第18話 整理

「雄太、試験ってどんな感じだった?」

「人が善戦してるところに日常会話みたいな感じで聞いてくるな!!」


 俺はウサギのような見た目で、普通のウサギの倍ぐらいの大きさの牙が鋭い魔物を両断しながら雄太にそう聞くと、そんな言葉が返ってきた。

 ダンジョン攻略者試験を受けてから既に一週間近く経過した。


 そして現在俺と雄太は一緒にダンジョンに潜っている。

 このことからわかるように、俺と雄太は無事に試験には合格した。

 というより、あのスカウトの話の後は合格発表だけで特に何も無かったしな。


 で、そのスカウトの話だが一週間たった今まで特に何の連絡もない。

 正直もう連絡は来ないんじゃないかと思い始めてるし、それでいいと考えてもいる。


 なんたって当初の目的であるダンジョンに入りレベルを上げることが出来ているのだからな。

 ただそれほど無茶なダンジョン攻略を行っているわけではないのであまり期待していたような成果は得られていない。


「ハァ……ハァ……で? 何て?」


 雄太は肩で息をしながらデカいウサギの魔物を槍で貫きながらそう言ってきた。


「いや、この前の試験お前はどんな感じだったのかとふと思ってさ」

「今更なんだよ。どうもこうも、同じだったんじゃないのか?」

「まぁそうなんだろうとは思うけど、少し気になることがあってな」

「ハァァァ。他の奴にはそんなこと聞くなよ」


 雄太はそう言いながら突き刺した槍を引き抜き、辺りに魔物の気配が無いのを確認してからその場に座り込んだ。

 俺が気になっている事……それは果たして皆が皆同じような試験内容だったのか、だ。


 もし仮に全く同じような試験内容だった場合、申し訳ないが雄太は受からなかったと思わざるを得ない。

 何せ最初の戦いで既に職業を選んでいる人間との模擬戦だったのだからな。


「一応外部への口外は禁止って事だから、既に受かっている俺とお前の間ならそれは適応されないだろう。後々変更される可能性は十分にある決まりではあるがな。で? 何をどこから聞きたいんだ?」

「体力測定の後俺と別れてからの試験内容に関して聞かせてくれ」

「別れた後って言うと、総合順位の近い五人で試験官を協力して倒す模擬戦だったかな」


 雄太のその言葉に、俺は少し驚く。

 同じだというのか?

 だとしたらどうやって勝ったというのだ?


「どうやって勝ったんだ?」

「かつ? 一体何を言ってるんだ? 俺達は普通の学生だったんだから戦闘訓練を受けた人間に勝てるわけないだろう。惨敗だったよ。一応勝てるように色々と指示してみたりもしたんだが、如何せん一緒になった奴らの我が強くてな。ボコボコだった」


 うん?

 惨敗?

 どういうことだ?


 勝ってないのに次に進めたということか?

 ……待てよ。

 認識が間違っていたということか?


 前提としてあの試験官に勝つことが条件ではなく、ただ他者と協力できるかどうかを見ていたのだとしたら……

 そもそも勝てるように設定しておらず、格上の相手が手ほどきをするように導いていたのだとしたら……


 それならば負けたはずの雄太が合格できている事にも説明がつく。

 それにそういった言動はあの男性から多々見られた。

 可能性としては十分にあり得る。


「……その感じからすると全力は出したみたいだな」

「まぁ多少」

「ハッ、ホントふざけてるな。全力を出さずにあの相手に勝てるのかよ! 因みに俺の方の試験官は職業選択直前って言ってたけど、そっちもだったのか?」

「いや、俺の方は職業選択後って言ってたな」

「マジかよ。それ相手に全力を出さずに勝つってお前本当に何やったんだよ」

「特には何も。ただ運が良かっただけかな?」


 雄太は冗談めかしてそう言った。

 正直雄太自身俺の強さに関してかなり気になっているだろうに、深くは追究してこない。


 俺が聞かれても答えないのをわかっているからなのか、あるいはある程度予想がついているから聞かないのかは知らないが、どちらにしても理解があるというのは助かっている。


「まぁそういうならそういうことにしといてやるよ。で、話を戻すとその後ダンジョンに入ってゴブリンを一体倒して終わりだったな」

「? それだけか?」

「あぁ、ゴブリンを倒した後は職員の人に〈冒険者〉の登録を済ませてもらって終わった」


 内容としては俺とほぼ同じだと言えなくもないものではあったが、一つだけ決定的に違うことがある。

 そう、あの個人面接のような質問だ。


 まさかあれは俺だけだったのか?

 いや、流石にそれは自惚れすぎかもしれないが、それでも全員ではなかったという事か。


 確かに合格者全員に対してあのような事を行うには労力がかかりすぎるから現実的は無い。

 それにそもそもスカウトのようなあの話を見境なく行っているとは思えない。


 なら何か基準があったはずだ。

 声をかける基準が。


「……

「……」


 試験の過程でそれが判断できるようなものはあの模擬戦のようなものしかなかった。

 その後のダンジョンで魔物を倒すに関しては多少は影響するかもしれないが、皆それぞれ大差は無いだろうからな。


 それよりも格上の相手に勝てるだけの潜在能力の方が今後の事を考えるならば、より判断基準としては現実的だ。

 なるほど。


 あそこで勝った事によってこのスカウトの話が湧いてきたという事か。

 そしてもしそれが本当なら、交渉の上で優位に立っているのはこちらだ。

 一体どこまでの何を見据えて潜在能力を評価したのかは知らないが、それでも未来の為に引き入れておきたいと判断したのだ。


 話し合いが始まる前にこれに気づけたのはかなり大きい。

 もしかしたら契約内容が多少こちらの思惑通りに進む可能性が出てきた。


「考えはまとまったのか?」

「うん? あ、あぁ」


 雄太からかけられた言葉に、俺は咄嗟にそう言いながら頷く。

 こうして俺が頭を整理していると雄太はいつも考えがまとまるまで無言で待ち、丁度まとまった辺りで声をかけてくる。


「じゃぁダンジョン攻略を再開しようぜ。明日から学校ってのもあるが、当分はお前とは別で攻略するからさ」

「いきなりどうしたんだ?」

「いきなりも何も、明らかに俺とお前じゃレベルが違い過ぎる。俺はお前の足枷になるのはごめんだ。せめてお前と並走とまでは言わないまでも、足を引っ張らない程度にはなりたいんだよ」

「俺は気にしないのに」

「嘘つくなって! ダンジョン攻略を早く進めてレベルを早く上げたいってうずうずしてるくせに。何年お前の友達やってると思ってるんだよ」


 雄太はそう言いながら立ち上がる。

 確かに正直今のところ満足できる成果は得られていない。

 ダンジョンを一つ攻略してわかったが、ダンジョン攻略時の報酬はかなり美味しい。


 それに浅い階層の魔物を倒したところでレベルは全然上がらない上に、今後に活かせる経験もない。

 ただ雄太と一緒では無茶なダンジョンアタックは出来ないから、ほとんどダンジョン攻略が進んでいないのが現状だ。


 そんな気持ちを雄太は感じ取っていたのだろう。

 だからこそ足枷になりたくないと言ったのだ。

 俺は申し訳ないと思いつつも、心の中で感謝の言葉を述べる。

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