第24話 配信
「ハァ……ハァ……宗太、色々と聞きたい事がある」
呼吸を整えながら赤崎さんはそう切り出す。
水野さんを助けた後、俺は同じように赤崎さんのもとへ駆けつけたのだが狼は既に数本の矢が刺さり、更には致命傷らしき傷を負っていたので特に手を出すことは無く戦いが終わるのを見守っていた。
そして決着がついた直後に先程の言葉を切り出してきた。
正直聞きたい事についてはわかりきっているし、話してもいいと判断したモノしか使っていなので問題ない。
勿論指輪については詳細はある程度誤魔化すつもりではあるが……
それよりも問題は魔法についてだろう。
これについて正直にボスが使っていたと話せば、ボスまで到達したという事実が間接的に伝わってしまう。
「久遠君、私もいくつか聞きたい事があります」
そんな言葉と共に槻岡さんも俺達のもとへと駆け寄りながら、真剣な表情でそう言ってきた。
これは今後の攻略の事を考えると正直に話した方が良いかもしれないな。
変に誤魔化したら後々の信頼関係が壊れかけない。
とはいえ、指輪に関しては収納機能に制限のあるアイテム程度に説明するしかない。
こればっかりは説明するためには色々と面倒な事が多いかならな。
「わかり……!」
俺が言おうとした言葉は、強制的に途中で止められた。
しかも言葉だけではなく体自体が強制的に停止させられた。
それは俺だけではなく、この場に居る五人全員が同じ状況だ。
これほど特殊な事を俺達は既に一度経験している。
その時と全く同じ状況。
つまりは……
「やぁ君達! 久しぶりだね?」
そんな言葉と共に、俺達の前にどこからともなく真っ白の祭服を来た少年が現れた。
そう、この少年がこの世界に新たな法則の追加を宣言したあの時だ。
「タイミングを見計らって来たんだけど……どうかな?」
少年はそう言いながら、意味深な視線を一瞬俺に向ける。
つまりは狙ってこのタイミングで来たという事か?
「とはいえ僕も長時間この空間に干渉するのは難しいから、出来るだけ手短に用件を済ませる事にするよ。僕が直々にここに来たのは、新たに追加されるシステムについて話すためだ」
少年はそう言いながら動けない俺達の周りをゆっくりと歩きながら話を進める。
新たに追加されるシステム……アイテムの売買システムと配信機能か。
それに関しては俺は既に聞いている。
ただ正直それを説明するためだけにこの場に来たとは思えない。
「そう不安がる必要はないよ。これは君達にとっていいことだと思うから。まずはアイテムの売買システムだ! これはステータスを獲得している者なら全世界どこに居ようと取引が可能! しかもなんと驚きの取引手数料無料!!」
そんなまるで新手の詐欺かのような言葉を知ってか知らずか楽しそうに少年は話す。
ただこれが本当なら倒産する企業はかなり多いだろう。
何せ取引手数料も配送料もかからないのだ。
既存の物流業界を崩壊させかねない画期的すぎるシステム。
とはいえ実際どういったものが取引できるか確認してみない事には何とも言えない。
ただなんでも取引出来た場合物流という物を流す必要がなくなり、運送業や販売業は軒並み無くなってしまうだろう。
その場合果たしてどれだけの人が路頭に迷うのか……
正直考えただけで吐き気がするほどだ。
これを願った奴も、そこまでは考えておらず軽い気持ちだったのだろう。
とはいえこれは全世界に衝撃を与えるシステムである事には変わりない。
「更に冷静に考えれられるようになってこのシステムの危険性に気付いた人間がいるみたいだね? いいね! ただそこは僕とは関係のないことだ。文句は僕じゃなく、このシステムの導入を願った人間に頼むよ? そしてここからは今最も君達に関係してる二つの事の話だ!」
二つ?
後残っているのはダンジョンが変わった事と配信機能だけのはず。
ダンジョンの変化に関しては現在進行形で関係しているが、配信機能に関しては俺達は現状無関係とまでは言わないがそれほど関係する事じゃないはずだ。
もしかして何かあるのか?
俺はそう思いながら視界に入っている槻岡さんの方を見るが、時間が止められているこの状況では表情なんて読めるはずが無かった。
「気になる!! 気になるよね!! いいよ教えてあげる! まず一つはダンジョンのレベルアップだ! ……」
そうして語られたのは、俺があの真っ白の空間で聞いた内容と全く同じ内容だった。
ここまでは予想通りだ。
しかもこれによって現在のダンジョンの危険度が共有されたのは助かる。
ただそうなってくるとあと一つは配信機能しか本当に無いはずだ。
それが俺達関係するって本当にどうゆうことだ?
「さて、じゃぁ大本命の説明だ!! これは僕が色々と君達の世界のものを参考に作ったんだけど、実際に動かしてみると予想以上に良くてね! その名も配信機能! これはダンジョン攻略の様子を全世界に配信することが出来、ステータスを獲得してる者なら誰でも視聴することが出来る」
うん。
俺が聞いた話と同じだ。
これのどこが今の俺達と最も関係する事なんだ?
「そしてなんと! 今の君達のダンジョン攻略を僕が配信してました!!」
……は!!!
待て待て待て待て!!!
つまりなんだ!
今の戦いが全て全世界の誰でも見れる状況だったって事かよ!
ふざけるな!!
まだ[猛火の剣]に関しては百歩譲って良い。
ただ[帰属する隠蔽の宝物庫]の効果に関してはここにいる人間には攻略の過程でいずれ見せる必要性が出てくると判断して使ったんだ。
それを全世界の人間に見られてたかもしれないだと!!
このアイテムの異常性は使ってる俺が一番わかってる。
どんな映り方をしてたのかは知らないが、それでも明らかに異常な戦い方に見えたことだろう。
何せどこからともなく武器を取り出したり、仕舞ったりしてるんだからな!!
「良いね! いいよその反応!! 一応言っておくと配信してるのは君達だけじゃなく、変化したダンジョンにタイミング悪く入ってしまった人間全てだ。因みに数的には現在31組……いや、今3組減って28組になったところだ!」
複数配信があるならまだ分散されて数は少ないかもしれない。
それがせめてもの救いだな。
とはいえこれで説明しないなんてことが出来なくなった。
この状況になってあわよくばなあなあに済むかと思ったのに、それは無理そうだ。
しかも今減ったって言ったという事は、配信できない状況に追い込まれたという事だ。
配信できない状況……つまりは死んでしまったという事だろう。
クソ……
手札を勝手に全世界に晒されて気分が悪いってのに、更に悪くなるような情報だ。
「なんだかげんなり君達に朗報だ! 何と君達は今配信されている攻略映像の中で一番の視聴者数だ! 喜ぶといい! じゃぁここからの攻略も頑張ってくれたまえ!」
少年は嬉しそうにそう言ってサムズアップすると、直後に忽然と姿が消えた。
それと同時に俺達の時間も再び動き出す。
「…………ハァ」
少年が消えた後、俺は怒りを通り越し諦めの感情と共にため息が出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます