第21話 神薙の力

神薙美幸の後光によって暗闇の道が露わとなり、上下左右を見ても脈打つ肉壁に混じって、いくつもの眼が道彦と春樹を監視していた。

それだけでも不気味に思えるが、それよりも不気味なのはこの場に似つかわしくない程、神々しく清らかに見える神薙美幸という異質な存在。得体のしれない彼女に恐怖心から震える道彦だったが、隣にいる春樹を守る為に恐怖心を押し切って錫杖を構えた。

神薙美幸は前に伸ばした両手で△をつくり、目を閉じて術を唱えた。


「来来冥帝。」


美幸の後光から無数の黒い手が道彦と春樹に伸びていき、二人は呆気なく捕まってしまう。黒い手は二人の体を捕まえたまま、黒い手から漏れて溜まった黒い水の中へと二人を引きずり込んでいく。道彦は抵抗しようとするが、捕まえられた時に錫杖を弾かれてしまい、精神がすり減った今の状態では何も出来なかった。


「私の世界にお前たちは必要ない。暗い闇の中で永遠に溺死を繰り返せ。」


もはやこれまで。そう思った春樹は抵抗するのを止め、黒い水の中へと引きずりこんでいく黒い手に身を委ねてしまう。


「諦めるな春樹!!!」


「無駄よ。術器を使わなければロクな術も使えないあなた達ではね。」


「ぐっ・・・もう、少し・・・あと少しで・・・!」


その瞬間、二人と美幸の間に眩い光が通り過ぎ、心臓が跳ね飛ぶような音と衝撃が走っていった。通り過ぎた光の余波を浴びた黒い手は消滅し、二人は間一髪の所で一命をとりとめた。

美幸は何が起きたのか分からないと困惑の表情を浮かべていたが、すぐに我に帰り、光が開けた穴から外の様子を伺う。外は雨が降っており、空を覆う雲からはゴロゴロと雷鳴が轟いていた。

たまたま雷が大樹に当たったと思ったが、普通の雷がこの大樹に穴を開ける程の威力を持つのか疑問に思った。


「ん?なに・・・?」


雷の光で点滅する雲の前に、人が浮いているのを目にした美幸。穴から身を乗り出してその人物に目を集中すると、その人物が雲から雷を槍の形にしてこちらに投げてこようとしているのを目にした。


「別の祓い士か!」


美幸は穴から飛び出し、大樹の皮に纏わりついていたステラを術で△のバリアに変え、次の瞬間に飛んでくる雷の槍を受け止めようと試みた。


「来る!」


雷の槍は美幸の予想以上の速さと威力でバリアに激突し、美幸は自身の念の力も使って突破しようとしてくる雷の槍を大樹から守ろうとする。

確かに威力のある術だが、美幸は神薙の血を持つ者。どんな強い術や異形であれど、神薙の力ならばどうとでもなる程、他の祓い士達とは別格の存在だ。

だが今回は例外であった。確かに美幸は大樹によって神薙の力を引き出せてはいるが、彼女が相手にしているのは、神薙家最強と謳われていた神薙夏輝だったからだ。

一発目を防いでいた美幸に、夏輝はもう一度雷の槍を呼び出し、一発目の雷の槍に重ねるように投げつけた。


「重ね掛け!?」


二発目がバリアに到達した瞬間、張っていたバリアが消失し、その後ろにいた美幸もろとも雷の槍は大樹を貫いていった。

夏輝は雷を鎮め、穴を開けた所から大樹の中へと入っていく。中に入ると、既にボロボロの道彦と春樹が横たわっていた。


「随分律義に罠に掛かっていったようだな・・・まぁ、木村家の者にしては頑張ったじゃないか。」


夏輝は二人を仰向けにし、二人の胸に手の平を置いて自身の力を分け与えた。助けたいという善行によるものではなく、依頼主から直々に受けているのは木村家な為、その木村家から助力を頼まれた自分にこの件を片付けられては、木村家の名に傷がつくと思ったからだ。


「神薙美幸はもう術は使えないはずだ。後はお前達でやれるはずさ。」


これ以上二人に力を貸してしまっては依頼金以上の働きになってしまう為、夏輝は二人が目を覚ます前に大樹の中から外へ飛び降りていった。

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