第13話 新たなルール

「これよりダンジョン攻略者試験の説明をする!」


 そんな拡声器を使った若干のノイズ交じりの声が辺りに響き渡る。

 俺は現在、ダンジョン攻略の許可を得るため都内に新たにつくられた専用施設に来ている。


 俺がダンジョンを攻略してから既に1ヶ月近く経過した。

 あれから色々な事に進展があった。


 まずは俺の家族間での決まりだ。

 それは家族……特に母さんとの話し合いの末、いつどこのダンジョンに入るのかを申告してから入るというものだ。


 これに関してはかなり母さんが譲歩してくれる形で話がまとまった。

 俺としては根気強く話し合いを進めるしかないと思っていたので、上手くまとまってくれて助かった。


 父さんの助けはあったもののそれでも母さんと楓には耳にタコができるほど叱られたがな……

 ただこれにはもう一つ条件がある。


 国が決めたルールに従うこと。

 それを言われたとき俺は終わったと思った。

 何せ俺の予想では成人、恐らく18歳以上でなければダンジョンに入ることは困難になると思っていたからだ。


 ただ家族に心配をかけた手前、その条件をのむしかなかった。

 それで多少なりとも家族が安心してくれるなら、と。


 しかしながら国が出したダンジョンに関するルールは良い方向で俺の予想とは違うものだった。

 現在国から出されているダンジョンに関するルールはこうだ。


・ダンジョン発見者は専用アプリである〈ダンジョンマップ〉を使い見つけたダンジョンを登録すること

・ダンジョンを攻略する者は専用アプリである〈冒険者〉のダウンロードとアカウント登録を義務付ける

・ダンジョン攻略は成人しており尚且つ専用アプリの登録を行っているのであれば自由に行える。ただし未成年であったとしても両親の許可と試験に合格した者は特別に許可する


 正直これが発表された時はかなり驚いた。

 何せ俺が予想していたものとは全く違ったのだからな。

 俺の中では民間人はほぼダンジョン攻略に介入できないのではないか? とまで考えていた。


 ただ実際は試験はあるものの年齢制限もなく、かなり自由に攻略が行える形になっている。

 果たしてこれがどういった意図で決められたのか、俺にはわからない。

 けれどまことしやかにこんな噂が流れている。


 あの自称神を名乗る存在が直々に国のトップに圧力をかけ、年齢制限等も特になく民間人でも攻略できるようにした。

 そんな噂だ。


 あまり信憑性は無いが、それでも火のない所に煙は立たぬなんて言葉もある。

 実際この噂が日本国内で広がってしまう理由は存在してしまった。

 それは……


 これは決して自惚れとかそういったものではない。

 俺自身ニュースやSNSを見て初めて知ったのだが、どうやら俺がダンジョンを攻略した事が全世界に通知されていたみたいなのだ。


 勿論名前等に関しては伏せられていた。

 ただステータスウィンドウのような形で全世界の人間の前にこう通知されたらしい。



 日本にて世界初のダンジョン攻略に成功した者が現れました。



 こんな通知が出たせいでニュースやSNSはこの話で持ち切り、果ては自分がそうだという偽物まで現れる始末。

 だが俺はそれをただ傍観した。


 変に自分だと名乗り出て注目を集めたくなかったからだ。

 有名税を払うのなんて御免だし、行動に足枷が付くのがいやだった。

 とはいえ日本に居るのはバレてるから、世界からは日本という島国がかなり注目を今現在も集めているがな。


 その影響もあり、世界各国では日本の〈冒険者〉に類似するようなアプリが使用されている所もあるらしい。

 何なら〈ダンジョンマップ〉に関しては、全世界に対応しているため全世界でそれが活用されている。


 しかしながらこの決まりを守っていない者もいるんじゃないか? と思うかもしれない。

 特にダンジョンを見つけた時に〈ダンジョンマップ〉に登録するなんて面倒な事なら尚更な。


 ただこれに関してはかなり頭を使ったようで、登録したくなる利点がある。

 まず一つ目の〈ダンジョンマップ〉に関して、これは日本国内のダンジョンを見つけた場合、発見者情報を国家機関に見せれば何と一万円が贈呈されるのだ。


 これに関しては元が取れるという判断なのか、あるいはダンジョンから魔物が溢れ出る危険性を理解してなのかはわからないが、それでもかなりの英断だろう。

 登録するだけで一万円が貰えるなら登録しない理由が無いからな。


 二つ目の〈冒険者〉、コイツは国が管理しているとすれば相当頭の切れる奴が考えたモノだろう。

 何せコイツは国からすれば欲しい情報が勝手に入ってくるんだからな。


 その理由は〈冒険者〉の登録情報の中にが存在しているからだ。

 故に待っていれば勝手に登録者のステータス情報が手にはいるというわけだ。


 しかもこのステータスの登録はダンジョン攻略を一緒に行う人間を探すためと銘打っている為、精度は高いだろう。

 勿論ステータスを偽装する者が多少いるだろうが、それでも簡単に集める手段としては優秀だ。


 そしてこの〈冒険者〉を登録したくなる利点、それはこのアプリ登録者でなければダンジョン内のアイテムを売ることが出来ないということだ。

 これに関しては利点というより制約と言った方が正しいかもしれない。


 とにかく〈冒険者〉に登録していなければどれだけドロップアイテムを手に入れても売ることが出来ないのだ。

 因みに現在ドロップアイテムはかなりの金額で取引されている。


 何せ既存の物とは全く異なるものであり、尚且つフレーバーテキストで加工できるということが確認できているのだ。

 未だどの企業も参入していない未開拓の地。

 先行者利益を求めて民間企業が力を入れないはずがない。


「……説明は以上だ! これよりダンジョン攻略者試験を開始する! 我々の指示に従い順番に進め!」


 そんな事を考えているとどうやら説明が終わったようで、前の人混みが動き始めた。


「ハァ……無茶苦茶緊張してきた」

「大丈夫だって」


 俺は隣に立つ男性、沖野おきの 雄太ゆうたの背中を軽く叩きながらそう伝える。


「大丈夫って……そりゃお前は経験してるから余裕かもしれないけどな、俺は違うんだぞ! ハァ……マジで緊張する」

「試験に関しては俺も初めてなんだ、一緒一緒」

「全然ちげぇよ! お前は! ……もういいよ」


 雄太は何かを言いかけてその言葉を飲み込む。

 雄太には俺がダンジョンに挑戦したことは伝えてある。

 ただ勿論攻略に成功した事は伝えていない。


 だが場所が場所だけに言わずに飲み込んでくれたのだろう。

 試験内容に関しては受験者が外部に漏らすことが禁じられている為、全くわからない。


 けれど例えどれだけ難しかろう絶対に受かってやる。

 俺は勿論、雄太も一緒にな。

 俺はそう思いながら、動き出した人込みに続いて歩を進める。

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