第34話 強敵

「ハァ……」


 俺は大木付近に現れた大きな扉を前に大きくため息をつく。


「何をそんなに落ち込んでるんだよ? もしかして俺の方が良い効果のアイテム貰ってたとかか?」


 俺は元凶である赤崎さんのそんな言葉に、更に深くため息をつく。

 あれから俺は扉の前で待っていた三人お姫様抱っこで運ばれるのを見られ、かなり恥ずかしい思いをした。


 しかも最悪なのが全員の、特に俺の疲労感が抜けるまで次の階には行かずに回復するのを待っている間変に気を遣われた事だ。 

 とはいえその間に他の人達の個人報酬に関してある程度予想は出来た。


 流石に赤崎さんみたいに効果を話してくれるようなことは無かったが、赤崎さんと同じように新たに装備しているアイテムを見れば獲得したアイテムに関しては一目瞭然だからな。


 それぞれ水野は黒いロングケープ、風吹君は弦の無い弓、槻岡さんは赤い宝石のようなものが付いたバングルとわかりやすいものではあった。

 効果に関してはこの先の戦闘である程度予想を立てるしかないだろうな。


「……アイテムに関してはひとまず置いておいて、俺が回復するまで待っていただきありがとうございます」

「何だよ! そんなこと気にするなって、さっきも言ったがお前が今回の一番の功労者なんだから」

「そうですね。それに関しては私も同意します。久遠さんが居てくださったおかげで何とかしのげたと思います」

「ぼ、僕も! そう思います……」

「私も久遠君が居なければあの大きな魔物の対処は難しかったと思います。あれの対処を久遠君一人に任せて申し訳なかったと思っています」

「ではお互い出来る事をやったという事で気にせずに次に行きましょうか?」


 申し訳なさそうに槻岡さんがそう言ってきたので、俺は雰囲気を変えるかのようにそう伝える。

 槻岡さんは最年長であり尚且つ冒険者協会という冒険者の元締めのような所の所属の為なのか、かなり責任を感じているような雰囲気を感じる。


 何せ俺達が休息している間ずっと申し訳なさそうな表情を浮かべていたからな。

 正直こんな事になるなんて誰も予想できなかったはずだし、この試験を考案したのは槻岡さんではないだろう。


 俺としては今のところ全世界に配信されて情報が筒抜けなこと以外はかなりいい思いをさせてもらってるから本当に気にしてない。

 逆にダンジョン攻略等に集中してもらっていた方が気が紛れるだろう。


「お! 宗太が大丈夫なら俺はいつでも行けるぜ!」

「私も大丈夫です」

「僕も……大丈夫です」

「私も構いません」

「それじゃぁ行きますか」


 俺はそう言って、率先して扉を開ける。

 扉の先にはダンジョンに入った時と同じような空間自体が揺らめいているようなものがあり、特に階段等があるわけではなかった。

 俺はそれを見て少し驚きながらも、ためらうことなくその中へと入っていく。

 

ーーーーー


 出た先に広がっていたのは空を覆うほど大きな木が生い茂る密林。

 大きいとは言っても防衛戦の時の大木程ではない。


「お? 今度はジャングルか?」

「足場が悪いので戦いにくそうですね」

「こうも環境が変わるダンジョンの情報はないですね」


 俺の後に続いて入って来た面々はそれぞれ生い茂る木々と足元を見ながらそう言う。

 ただ一人風吹君だけは何も言わず、周囲を真剣にキョロキョロと見渡していた。

 

 にしても水野の言った通りかなり足場が悪い。

 木の根が地面からそこら中に飛び出しており、戦闘に集中していたら足を取られるのは必須だ。


「!! 横に跳べ!!」


 俺は突如としてこちらに向かって急速に近づいてくるを感じ取り、咄嗟にそう叫ぶ。

 その言葉に赤崎さんと槻岡さんは左に、水野は右に咄嗟に反応して飛んだのだが、風吹君は反応が遅れる。


 俺は誰か反応が遅れる人がいるかもしれないと備えていたため、即座に反応の遅れた風吹君を抱えて水野のいる方に投げる。

 そしてすぐさま指輪から盾を出し、更には[身体強化]を発動して飛んでくる何かの方向に盾を少し斜め上にして構える。


「うっ!」


 直後飛んできた何かが盾にぶつかったかと思うと、あまりの衝撃で一瞬にして体が吹き飛ばされ、後ろの木まで吹き飛ばされる。


「アッ……」


 ぶつかった衝撃で肺の中の空気が全て強制的に出されるようなそんな感覚に陥る。

 ただ幸いなことに盾を斜めにしていたおかげで飛んできたを受け流すことは出来た。


 もし真正面から受け止めていれば既に戦闘不能だっただろう。

 にしてもあれはなんだ。


「大丈夫か宗太!!」

「おれ、のことはいいから……つぎに、そなえろ」


 俺はゼェゼェと息を整えながら、無理やりひねり出したかのような声でそう伝える。

 何かが飛んでくるような気配は感じないが、もしまた飛んで来たらかなり不味い状況だ。


 それに何故俺はその飛んできた何かを事前に感じ取ることが出来たのかという疑問もある。

 正直かなり奇妙な感覚ではあった。

 何故かこちらに近づいてくるのようなものを感じ取ったのだ。


「今のを凌ぐとは思ってなかったぞ……か弱き挑戦者達よ」


 次の攻撃に備えていた俺達に聞こえてきたのはそんな予想外のだった。


「な! なにもんだ!!」


 そんな言葉に赤崎さんが少し動揺しながらそう叫ぶ。

 明らかに俺を含め全員が動揺しているのがわかる。

 何せダンジョン内で俺達以外に話が出来る相手がいるなんて想像してなかったからだ。

 しかも俺達の理解できる言語で……


「そんな事わかりきっているだろ? 私はお前達か弱き挑戦者の……敵だ」


 そんな言葉と共に何かが飛んできた方から現れたのは、真っ白の体毛に覆われた二足歩行の、まるで人狼かのような未知の存在。

 何だよアイツ……

 今まで相手してきた相手とは全く異なる威圧感を感じる。

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