第16話 手加減と勝ち方

 俺はこちらに飛んできた小黒を俺は受け止める。

 ただ、受け止められた小黒は鬱陶しそうに俺の腕を振り払う。

 えらく不機嫌だな。


 流石に赤崎の絡みがうざかったにしては不機嫌過ぎる気がする。

 他にも何か気に障ることがあったって事か?


「二人共来てるぞ!!」


 そんな赤崎の言葉に視線を自衛隊の男性の方にやれば、俺達のすぐそばまで来ていた。

 そして俺達二人を同時に攻撃するためなのか、大剣大振りで横なぎに斬りつけてきた。


「クッ!!」

「……」


 その攻撃を小黒は剣を縦にして剣身で受け止める。

 俺はそれを横目で見ながら、姿勢を低くし自衛隊の男性の横を抜け後ろに回る。

 案の定小黒は受けたはいいものの力負けして吹っ飛ばされた。


「攻撃を避けながら挟み撃ちの形をとる。良い判断だ」

「ありがとうございます」


 俺の方を見ながら言われた言葉に、俺は率直にそう答える。

 挟み撃ち……それは連携をとれてこそ成立するものだろう。

 連携をとれなければ何の意味もない。


「宗太! 俺達も参加するぞ! えっと、名前なんて言うんだ?」

「え? ふ、風吹ふぶき まことです」

「よし、なら誠。俺も前に出るが、気にせずに撃っていいからな? もし当たったとしても宗太も俺も怒らないし、気にしないから大丈夫だ」

「は、はい」

「じゃぁ気負わず頑張ろうぜ!」


 赤崎はそう言って俺達の方へと突っ込んでくる。

 何も言ってないのに何勝手に言ってくれてるのか……

 まぁ正直赤崎の言う通りではある。


 何もせずにあそこにぼっ立してるよりは、例え味方に当たったとしても矢を撃ってもらった方がいいのは確かだ。

 ただどう見ても委縮していた彼、風吹君がその行動にでる可能性はほぼゼロだっただろう。


 それを気遣って言ったのかはわからないが、それでも今の赤崎の声かけによって彼も攻撃に参加する可能性が出てきた。


「私も前に出るけど、同じように気にせずに撃っていいからね」

「わ、わかりました」


 そう言って頷く風吹君を見てから、水野さんも俺達の方へと向かってきた。

 これで構図的には四対一対一だ。

 何せ吹っ飛ばされて体勢を崩している小黒とはどう頑張っても連携をとれる雰囲気じゃないからな。


 逆に俺達の攻撃の邪魔になる可能性もある事から、四対一対一ということだ。


「少しはまともになったな」

「そうかよおっさん! 余裕こいてられるのも今の内だぜ! 怪我したとしても文句言うなよな!」


 俺達二人の方に向かってきた赤崎はそう言いながら、渾身の突きを男性の顔に向かって放つ。

 ただその攻撃は頭を傾けるという軽い動作だけで避けられしまう。


 そして次の瞬間には左手に持つ大盾を横に振り、盾の下の尖った部分で赤崎の横っ腹を殴りつける。

 赤崎はそれをギリギリの所で後ろに飛び躱す。


「少年。大口を叩いた割にこの程度か? それとも槍の使い方は教えられたが、対人戦については教えてもらってないということか?」

「こんにゃろう!」


 言われた煽り文句に対して、赤崎は回避直後の崩れた姿勢でそう返す。

 ただそんな赤崎の後ろから突如として水野さんが現れたかと思うと、そのまま突っ込み一気に男性との距離をつめる。


 それを見ていた俺は水野さんに合わせるように男性との距離をつめ、背後をとる。

 そして水野さんの刀での斬りつけに合わせ、俺も背後から剣で斬りつけた。

 しかしながら俺達の同時の攻撃は上半身を捻り、水野さんは大盾、俺は大剣ではじかれた。


 タイミングを合わせるために多少速度を落としたとはいえ、今の後ろからの攻撃に反応出来るのか!?

 こちらを確認はしていなかった。

 なのに正確に俺に向かって攻撃してきた。


 一体どうやって?

