[風魔法]を先程よりは弱い威力でぶつける。
態々盾を介しているのはカモフラージュの意味もあるが、最たる理由は自身へのダメージをゼロにするためだ。
勿論加速する衝撃はあるが、ダメージ自体はこうすることによって受けないからな。
そして[風魔法]を使って移動した事によって、狙い通りトロールの顔面に着地した俺は[猛火の剣]に炎を纏わせながら目から出ている槍の部分を切り落とす。
これで抜くことは不可能だろう。
俺はそう思いながらトロールの顔を蹴り地面に向かって着地する。
「おっと」
トロールによってかなり地面が荒らされていたので着地の瞬間よろけるが、俺は狙い通りになったのを見て笑みがこぼれる。
トロールは片手で眼を押さえながらもう片方の腕を振り回している。
これでここら辺の魔物は抑えられるだろう。
急いで結界の方に向かいたいが、それよりも先に他のトロールも同じように前線でも抑え役としてその場にとどまらせ暴れてもらわなければならない。
俺はそう考え、視界の端に見えたトロールの方向へと走り出す。
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