暗き森に潜む捕食者
第18話 闇に潜む罠
月の明かりが海面に映る中、三隻の船が夢見島に上陸していた。彼らは黒い着物を着ており、背には彼らの家紋を意味する模様が描かれてあり、口元に鬼の面を被っている。
「春樹、ここで間違いないな。」
「ええ・・・数日前に気配が消えた時は焦りましたが、若様のご助力のお陰で突き止められました・・・。」
「そう落ち込むな、お前はまだ若い。それにお前だけに彼女の監視を任せておくのも責任を負わせすぎだったな。」
春樹の肩に手を置きながら慰める錫杖を持った長い髪を後ろで結っている男性。彼の名は木村道彦。木村春樹の兄であり、木村家の次期当主である。
「さて・・・神薙美幸がどこへ消えたかと思えば、まさか夢見島とはな。」
「確か、漂流した者に夢を見せて惑わす呪いの島・・・でしたか?」
「そうだ。おとぎ話かと思っていたが、あの大樹を目にしては、信じざるおえない。」
ここからでも見える現実離れした大きさの大樹を見上げる二人。それとは別に、その他の木村家の祓い士達は砂浜と海の境目に文字を描き、呪言を唱えている。
すると、描いた文字が紫色に光り、島を覆う結界を張り巡らせた。結界を張った後にも、10人の祓い士達が文字のすぐ傍に座り込み、呪言を唱え続けている。
「結界は張った。これで神薙美幸は今度こそどこへも逃げられない。」
「ここで美幸を・・・神薙美幸を殺すんですね?」
「最悪の場合、な。それに・・・。」
道彦は黒いコートを着た女性に目を向けた。その女性はタバコを口に加えながら、島の中央に聳え立つ大樹・・・にではなく、暗闇に包まれた森の中をじっと見つめていた。
彼女の名は神薙夏輝。道彦が今回の神薙美幸の件で呼び寄せた祓い士。幼い頃から数多の異形を祓い、若いながらもその実力は現当主の神薙源蔵をも上回ると言われる程。しかも、彼女は家の力を使わず、その身に宿している力のみで戦いをするという。
祓い士が異形の者と戦う上で、自らが宿す力はもちろんの事、代々続く家の力は必要不可欠な物で、神薙家は他の家よりも長い歴史がある。にも関わらず、夏輝が家の力を必要としない理由は、彼女が半ば家出をしているから。
自由気ままな夏輝にとって、家柄を第一とする神薙家当主とはそりが合わず、今は家名を捨て、各地に潜む異形の者を祓い続けている。
「夏輝、何か感じるのか?」
道彦の問いに夏輝は何も答えない。
「若様の問いに答えろ!この名無しめ!」
夏輝のその態度が気に食わなかった春樹が叫ぶ。そんな春樹に対しても、夏輝は言葉を返す事なく、一人で森の中へと入っていった。
「何なんですかあの女?家の名を捨てられた名無しだというのに!」
「だが、彼女はここにいる誰よりも強く、実戦経験が豊富だ。一緒にいてくれれば助かったんだが、なるほど噂通りの自由人だな。」
「大体、何故彼女はこの件を引き受けたんでしょう?仮にも同じ神薙家の者が相手だというのに。」
「同じだからだろう。俺もお前が異形にそそのかされたと聞いたら、自分の手で片付けたいと思うよ。だが、今回は俺達木村家が請け負った依頼だ。彼女一人で片付けたとなっては家の名に傷がつく・・・俺達も行くぞ!」
「はい!」
こうして、道彦が先導する10名もの祓い士が、暗闇に包まれた森の中へと足を踏み入れた。
暗い森の中をライト明かりを頼りに進んでいくが、ライトの明かりは頼りなく、道は雑草や木の根で酷い状態の為、非常に歩きづらい。
「酷い道だ・・・進めば進む程、荒れ果てている。」
すると、先頭の道彦が突然歩みを止め、後ろを振り向く。道彦の行動を不審に思った一行だったが、やがて彼らも道彦同様に周囲の異変を感じる。
「若様・・・。」
「気付いたか。俺もついさっき気付いた。この暗闇の中から何者かが俺達を見ている。それも素早い。」
ライトの明かりを周囲に照らしていき、こちらを見ている何者かの姿を捉えようとする。次第に周囲からガサゴソと物音が聴こえだし、音はどんどんこちらへと近づいてきている。
緊張感が高まる一行。一人がふと頭上の木の枝に明かりを向けると、青白い肌をした目の無い小人が口を開けたままこちらを見ていた。
叫び声を上げそうになった祓い士だったが、それより早く小人は祓い士の頭部を掴み、大きく開いた口で祓い士の頭部を食い荒らした。
その小人の存在に気付いた他の祓い士達は応戦しようと刀を抜こうとするが、暗闇に潜んでいた他の小人が一斉に飛び出し、祓い士の体に噛みついてくる。
次々とやられていく祓い士の姿に震えが止まらない春樹。そんな春樹の元にも小人が襲い掛かってくる。
「うわぁぁぁ!!!」
襲い掛かってきた小人の姿に怯えた春樹はその場に身を丸めてしまう。その行動で小人が止まるはずもなく、鋭く尖った歯が春樹の体に噛みつこうとしたその時。
「ふん!」
道彦が錫杖を小人の胴体に突き刺し、そのまま上に抱え上げる。
「解!」
錫杖を伝って流れた道彦の力が小人の体に流れ込み、小人は爆散した。道彦はすぐさま構え直し、束となって襲い掛かってくる小人達の体に錫杖を打ち付けていく。
見れば、錫杖を打ち付けられた小人の体には烙印がつけられており、道彦が解!と叫ぶと小人達の体は爆散した。
「春樹!すぐに立て!このまま立ち止まっていてはいずれ食い殺されるぞ!」
うずくまって怯えている春樹を強引に立たせ、道彦はライトも持たずに走り出していく。怯えていた春樹だったが、恐怖を押し殺して目を集中して暗闇の中でうっすらと見える道彦の後ろ姿を追いかけていった。
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