第10話 ボス戦

 セーフゾーンから更にダンジョンを進んだ俺は、現在モンスターハウスの扉とは比べ物にならない程禍々しく大きな扉の前に立っている。

 その扉はまるで自身からボス部屋ですと主張しているかのような、そんな雰囲気だ。


「これでまたモンスターハウスだったら、もう扉は開けないからな」


 俺はそんな事を言いながら扉に手をかける。

 ただ扉に手を触れるすんでのところで、扉は一人でに開いた。


「……フッ。あまりにもあからさまだな」


 俺は扉が開いた先に見えた光景を見てそう呟く。

 扉の中には二体のゴブリンらしき存在が俺を待ち構えていた。

 らしきというのは、今まで戦ってきたゴブリンとは明らかに外見が違うからだ。


 背丈は明らかに俺よりもあるし、何よりガタイがしっかりしている感じだ。

 それに今まで遭遇してきたゴブリン達は持っていても最低限の武器程度しか装備していなかったのに対し、目の前の二体は違う。


 一体は顔以外を鎧のような装備で守っており、尚且つ自身の背丈ほどの大きな大剣を持っている。

 もう一体は赤い真紅のローブに、真っ赤なハンドボール程の大きさの玉を手が握っているような、そんな木の杖を持っている。


「騎士に魔法使いってか? 流石に急に実戦レベル上がりすぎだろ」


 けれど今更ここで引き下がるという選択肢は無い。

 俺はそう思いながら、扉の中へと足を進める。

 俺が扉の中に入ると同時に扉が音を立てて勢い良く閉まる。


「グゥ」

「ギィ」


 扉が閉まると、まるで話し合いでもしているかのように二体が互いにそんな声を上げる。

 敵を前に呑気に会話かよ。


 俺がそんな事を考えながら盾と剣を構えると同時に、目の前から大剣を持ったゴブリンが姿を消す。


「消え……!!」


 だがそう思った次の瞬間には俺のすぐ左側まで距離をつめられており、既に大剣を横なぎに斬りつける動作に入っていた。

 俺はそれに気づいたと同時に、ほぼ無意識で左手に持つ盾でその攻撃を防ぐ様な態勢をとっていた。


「ぐぅ……おれ……」


 折れる!!

 俺は盾で攻撃を受けた瞬間あまりの衝撃でその場で踏ん張るのをやめ、軽く飛びそのまま壁まで吹き飛ばされる。


「かぁ」


 凄まじい威力で壁にぶつかったせいで、ぶつかったと同時に肺の空気が全て外に押し出される。


「ハァ……ハァ……ハァ」


 嘘だろ……

 下手したら今の一撃だけで終わっていた。

 今までの敵が遊びだったのかと勘違いさせられるほど、強さが違い過ぎる。


 俺は必死に呼吸を整えながらそんな事を考える。

 だが勿論相手も俺が体勢を立て直すのを待ってくれるはずが無かった。

 追い打ちとばかりに杖を持ったゴブリンが俺に向かって杖を振る。

 するとサッカーボール大程の火の玉が数個現われ、俺に向かって飛んできた。


「クソが!!」


 俺は感情を露わにそう叫びながら、火の玉を避けるために左側に走り出す。

 だが勿論簡単に回避などさせてくれるはずは無く、俺が走って避ける進行方向に突如として大剣を持ったゴブリンが現れた。


 そして先程と同じように凄まじい速度の横なぎの斬りが、一直線に走る俺の進行方向にジャストタイミングでおかれる。


「ふざ……けんなよ!!」


 俺はそう叫びながら走る速度を落とすことなく膝を曲げ、膝でスライディングするかのように滑りながら上半身を後ろに反らし、大剣の軌道の下をすり抜ける。

 クッソいてぇ!


 俺は心の中でそう叫びながらも、立ち止まることなく即座に立ち上がり二体から距離をとる。

 距離をとったところで一瞬でつめられるが、それでもないよりはましだろ!


 何が初見殺しだ!

 今はそんな悠長な事言ってられる状況じゃない!

 死んだら元もこうもない!


 俺はそう思い、走りながら全身に対して[身体強化]を発動する。

 そうすれば先程よりも体が軽くり、走る速度が速くなったのを実感する。

 これで倒せるとは思わないが、それでも先程よりは多少ましだろう。


 そう思いながらチラッと後ろを見れば、既に杖を持ったゴブリンは別の魔法を発動し、槍のような形をの火を五つほど作り照準を俺に定めている。

 本当に休む暇もないな!


 たださっきみたいに一直線に逃げてたら同じように大剣を持ったゴブリンの攻撃を喰らう。

 それに逃げてるだけじゃじり貧だ。

 ここは気は進まないが距離をつめるしかない。


「やってやるよ!!」


 俺は自身に言い聞かせるようにそう叫びながら急停止し、進行方向を180度変える。

 そんな俺に対して槍の炎が横から襲ってくる。


 落ち着け俺!

 別にこの攻撃は意識して避ける必要はない!

 ただ全力で走り抜けるだけでいい。


 アイツ……大剣を持つアイツに近づきさえすれば魔法による攻撃は収まるはずだ!

 流石に仲間に当てることは出来ないはずだからな!

 俺はそう思いながら全力で大剣を持つゴブリンとの距離をつめる。


 俺が走り抜けた後ろを炎の槍が抜けるのを背中に感じる。

 よし!

 やはり行ける!!


 そう思った直後、全身に悪寒が走る。

 なんだこのこの違和感。

 そう思いながら大剣を持つゴブリンの顔を見れば、まるで鼻で笑うかのような笑みを浮かべているのが見えた。


 まさか!!

 俺はそう思いながら横を見ると、炎の槍が一本俺の進行方向に向かって飛んできていた。


 読まれている!!

 クソが!

 躱すことは別に大して難しくない。


 ただここで躱せば先程までと同じだ。

 ここで距離をつめなければ結局俺はじり貧だ。

 正直こんなぶっつけ本番みたいな事に命をかけたくはないが、このままではいずれ終わる。


 なら勝つために……余力のあるうちに勝負に出るしかない!!

 俺はそう決心し、歩みを止めることなく剣を持ったゴブリンに対して全力で突き進む。


 そうすれば炎の槍が俺の進行方向、眼の前に飛んでくる。

 俺はそれを見て後ろに下がるのではなく、その炎の槍をまるで背面飛びをするかのように飛び越えた。


 ただ大剣を持ったゴブリンからすればその炎を避けて進んでこようが、躱して後ろに下がろうが関係なかったらしく、構えていた大剣を空中に居る俺に向かって全力で斬りつけてきた。

 まるで勝利を確信したかのように大剣を持つゴブリンの顔が一瞬綻ぶ。


「避けられない……普通はそう思うよな」


 俺は大剣振りながら薄ら笑いを浮かべるゴブリンの顔を見つめながらそう言う。


「くっぅぅ!!!!」


 直後、俺の体に大剣が当たるすんでのところで空中で身動きがとれないはずの俺の体が大きく上に移動し、大剣の軌道からそれギリギリ回避する。


 余裕そうに言ってはいたが、一か八かだったからどうにか成功してよかったよ。

 にしても背中が滅茶苦茶痛い!

 何せ俺が空中で更に跳躍した方法は、自身の背中に上に押し上げるという力業だったからな。


 正直二度とやりたく無いほどに痛い。

 俺はそんな事を思いながら、大剣を持つゴブリンの直上に指輪の中からあるアイテムを出現させる。


「グェェ!!」


 出現させたアイテムは重力に従い落下し、ゴブリンの頭にぶつかると同時に割れ中の液体がゴブリンの体全体に広がる。

 俺はそんなゴブリンの反応を気にする余裕もなく、その場に何とか着地する。


「グァァァ!」

「目に入って痛いのか? だが俺の下準備は整った。この距離なら外すことも無いだろう!!」


 俺はそう言いながら両手で目を押さえるゴブリンの頭に向かって[火魔法]を放ち、即座に距離をとる。


「グゥァァァァ!!!!」


 ゴブリンの頭に当たった火の玉は先程割れて広がった液体に燃え移り、凄まじい速度で燃え上がる。

 正直燃え広がるか不安ではあったが、予想以上に火の玉の温度が高かったのか簡単に燃え広がってくれた。


 俺がゴブリンの頭に落としたのは、灯油を入れたガラス瓶だ。

 何かに使えるかと思って入れておいたが、まさかここまで使えるとは思ってなかった。


 全身を火に包まれたゴブリンは苦しそうな声を上げながら悶えているかと思うと、急に力なくその場に倒れた。


「これは予想外の収穫だ」


 多少ダメージを与えられれば儲けものぐらいで考えていたのだ、まさか倒すことが出来るとは。

 正直この一手の攻撃の為に予想以上に満身創痍だから、俺としてはかなり助かるけどな。


「さて、優秀な前衛が居なくなった魔法使いはどう戦うんだ?」


 俺はそう言いながら右手の剣を杖を持つゴブリンに向ける。

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