第14話 体力測定
「ハァ……ハァ……こんなに変わるもんなのか?」
「何が?」
「何がってお前、ハァ……そんなの体力に決まってるだろ!」
雄太は肩で息をしながら俺に向かってそう言ってきた。
俺達は今休憩スペースのような所でくつろいでいる。
俺の隣で雄太こんなに疲れているのは、勿論試験の影響だ。
とはいえそれほど難しいことを行った訳ではない。
何なら単なる確認でしかないだろう。
何せ俺達が行ったのはまんま体力測定だったからな。
試験官からもこれは試験内容とは関係ないと説明されてたからな。
しかしながらそう言われたからと言って適当にやる人間はほとんど居なかった。
ただゼロではない。
現にこの休憩スペースの中でも疲れを全く見せず、余裕の雰囲気の人間が何人か居る。
俺自身そちら側の人間だからあまり人の事は言えないがな。
「で? 実際どうなんだ? 俺から見たらかなり変わってるんだが、本人的には?」
「正直実感は無かったんだが、こうして数値化されて初めて上がってるんだと気付かされたよ」
「そんな感じなのか」
ダンジョン攻略中はそれどころじゃなかったってのもあるが、俺の中ではあまり変化していない気がしていたのだ。
だが結果として運動能力全般が元々の倍以上上がっていたのだ。
「俺も合格して早くレベルアップしたいよ」
「応援はしてるよ」
「まるで俺は落ちるみたいな言い方やめろよな! 縁起でもない」
「冗談冗談。受かる受かる」
俺は軽く膝を小突いてきた雄太に対し、笑いながらそう返す。
俺達がそんな風に時間をつぶしていると、部屋の中の巨大ディスプレイに何かが表示された。
よく見るとそこには数字と名前がずらりと表示されている。
なんだ、アレ?
……よく見ると俺の名前もあるな。
見つけた自身の名前の前には数字の1が書かれていた。
『今表示されたのは君達の体力測定の総合順位です。それを覚えて職員の指示に従い各々先へ進んでください』
つまり俺は総合順位一位ということか?
流石にレベルもかなり上がったから負ける気はしなかったが、こうやって全員の前で発表されるのは予想外だ。
因みに雄太は何位なんだ?
俺はそう思いながら雄太の名前を探す。
……
…………
………………あった!
見つけた瞬間俺は心の中でそう叫ぶ。
1352位か。
所々飛び飛びになってはいるものの、この場のディスプレイに表示されている順位の一番下は3759位。
そこから考えればかなり高い方ではあるだろう。
「中々いい順位じゃん」
「うるせぇ! 上からものを言ってくるな」
俺の言葉に雄太はそう返してくる。
ただ本気で怒っているというよりは、ノリで怒っているような感じだ。
「それよりも一番上の景色は絶景か? 一位さん?」
「おま!」
仕返しとばかりにそういった雄太の言葉に、近くに居た人達が咄嗟に俺の事を見てくる。
クソ!
変に絡まれたらどうするんだよ。
俺は何も気にせずダンジョンを攻略してレベルを上げていきたいのに!
『それでは皆さん順番に部屋を出てください。そしてその先に居る職員の指示に従い進んでください』
「じゃぁお先、一位さん」
「お前、後で覚えてろよ」
「お互い様だろ。あと! ここからは絶対に手加減するなよ! 絶対に全力でやった方がお前の為だから。わかったか?」
「……お前がそういうならそうなんだろうな。わかった」
「よし! じゃぁ俺は先に行ってる」
雄太はそういうとそそくさと部屋の出口へと向かっていった。
アイツは俺なんかよりずっと頭が回る奴だ。
そんな奴がああいうのならきっとそうなんだろう。
なら全力で挑むべきだろうな。
試験内容がどんなものかはわからないけど。
俺はそう思いながら人込みに消えた雄太を追うように先に進む。
ーーー
「他の人が来るまでこの中で待っているように」
ここまで案内してくれた女性は俺にそう言って扉を閉めた。
案内された部屋は一面真っ白で、壁と床の境界が分かりずらい空間。
「……他にも人が来るのね」
俺はそう呟きながら辺りを見渡す。
確認できるだけでも三人が既に部屋の中に居たからだ。
一人は迷彩服を着たガタイの良い、明らかに一回り程年上の男性。
もう一人は俺と同い年ぐらいの、すらっとした物静かそうな女性。
最後の一人も俺と同い年ぐらいだが、明らかに体育会系といった感じのこんがり日焼けした男性。
果たしてどういう意図でここに連れてこられたのか?
体力測定の総合順位を聞いてから案内されたことから、意図的ではあるんだろうがその意図が全くわからない。
「なぁ! お前は何位だった? 総合順位!」
「……一位」
少しでも状況を把握しようと部屋の中をきょろきょろと見ていた俺に向かって、体育会系の男が話しかけてきた。
俺はその男の言葉に少しためらいながらも、本当の事を話す。
正直これからどう転ぶかわからない以上、変に嘘をついて関係を悪化させるのは望ましくない。
そう判断したのだ。
「お前マジで言ってんの! 嘘だろお前が一位なの! 全然見えねぇ!」
なんだこの滅茶苦茶失礼な奴。
俺は心の中でそう思いながらも、言葉には出さない。
ただあまりにも男が大きな声で言ったため、部屋の中に居た他の二人も驚いたような表情で俺の事を見てきた。
「あ! 因みに俺は三位で、彼女は二位なんだって!」
体育会系の男はそう言って、物静かそうな女性を指さす。
なんだコイツ……
口軽すぎだろ。
お前見えてるか?
順位を勝手に言われた彼女、滅茶苦茶嫌そうな顔してるぞ?
「後あのおっさんはどれだけ喋りかけても無視するから喋りかけるのは意味ないぞ」
「はぁ」
耳元で小声でそう言われた言葉に、俺はため息ともとれるような返答を返す。
情報をくれるのはありがたいが、こうも矢継ぎ早に言われては思考を整理できない。
「そういえば名前はなんて言うんだ? 俺は
「……」
「教えてくれないならそれでもいいんだけど、その代わり一位の奴としか呼べないけどいいか?」
「……久遠 宗太」
俺が答えるかどうか考えているとまるで脅し文句のような事を言ってきたので、俺は仕方なく名乗ることにした。
「そうか宗太か! それで宗太は何歳なんだ? 何か部活はやってたのか?」
なんだこの面倒くさい奴は!!
少しは考えを整理する時間をくれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます