第25話 視聴者と説明

 俺は自身の配信されている画面を見て驚愕していた。

 配信されている画面はまるで三人称視点であり、横にはコメントが流れていた。

 まるで某配信サイトみたいだなとは一瞬思ったが、驚いたのはそこじゃない。


 驚いたのは視聴者数だ。

 1430520人。

 しかも現在も増え続けている。


「おいおい、ヤバくないか俺ら!」


 赤崎さんはどこか嬉しそうにそう言った。

 ただ他の面々は驚きの表情を見せている。

 中でも槻岡さんは頭を抱えながら困惑している。


 正直俺としてもこれは非常に芳しくない。

 もう少し数が少なければどうにかなるかと思ったのが、これは予想以上の数だ。

 現にコメントでも俺の動きに関するコメントが活発だ。


 ただこれだけの視聴者が居れば日本人だけでなく海外の人も見てると思われるのだが、コメント欄は全て日本語だ。

 まさか翻訳されているのか?


 あまりにも不自然だ……

 もし仮にそうだとしたら……それが問題だ。


 配信されている俺達の映像内の俺達の声まで翻訳されているとしたら……

 見る分には良いが、今から指輪の件に触れるとしたら正直困る。


「あ! そうだよ! コメントでも色々聞かれてるけど俺も聞きたい事があったんだ! あの狼の氷を飛ばすやつ全然驚いてなかったのは何か知ってたって事か?」


 色々と聞かれるだろうと思ってはいたが、まさか赤崎さんから聞かれるとは思ってなかった。

 それに聞かれるのが剣の事でもアイテムを出し入れしてた事でもなく、魔法について聞かれるとは……


 予想外過ぎる。

 俺はそんな事を思いながらも、周りの面々は興味津々といった感じでこちらに視線をやり、配信のコメント欄は凄まじい勢いで加速していた。


「……見たことがあったんです」

「この狼と戦った事があったって事かよ!!」

「違いますよ。この狼ではなく、あの攻撃によく似たものをです」

「あの攻撃って氷を飛ばすやつか? あんな攻撃をしてくる奴と戦った事があるのかよ!! それはどんな魔物だったんだ?」

「あの時……」

「久遠君待ってください!! それは今この状況で話しても本当に大丈夫な事ですか?」


 槻岡さんが俺の言葉を遮るように力強くそう言ってきた。

 含みのある言い方……恐らく配信されている状況で話してもいい情報なのか? と言いたいのだろう。


 とはいえここで変に誤魔化して後々矛盾が生じたときに面倒な事になるのは目に見えている。

 それにこれだけの人間に見られている中で攻略を行っていくなら、いずれぼろが出るのは目に見えてる。


 それなら絶対に隠すところと話してもいい情報の取捨選択が必要だ。

 そしてこの情報は特段隠す必要は無いだろう。

 俺はそう思い、制止してきた槻岡さんに対して軽くうなずきを返す。

 ただそれを見た槻岡さんはまだどこか不安な表情を浮かべる。


「あの時戦ったのはゴブリンでした。ただ普通のゴブリンではなく、背丈は俺よりも高かったですしガタイに関してもしっかりしてました」

「へぇー、やっぱ強かったのか?」

「そうですね。正直かなり強かったです。今戦った狼とは比較にならない程でした」

「マジかよ!! そんなに強かったのかよ! 良く勝てたな! どうやって勝ったんだ? その時は一人で戦ってたのか?」

「その時は一人でした。ですのでかなり無茶をして勝ちましたよ。だからどうやって勝ったか? と問われれば肉を切らせて骨を断つ感じですかね」


 俺は赤崎さんにそう言いながらチラッとコメント欄を見る。

 するとコメント欄には「もっと詳しく!」や「それよりもあの燃える剣何?」や「急に剣を出したのはどうやったの?」等のコメントが無秩序に流れていた。


 ただ俺の言葉を聞いた赤崎さんは満足したように数回うなずいている。

 言ってて思ったが、今の話は嘘は言っていないもののあまりにも具体性に欠ける内容ではあった。


 何せ情報としてわかるのはゴブリンだった事ぐらいだろう。

 特にどんな攻撃をしてきたのかも、何体だったのかも言ってないからな。

 話の流れ的に勝手に氷を飛ばしてくるゴブリンだと想像してくれたのかもしれない。


「久遠さん! 僕からもいいですか?」

「うん? 何だい?」


 予想外の所からの質問に、俺は気が抜けたかのような声でそう返答する。

 質問してきたのは弓を両手で握りしめていた風吹君だ。


「あ、あの! 剣をどこからともなく急に出したアレ! どうやったんですか!?」

「はぁ? 何だよ? どういうことだよ誠、宗太?」


 風吹君の言葉に先程まで満足そうにしてた赤崎さんが食いついてくる。

 槻岡さんは風吹君の言葉を聞いて軽くため息を漏らしていた。

 ただ何よりも気になったのはコメント欄だ。


 凄まじい勢いで加速し、読むことすらできない程である。

