第17話 スカウト
俺は案内された個室の椅子に腰かける。
あの自衛隊の男性との後、施設内にあるダンジョンに案内されゴブリンを一体倒したところ、この個室へと案内された。
特に変わった事をしたわけではないので、恐らく魔物を本当に倒すことが出来るかの試験だったのだろう。
正直直前の戦いの方が何倍も難易度が高いと思ってしまったがな。
「久遠 宗太さんで間違いないですか?」
「はい」
俺は突如として聞こえてきた女性の言葉に周りをキョロキョロと見ながらそう答える。
四方にはよく見るとカメラのようなものが取り付けられているのを見つけた。
「ではこれよりいくつか質問をさせていただきますので正直お答えください」
なるほどな。
面接みたいなものか。
ただ気になるのは俺一人しかいない事だろう。
何人かここまで試験を進んでいない者が居るとしても、それでもかなりの数の人間が残っているはずだ。
そんな人間すべてを個別に面接するなんてどう考えても物理的に不可能だからな。
けれど考えたところで今は答えは出ないだろう。
後で雄太にでも聞けばわかるかもしれないが、それはその時の話だ。
今はとりあえずこの面接に集中するしかない。
「まず、貴方今回の試験に応募された理由をお答えください」
「……ダンジョン攻略を行うためです」
「何故ダンジョン攻略を行いたいと思ったのかお聞かせいただけますか?」
待て待て待て!
本当に面接みたいな感じの質問が来るなんて予想外だ。
俺がダンジョン攻略を行う理由。
それは強くなるために他ならない。
この世界が弱肉強食であり、弱ければただ奪われるだけであり、強くなければ何も守れないと思い知っているからだ。
故に俺はこの質問に対しては正直にこう答える。
「大切な何かを守る力を得るために」
「なるほど。では久遠君、君が規制前にダンジョンに入り魔物を倒したのは同じ理由でですか?」
「……」
もしかしてこれは踏み絵か何かなのか?
ここで答え方を間違えば即失格とか?
「大丈夫です。規制前にダンジョンに入っていた件もですが、今行っている質問の答えは今回の試験の合否に影響しませんので気楽にお答えください」
「なら、同じ理由です」
俺は少しためらいながらも、正直にそう答える。
別に嘘はついてないからな。
先に気づいた先行者利益を得るためにダンジョンに入りはしたが、元をたどれば強くなって何かを守る為だし。
にしても今行われている質問の答えも試験の合否に影響してこないなんて一体どういうことなんだ?
なら何でこんな質問をされているのかと問いたくなる。
「そうですか。因みに、その時のダンジョンはどれぐらい進まれました?」
「それほど進んではいませんが、満足のいく結果ではありました」
俺は唐突に投げられた爆弾に、動揺することなくそんな曖昧な答えを返す。
この質問に関してはある程度予想できたからな。
カメラがある以上表情にでれば更に突っ込まれかねない。
なのでこれに関する質問に関してはある程度回答を事前に想定していたのだ。
嘘ではないが具体的な回答でもないそんな答えを。
ただそんな答えで納得してくれるかどうかは正直賭けだ。
「……」
「良いでしょう。では次の質問です」
どうやらいけたみたいだな。
けれど今の返答の雰囲気は納得している感じではなかった。
まるでそういうつもりなら付き合ってあげましょう……そな声が聞こえてきそうな雰囲気だった。
「試験中の戦いを見させていただいていたのですが、貴方はどなたかに師事していたりはするのですか?」
「いいえ、全て独学です。ただ動画サイトやネットの情報に関しては多少調べたり参考にしたりはしました」
「特に師匠と呼ぶような方は居ないと……では次ですが、この試験全体を通して手を抜いていましたか?」
「……」
これに関しては予想外だ。
正直バレないというか、そもそも手を抜いているなんて考えないと思っていた。
ただ実際に手加減はしていた。
力スピードをある程度制御し、更には魔法は使わないようにしていたのだからな。
「構いません。本当に試験の合否には影響しませんので正直にお答えされることをお勧めします」
「はい」
俺は優しく、本当にそうした方が良いと勧められるように言われた言葉に正直にそう答える。
「では体力測定の後に協力して戦った迷彩服の男性を覚えていますか?」
「はい」
「ならもし仮に手を抜かずに貴方が全力を出していれば、貴方は一人で彼を打ち負かすことは出来ましたか?」
