遠ざかる理想郷(美幸視点)

第22話 想定外

痛い・・・全身が痺れて体を動かせない・・・何も聞こえない・・・耳をやられたのか?

意識がどんどん空に飛んで行ってしまうようだ。全身から痛みのお陰で何とか繋ぎ止められているけど、痛みさえ消えてしまえば、本当に飛んで行ってしまう。

あの力・・・私と同じ神薙の人間が来てたなんてね。あの家から捨てられた私なんか見向きもしないと思ってたけど、力を持って脅威になれば動いてくるなんて。あの祓い士、若かった・・・見た目は私と同じくらい、となれば私の後に産まれた子・・・つまりは妹に私は負けたのね。


「・・・本物の力には、敵わないな。」


大樹によって神薙の力を無理矢理使えるようになったけど、所詮は紛い物。それが対峙した時に分かった。あの雷を使った術・・・【神威】を一人で、それも連続で使うなんて、神薙の力はつくづく恐ろしい。

けど、あんまり悪い気はしない。むしろ嬉しかった。自分を殺しに来たのが同じ血を持った妹、それも本物の祓い士に殺されるなんて、好き勝手してきた私の最期にしては華やかなものだ。


「ぁぁ・・・このまま・・・死ん、で―――」


痛みの感覚も無くなってきた。結局私は偽物で、せっかく出来た居場所を守れなかった。それだけが唯一の心残りだ。


「・・・・・・ぅ、あれ?」


空っぽになった感覚に不思議なものがあった。温かで、優しく・・・そう、穏やかな海のような。


「ステラ・・・。」


自分の左胸部分を見ると、今にも消えそうになっているステラが、残り少ない輝きを私の体に注ぎ込んでくれていた。

ああ・・・そうだ。まだ私には体がある。まだ動ける。まだ守らなければいけない人がいる。


「ありがとう、ステラ・・・本当に・・・本当に。」


消える瞬間のステラは、何故だか笑っているように思えた。ステラの輝きが無くしかけていた私の体をもう一度動かせるようにしてくれた。

だが、もう術は使えない。それにここから大樹の核に行くまでに時間が持つかどうか・・・。


「・・・動けるなら動く。私の大切を取り戻すために!」


フラフラとした体に気合を入れなおし、私は大樹の核に置いてきてしまった彰人君の元へと走っていく。あの時、大樹の核へと続く道で会った二人の祓い士。錫杖の男の隣にいた木村春樹があそこの仕組みに気付くのも時間の問題だ。

この際、大樹が祓われるのは止むをえない。けど、あの二人が大樹と繋がっている彰人君の存在に気付かないまま祓ってしまえば、大樹と繋がっている彰人君も一緒に死んでしまう。それだけは、阻止しなくては。


「お願い・・・間に合って・・・!」

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