 俺は軽くバックステップしながら攻撃を受け流しながらそんな事を考える。

 同じく水野さんも大盾で弾かれた反動を利用して男性との距離をとっている。


「今の連携は良かった。更に言えば追撃として矢を射っていればなおよかった」


 自衛隊の男性のは余裕といった感じで風吹君に向かってそうアドバイスをする。

 アドバイスされた風吹君はビクッと肩を震わせる。

 確かにこの人の言う通り、ここで矢による追撃があれば攻撃が止まることなく再度続いていただろう。


 それがまさに数の有利だ。

 相手の処理する情報を増やし、休む暇を与えない。

 次はどこから攻撃が来るのか? と神経を研ぎ澄まさせ、精神を摩耗させる。


 ただそれはある程度戦いなれてから出来るようになることだ。

 つい最近まで普通の学生だった俺達にはまだ難しい。

 にしても今の一連の動きを見て思ったが、俺が本気で戦えばこの人に勝つのはそう難しくないだろう。


 スキルを使っていないのもそうだが、恐らく他にも手加減している雰囲気は感じるものの、現時点での強さは大体モンスターハウスで戦った最初のゴブリンより少し強いぐらいだ。


 あのダンジョンのボスの一人であった鎧のゴブリンと比べると、数段劣る。

 例え手加減を辞め全力を出されたとしても、あのゴブリン以上の脅威になるとは到底思えない。


 仮にあれ以上になったとしても、今の俺はあのゴブリンを倒してレベルも更に上がっている。

 負ける要素はほぼ無いだろう。


 ただ気になる点があるとしたら、先程からの言動だ。

 まるで俺達の連携力を高めるかのような発言……

 もし仮にただ勝つこと以上に見ている事があるとすれば……


 ハァ……

 正直多少面倒ではあるが、試験官の望む勝ち方を目指すか。

 それに雄太に手加減せず全力でやった方がいいって言われてるしな。


 俺はそう思いながら勝ち方の方向性を決め男性を見据える。

 直後、男性に向かって小黒が同じように突っ込み斬りかかった。

 その攻撃を男性は冷静に大盾で受け止め、同時に大きなため息をつく。


「チャンスは既に与えた。力量差をわからせる為に力を乗せて攻撃を当てた。にもかかわらず冷静に考え協力するどころか、更に感情的に突っ込んでくる。君は少し冷静になった方が良い」

「黙れよおっさん! 俺は最強になるはずだったんだ! なのに、なのにそんな俺が五位だ!? ふざけるなよ!! あのまま規制なんかせずにダンジョンを攻略させてくれてりゃこんなことにはなってないんだよ!!」

「……君は少し頭を冷やした方が良いな」


 男性はそういうと大盾を上に振り上げ、小黒の剣を上に大きく弾く。

 小黒は持っている剣が大きく上に弾かれたことで態勢を大きく崩す。

 そんな小黒に向かって男性は今までの動きとは明かに一段階上の速度と力で小黒の腹に向かって回し蹴りを決めた。


 蹴られた小黒は一瞬にして体ごと壁まで吹き飛び、そして其の場に力なく項垂れ動かなくなった。

 死んではいないだろうが、戦闘の続行は不可能だろうな。


 もし仮に今のが全力の動きだとしたら問題ない。

 にしてもやたら不機嫌だったのはそういう理由か。

 それならそれで今から強くなればいいだけの話だ。


 ここでいくら感情的になったところで何も変わらない。

 ただそれは俺が成功したから冷静にそういえるだけなのかもしれない。

 もしかしたら俺もアイツみたいになっていた可能性も十分にある。

 俺はアイツを反面教師にして決して驕らず、けれど強さに貪欲になろう。


 しかしながらここでアイツが戦闘に介入しなくなったのは俺にとっては大助かりだ。

 こちらでコントロールできない不確定要素が無くなったのだからな。


 後は上手く動かして自衛隊の男性が望む俺達の勝利に辿り着くだけだ。

 俺はそう思いながら攻撃のモーションに入ろうとしていた赤崎と水野さんを視線と動きで止める。


「凄いですね」

「何だ時間稼ぎか? かなり白々しいぞ?」

「そんなつもりは無いんですが……ですが先に一つだけ聞いておいても良いですか?」

「何だ? 勝利条件なら先に行った他にはないぞ?」

「いえ、ただ先程の俺の後ろからの攻撃にどうして対処できたのかな? と思いまして」

「あぁアレか。あれはな……だよ」


 男性はそう言いながら指で耳を指さしながらそう言った。

 音……なるほど。

 人が動けば嫌でも音が鳴る。


 それを戦いの中でしっかりと聞き、正確にそこに反応したって事か?