「……可能だったと思います」
速度に関してはあの自衛隊の男性がギリギリついてこれていた事から、全力なら勝っているだろうし、力に関しても同じだ。
それに俺には奥の手の魔法と[身体強化]があった。
それを使わずしてあの状況だったのだから、負ける要素はほぼ皆無だろう。
というか、最悪俺一人倒すつもりではあったからこれに関してはさほど隠す必要は無いかもしれない。
「わかりました。ではステータスを教えていただくことは可能でしょうか」
「それに関しては申し訳ありませんが出来ません」
これに関しては絶対に譲ることは出来ない。
ここで嘘を教えれば問題ないだろうし、もし仮に他人のステータスを見る事の出来る何かがあったとしても、俺には[帰属する隠蔽の宝物庫]の効果で見破られることは無いだろう。
ただそれでもどれぐらいの数値を言えば妥当なのかという話になってくる。
俺は自称職業を選択したと言っていた自衛隊の男性を圧倒できると断言したのだ。
あの男性のステータスが分からない以上、俺としてはどれぐらいが正しいのかわからない。
故に何を言っても墓穴を掘ってしまう。
けれどステータスは教えたくない。
自ら自身の持つ優位性と手札をさらけ出す様な事だけは絶対にしたくない。
だから正直に言ったのだ。
教えられないと。
俺のステータスは数値だけでなく、称号やスキルが人に教えるにはあまりにも気になる点が多すぎるからな。
因みに現在の俺のステータスはこんな感じだ。
★
名前 久遠 宗太
職業 魔法戦士
レベル 7
HP 30/30
MP 29/29
攻撃力 26
防御力 30
敏捷性 44
魔力 28
ステータスポイント 20
▼称号
【最強へと至る資格】【先駆者】New【踏破者】
▼スキル
[剣術 LV2][短剣術 LV1][盾術 LV2][格闘術 LV1]
[火魔法 LV1][水魔法 LV1][土魔法 LV1]
[風魔法 LV1][身体強化 LV1][斬撃耐性 LV3]
[刺突耐性 LV3][打撃耐性 LV3][痛覚耐性 LV3]
[精神耐性 LV3]
★
正直ボスも倒したからもう少しレベルが上がるかと思ったのが、期待通りにはいかなかった。
「…………わかりました」
かなりの沈黙の後に俺の返答に対する答えが返ってきた。
許された?
追究してこなかった理由はなんだ?
絶対に俺のステータスは気になるはずだ。
ダンジョン攻略が規制されるまでにそれほどの期間は無かったことから、何か強さの秘密があるだろうことは容易に想像できるからな。
それに本人も隠すって事は予想どころかほぼ確信しているといっても過言ではないだろう。
なのに追究してこない……いや、追究しなくてもいい理由。
そんな理由があるとでもいうのか?
しかしながら俺のそんな疑問は直後の言葉で解消される。
「では、どこかに所属されるつもりはありますか?」
「所属? ですか」
「はい。現在貴方には色々なところからスカウトの声がかかている状態です。興味はありませんか? 強い後ろ盾に?」
なるほどな。
それが理由であり、この面接のようなやり取りの目的だったのだろう。
スカウト。
それはつまりどこかの企業が運営する民間冒険者クランに所属し活動しないかという話だろう。
民間冒険者クランとは、企業が運営するダンジョン攻略を専門に行う組織だ。
ダンジョンから産出される物を安定的に手に入れる為に作られたものであり、命を賭けているだけありかなりの金額給料が貰えるらしい。
俺としては強くなりながらお金がもらえるんだから、一石二鳥ではある。
ただ問題は制約どの程度あるかが問題だ。
ステータスの開示やボスからの戦利品や攻略報酬の譲渡が強制されるのなら遠慮したくはある。
「……それは今すぐ答えを出さなければならないですか?」
「いいえ、後日で構いません。相手方も貴方に合った契約条件を考えたいとのことですので」
「では少し考えたいので後日でお願いします」
「わかりました。では質問は以上です。話の続きに関しては後日日程を調整次第、ご連絡させていただきます。この後は部屋を出た先に居る係員の指示に従ってください」
そんな声と共に入ってきた扉が音を立てて開いた。
さてどうしたモノか……
正直これは今後の命運を左右すると言っても過言ではない。
俺はそう考えながら立ち上がり、ゆっくりと部屋を出て行った。
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