 もしかしたらと思っていたのだが、やはりこの話題は避けては通れないか……

 俺はそう思いながら右手を前に出し、[猛火の剣]を指輪から出す。


「おいおいおい!! 何だよ! どうやったんだよ今! 急に何もないところから剣が出てきたぞ!」

「!!」


 直後赤崎さんは大声で驚きながら俺の手元と顔を交互に見る。

 そして先程見てはいたはずの水野さんも、静かに驚きの表情を浮かべていた。


「これの事だよね?」

「そうです!!」

「おい! その反応! 誠と彩香さんは知ってたのかよ!」

「そ、それは……」

「……ハァ。知りはしませんでしたよ。ただ私達は久遠君が戦闘中にそれを使っているのを見ただけです」


 槻岡さんはため息をつきながら、どこか諦めたようにそう言った。

 そして槻岡さんどこか決心した様子で、強い眼差しで俺の方を見据える。


「風吹君が聞いた理由はわかります。彼は弓使いであり、矢を久遠君みたいに自由に出し入れできればと考えたんでしょう。違いますか?」

「は、はい。その通りです」


 槻岡さんは風吹君ではなく俺を見つめながらそう言ってきた。

 これは問い詰める気満々って感じだな。

 さっきのゴブリンの件はあやふやにして突っ込んでこなかったのに、どうしてこの件には介入してきたんだ?


 何らかのそうなる要因があったという事か?

 何にしてもはぐらかすのは無理そうだ。

 まぁどちらにしても今後の事を考えて話すつもりだったから問題は無いが。 


「ただ私の予想では恐らくそれは、人に教えたところで真似する事は出来ないんじゃないですか?」

「はい、その通りです」

「なら詳細は教えていただかなくて大丈夫です! ですが、出来る事は多少教えてください。例えば武器以外にも出せるのか、具体的にはこの場に存在しない食料や衣服等は出せるのかについて教えてください」


 うん?

 何か想像してたのと少し違う質問が来たな。

 しかも何やら言葉の節々からあまり詳細な事は言うなという感じの圧を感じる。

 俺としてはこれはこれで助かるからいいのだが、槻岡さんの意図が全く読めない。

 

「出せはします。ただ無限に出せるわけでも、選んで出せるわけでもありません。元々あるものしか出せません」


 俺がそう言ったと同時に、槻岡さんが一瞬顔をしかめた。

 どうしたというのだ?

 今発言に気になる部分でもあったとでも言うのか?


 槻岡さんがどういう立ち位置でこの話を聞いてるのかわからないから、反応の意図が全くわからない。

 俺を守るために言い過ぎだという意味なのか、他にわかりにくいようにもう少し話せよという意味なのか、俺からしたら全くわからないのだ。


 故に反応に困ってしまう。

 

「わかりました。その件に関してはもう十分です」

「え! もういいんすか? 俺もっと気になりますよ!」

「教えてもらったところで私達が使えないのならこれ以上聞いたところで意味はありませんよ。それよりも現状出れるかわからないダンジョンにおいて食料や衣服が少しでも確保できている事に喜ぶべきです」

「そうかもしれないっすけど……」


 どこか不満げにそう言った赤崎さんに対して、槻岡さんは深くため息をつきながら頭を抱える。

 今の感じからして、槻岡さんはこれ以上この件の話を俺にしてほしくないって感じか。


 で赤崎さんは恐らくこの能力をどうやって手に入れたか聞きたいんじゃないだろうか?

 正直それは絶対に教えられないが、ただ勝手にそうなんじゃないかと思いこませることは出来なくもない。


 俺が持つ情報を渡すことにはなるが、今後多用する事になるかもしれない上に、指輪について勝手に誤解してくれるかもしれないことを考えれば安いものかもしれない。

 俺はそう思い不満げな表情の赤崎さんに声をかける。


「赤崎さん。実はこの剣魔物を倒して手に入れたモノなんですけどね、特殊な能力があって燃えるんですよ」

「何だそれ! 見せてくれよ!」

「構いませんよ」


 俺はそう言って[猛火の剣]に少しだけ炎を纏わせるように念じる。

 すると俺の思った通り剣身を炎が覆った。


「スゲー!! おいコレ魔物が落としたって言ったよな!」

「はい」

「なるほどな!!」


 俺の言葉に赤崎さんは嬉しそうにそう反応し、槻岡さんはまるでこの世の終わりかの如く絶望した表情を浮かべていた。

 そしてそんな俺の事を見ていた風吹君はまるで憧れるかのような視線を向け、水野さんは驚いた後何かを考えるように視線を落としていた。


 因みに配信のコメント欄は読むことが出来ない程加速していた。

 チラッと目に入ったのは「アイツだけ別ゲーしてないか?」というコメントだった。

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