 これは言うは易く行うは難しだな。

 今の俺ではどれだけ頑張っても、戦闘中に正確に音を聞き分けて後ろのどの場所から聞こえたか判断するのは難し過ぎる。


 これは今後の課題だな

 俺はそう思いながら男性に対して剣と盾を構える。


「もう質問は良いのか?」

「はい。課題が見つかり、解決したので貴方の望む勝ち方をしに行こうかと思います」

「ほぉ、面白いことを言うな。いいだろう、かかってこい」


 男性の言葉の直後、俺はで男性との距離をつめる。

 

「はや……」

「悪いですが、俺も全力じゃなかったんです」


 俺はそう言いながら男性に対して剣を下から上に斬り上げる。

 男性はそれに対してギリギリ大盾を滑り込ませ、俺の攻撃を防いだ。

 勿論ここまでは想定済み。


 俺は斬り上げた勢いそのままに体を捻りながら、男性の後ろにいる三人に向かってアイコンタクトを送る。

 頼むから俺の意図に気づいてくれよ。


 俺はそう思いながら体を捻った勢いを乗せて、更に男性に攻撃を加える。

 男性は俺の連撃を防ぐので精一杯といった感じだ。

 あまりの衝撃でぶつかり合う木剣と木の大盾は、次第にミシミシと音を立て始め限界が近いことを感じさせた。


 ただ厚さ的に俺の木剣の方が壊れるのが先なのは明白。

 けれど俺は連撃を辞めることなく、更に強く攻撃を加えていく。

 男性はそんな俺の連撃を無言で集中し、必死に大盾で防ぐ。


 そしてようやく俺が待ち望んだ行動をしようとしている後ろの三人を見て、俺はタイミングを見計らい、で大盾に向かって木剣を斬りつける。

 直後俺の木剣は砕け散り、男性はながら後ろを振り返る。


 すると男性の背後には首元に突き付けられた刀と槍があった。

 勿論その刀と槍を突き付けているのは水野さんと赤崎だ。


「背中の痛みは矢か」


 男性は足元に落ちた矢の先が丸く加工された矢を見てそう呟く。


「やはり追い詰められて極度に集中していると、いくら意識していても周りの音は聞こえませんよね」

「それもあるが、今の私では気づいていたとしても結果は変わらなかった。後ろの二人の攻撃をいなせたとしても君の攻撃に態勢を崩していただろうし、尚且つ彼の矢には当たっていた。何しろ君が彼が矢を放つタイミングと剣が壊れるタイミングを合わせてくれたせいでね」


 男性はそう言いながら両手に持つ大剣と大盾を手放す。

 男性の言った通り、確かにここまで狙っていた。

 ある程度力加減と速度を調節し、意識が後ろに行かない様にしていた。


 だがまさかここまで上手くいくとは思っていなかったよ。

 実際失敗していたら小黒が持っていた剣を拾って勝負を決めるつもりだったからな。


 とはいえこれで男性が望む俺達の勝ち方をできただろう。

 彼が望む俺達の勝ち方……それは協力し倒す事。

 これを協力と呼べるかはいささか疑問ではあるのだが、男性が満足そうな顔をしていることから、これでよかったのだろう。


「参った。私の負けだよ。君達四人は合格だ。次の試験に進んでくれて構わない」


 男性がそういったと同時に部屋の一角が開き、先へと進む道が現れた。


「おい! 宗太なんだよアレ!! 滅茶苦茶凄い動きしてたけど、お前一体何レべなんだよ!!」

「……さぁ?」

「とぼけんなよ! 教えてくれよ!」


 赤崎の質問に憂鬱になりながらも、俺は思い通りに事が進んだことに対する満足感を感じていた。

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