第23話 猛火の剣

「おい! 何だよアレ!!」

「何ですか……今のは」


 放たれた氷の塊を見て、両脇で戦っていた二人が驚きの声を上げる。

 いくら今までのダンジョンに入っていようと、魔法を使ってくるような魔物とは遭遇してないのだろう。


 俺ですら魔法を使ってきたのはボスだけだったからな。

 魔物が使うのを見るのは初めてという事だ。

 ただだからと言って戦闘中にほうけていい理由にはならない。


 俺はそう思いながら右手に持つ盾を水野さんの方に全力で投げる。

 そうすれば俺の投げた盾は丁度水野さんへと飛びつき噛みつこうとしていた狼の横っ腹に命中した。


「赤崎横に跳べ!」


 それと同時に俺はそう簡潔に叫ぶ。

 そうすれば赤崎さんは俺の声に咄嗟に反応し、狼が放った氷の塊をギリギリで回避した。


「赤崎さん! 水野さん! 集中してください!! 風吹君も俺は良いので二人に対して援護を!!」


 俺を角で突き刺そうと飛んできた狼を避けながら大声でそう叫ぶ。

 他を注意しながら戦う余裕はある。

 速度的にも脅威となるほどじゃない。


 ただ体感的にはあの時のダンジョンボスとまではいかないまでも、それに近い速度と力を感じる。

 しかしながらあの時とは違い、数的不利は無く逆にこちらの方が有利である。


 故にじり貧になる事もなければ、魔法攻撃で行動を誘導される心配もない。

 それが分かっていれば負ける事はまずないだろう。

 けれどそれは俺ならという話だ。


 赤崎さんと水野さんの実力に関して俺はそれなりに戦える、ぐらいしか知らない。

 先程の動きを見ても負けないとは思うが、勝てると断言できるだけの判断材料が無いのだ。


 だから俺は俺で出来るだけ早くコイツを処理して手助けに行くべきなのだが……

 正直コイツがどの程度魔法を使えるのか調べておきたい。

 もし仮にこの先こういった魔物が普通に出てくるのであれば、ある程度情報が欲しいからな。


 コイツはあの時のゴブリンみたいに杖を使って魔法を行使してるわけじゃないから、どちらかと言えば俺に近い魔法の使い方が出来ると考えてる。

 そうなってくるとかなり応用がきいて面倒なのだ。


 ただそのせいで誰かが傷ついては目覚めが悪すぎる。

 あの少年が言っていたことも気になるし……

 ここは段階的にでも持ってる手札を多少見せておくべきだろうな。


「ハァ……


 俺はため息交じりにそう呟く。

 そうすれば俺が持つ剣の剣身がメラメラと燃えだす。

 どういう構造をしてるのか全く分からないが、温かくは感じるが持っている俺は全く熱さを感じない。


 そして俺が剣から炎を出したのを見て、狼が少し後ずさりをした。

 だがもう遅い。

 俺はそう思いながら燃え上がる剣を強く握り、狼との間合いを一瞬でつめる。


 そして狼に向かって斜め上からの斬りを放つ。

 狼はそれを上手く顔を傾け角で受け止めた。

 ただ斬りつけられた剣は先程と違い燃え上がっており、狼はその熱を必死に耐えている様子だ。


「受けるのではなく避けるべきだった」


 俺はそう言いながら指輪からゴブリンから奪った剣を出し、即座に耐えている狼の頭に突き刺した。

 同時にその剣を引き抜けば凄まじい勢いで血が飛び散り、その場に狼が力なく倒れこんだ。


 攻撃を受けた時点で勝負はついていた。

 ダンジョンから現状即座に出ることが出来ないなら、いずれ指輪の効果を説明しなければならない状況が来てしまう。


 何せ指輪の中には食料や水が潤沢に入っているからな。

 なら戦いの中で小出しに見せた方が良いと判断したんだ。

 俺はそんな事を考えながら狼を一瞥し、すぐさま水野さんの方に向かう。


「風吹君!! 水野さんの方には俺が行くから赤崎さんの方を重点的に援護して!!」


 俺は水野さんの方に走り出しながら、風吹君と槻岡さんがいる方を見ながらそう言った。

 それに対して風吹君は頷き肯定の意を示し、隣にいる槻岡さんは驚きの表情で俺の事を見ていた。


 槻岡さんに知られたのが一番の懸念点ではあるが、背に腹は代えられない。

 この先命がかかった場面で使うべきか隠すべきかと判断に迷うぐらいなら、ダンジョン攻略が始まった今見せておいた方が後々迷うことが無くて気持ち的にも楽だからな。


 俺はそんな事を考えながら回避に専念している水野さんの方に視線をやる。

 先に水野さんの方に向かったのは戦況的に危ういと感じたからだ。

 それは別に赤崎さんの方が強くなっていたとかそういう意味ではない。


 単なる武器的相性の問題だ。

 水野さんの使う武器は刀。

 切れ味こそ抜群だが正面以外からの攻撃には案外脆く、扱の難しい武器だ。


 そして敵は速度も速く、遠距離攻撃手段もある。

 故に接近し攻撃を至近距離で避けつつ、躱されずに両断できる絶好の機会を待っているのだろう。


 それに比べて赤崎さんは槍で牽制して一定の距離を保ちながらひたすらに自由を与えないという感じだった。

 一歩間違えればいつ重傷を負ってもおかしくない方は一目瞭然だ。


 そんな嫌な予感は的中してしまう。

 水野さんは狼の攻撃を避けた直後、足元の草に足をとられバランスを崩す。

 そんな水野さんを待ってましたと言わんばかりに、狼はすぐさま水野さんに向かって首元を噛みちぎらんとばかりに大きな口を開けて飛びついた。


 クソ!

 間に合えよ!!

 俺はそう思いながら左手の剣を指輪に仕舞い、全力で水野さんのもとへと移動する。


「うっ! …………え?」


 死を覚悟してか目を強くつぶっていた水野さんは、その攻撃が来ないことに驚きながら眼前の状況を見てそんな声を漏らす。


「間に合ってよかったです」


 俺はバランスを崩した水野さんを左腕で支え、顎下から燃え盛る剣で貫かれた狼を見ながらそう言った。

 幸いなことに水野さんを攻撃するのに集中していた狼は俺の接近に全く気付かなかった。


 だからこうもたやすく突き刺す事が出来たのだろう。

 燃え盛る剣に突き刺された狼は息絶えた様子で脱力している。

 周囲には肉の焼けるにおいが漂っており、やはりしっかりと熱を持っているんだと実感させられる。


 ただこのまま剣を抜き、地面に落としていいものか?

 現状[猛火の剣]で刺した箇所がどれほどの熱を持っているのかわからない。

 もし仮にかなりの熱だった場合最悪焼け野原になる可能性だってあるのだ。


 俺はそう思い、少し悩みながらも[猛火の剣]ごとこの狼を指輪に仕舞えないかと試したところ、なんと出来てしまった。


「え!?」

「あ……アハハ」


 それを見ていた水野さんから驚きの声が上がり、俺は何と説明しようか迷った挙句笑ってとりあえず誤魔化した。


 クソ!

 カッコよく助けられたと思ったのに、しまらないじゃないか!

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