第11話 クリア報酬

「ハァ……ハァ……ハァ」


 俺は杖を持ったゴブリンの胸から剣を引き抜きながら、脱力しながら息を整える。

 案の定前衛が居なくなった魔法使いは、一撃の火力が高いだけの鈍足で接近されれば自衛手段のないただのゴブリンでしかなかった。


 ただ大剣を持ったゴブリンとの戦いで負った傷が想像以上に大きかったようで、戦いが一段落した今痛みと疲れがどっと襲ってきた。


『おめでとうございます。貴方はこの世界で初めてダンジョンを一人で攻略しました。報酬の清算を行います』


 そんな棒読みで無感情な声が空間全体に響き渡る。

 このアナウンスはやっぱりあるんだな。

 俺はそんな事を思いながら、安心したようにその場に倒れこむ。


『清算を行った結果、世界で初めてのダンジョン攻略報酬として称号【踏破者】を付与。続いて一人で攻略した報酬として経験値を追加で付与。続いてダンジョン攻略報酬としてアイテム[猛火の剣]を与えます』


 そんな言葉と共に地面に寝転がっている俺の眼前に、突如として赤を基調とした剣が現れた。

 俺はその剣を手に取り、「フレーバーテキスト」とつぶやく。



[猛火の剣]


 ダンジョン攻略者である久遠 宗太に与えられたクリア報酬。

 使用者が念じることで剣自体に炎を纏わせる事が可能。



「これは使えそうだ」


 俺はそう言いながら剣を指輪に仕舞う。

 それにしても予想通りというかなんというか……

 やはりあったな、


「獲得出来て本当に良かった」


 正直絶対にあるなら取ってやると決めてはいたものの、取れるかは微妙だと心のどこかで考えていた。

 何せ俺はただの一般人であり、世界には俺よりもよっぽど戦いになれた人間が無数にいる。


 それに国単位で動き出している所もあるだろう。

 そんな相手に、まともな武器も持たない一学生が勝てる理由の方が少ないからな。

 しかしながら勝てた。


 俺の命を掛け金とした賭けに勝った。

 本当に良かった。

 俺はそう思いながら拳を強く握り、強い達成感をかみしめる。


 勝因に関しては多少ではあるが予想できる。

 恐らく目的と覚悟、そしてアイテムの違いだろう。

 まずもって初めから攻略前提で挑んでいる者はそういないはずだ。


 個人であればいるかもしれないが、後ろ盾が国家なら攻略よりも調査がメインになるだろう。

 未知の新たな空白地。


 有益な資源等や危険物質が無いかの調査を先に行ってからようやく本格的なダンジョンの攻略に入るのではないだろうか?

 個人に関しては同じ目的と覚悟を持ち攻略に挑んだものもいるだろう。


 ただ圧倒的に物資量の差がある。

 俺はアイテムを仕舞う指輪があるからいいが、他はそうじゃない。

 故に攻略の際は必要最低限の道具だけで挑んでいるはずだ。


 荷物は動きを阻害し、それは戦いの邪魔でしかないからな。

 だから嫌でも引き返す事になってしまうのだ。

 水分補給の為や食事の為、あるいは武器の修繕等。


 俺は運よく指輪に敵から奪った武器や家から持ってきた水や食事を入れていたおかげで継続して攻略できたからな。 

 とはいえ時間の問題ではあっただろうな。


 いつかは個人で攻略するものが現れていたはずだ。

 ただそんな人物が現れる前に俺が攻略することが出来た。

 そういうことだ。


 そしてそんな運良くも、命懸けの賭けの先に手に入れたものの内容に関してだ。

 俺はそんな事を思いながら、ステータスの新たに増えた称号を軽くタッチする。



【踏破者】

 困難を越えた者に与えられる称号。

 この称号を持つ者はレベルアップ時に上昇するランダムなステータス値を、選択したモノに限り最大に固定する。(1/6)


 ※現在最大値に固定化する能力値を選択していません



 これは、滅茶苦茶良い。

 何せ上がり幅が1~3だったのが、3で固定化できるということだろう?

 運に左右されることなく最大の恩恵を得られるなんて、最高過ぎる!


 ただ気になることがあるとすれば文中の(1/6)だろう。

 これは6個あるステータス値の中の内一つを選べるということなのか……

 それとも今は一つしか選べないということなのか……


 説明文を見た感じ、初のダンジョン攻略によって得たという言及がないことからどちらともとれてしまう。

 しかしながらこれは結論の出る話じゃない。


 何せ確認のしようが現状は無いのだからな。

 それに例えどちらであったとしても、俺が最大値に固定化する能力値は変わらない。


 俺はそう思いながら更に表示されている【踏破者】の部分をタッチし固定化する能力値を選択する。

 俺が選択した能力値は、MPだ。


 何故MPを選んだのかと問われれば理由は単純だ。

 それは手数を増やすため。

 魔法を使うために必要なMPなのだが、如何せん発動できる数が少なすぎる。


 これでは戦闘中に活用する幅が極めて狭いのが現状だ。

 ただ武器や長ったらしい詠唱等を必要としない属性魔法はかなり有用であり、回数制限が無いのであれば積極的に活用していきたい。


 その為の選択なのである。

 それに属性魔法のレベル自体が上がれば消費するMPが増える可能性もあるからな。


 使える武器が大いに越したことは無い。

 それゆえの選択なのである。


『ダンジョン報酬の清算が完全に終わりました。白い円の中に入ればダンジョンから出る事が出来ます』


 そんな言葉の直後、俺の足先の方が白く光りはじめた。


「……とりあえずは家に帰るか」


 俺はそう呟きながら立ち上がり、白い円の方に歩を進める。

 ただ入る直前にピタリと足が止まった。


「……一応武器は回収しとくか」


 俺はそう言って、先程倒したゴブリン二体の杖と大剣を指輪に仕舞う。

 報酬として武器は貰ったけど、武器に関してはあるに越したことは無いからな。

 俺はそんな事を思いながら白い円に笑顔で入る。


ーーー


「夜か」 


 ダンジョンから出た俺は辺りを見ながらそう呟く。

 辺りは入った時と同じ竹林であり、違いがあるとすれば暗く静まりかえっているのと、空間が歪んでいると錯覚するようなダンジョンの入り口が無くなっている事だろう。


「一度攻略すれば無くなるんだな」


 同じダンジョンは二度と攻略できないということか。

 果たしてそれがいいのか悪いのか、今の俺にはわからないけどな。

 にしても至る所が痛い。


 帰ったら先に消毒と傷の確認だな。

 その前に雄太に連絡入れとくか。

 俺はそう思いながら指輪からスマホを取り出す。


「な! なんだ!」


 だが取り出したと同時にスマホに凄まじい通知が表示された。

 更に俺は画面に表示されていた日付を見て驚愕する。


「ほぼ、三日たってる」


 俺がダンジョンに入ったのは七日の昼頃。

 だが現在は九日の夜なのだ。

 いくら洞窟の中で時間の感覚が分からなくなっていたとはいえ、これは流石にマズイ。


 この鬼のような通知は恐らく家族からだろう。

 最悪だ……

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