大樹の導き(美幸視点)

第17話 君をいつまでも

私は孤独だった。産まれてすぐに私には才能が無いと判断した神薙家当主は、赤子の私を家から追い出した。用意された偽りの家、用意された偽りの家族、用意された偽りの自分・・・私の全ては嘘で塗り固められてもの。

孤独だった私は他人に愛されようと偽りの自分を受け入れ、整った顔を利用して他人に愛想を振りまいて生きてきた。私が少し笑顔を見せただけでも他の人達は私に魅了され、まるで光に群がる虫のように寄ってきた。

だけど、そいつらの中に本当の意味で私を愛してくれる人間なんかいなかった。だんだんと群がるそいつらの顔に吐き気がして、次第に私は愛される事が嫌になった。

何をしても絶望した私は、海に飛び込んだ。偽りの自分をこのまま海に溶けて無くそう。暗闇が私を覆い、意識が溶け込んでいくと、私は目にした。暗闇の奥に青く光る輝きを。

その光は瞬く間に暗闇を埋め尽くし、溶けて無くなった私を形どって包み込んでくれた。


「温かい・・・涙が、溢れてくる・・・。」


これが私とステラが出会った経緯。それから私はステラに夢見島に導かれ、島に根付く巨大な大樹と対面した。大樹はステラと同様、穏やかで温かい愛で私を受け入れてくれた。

私はステラや大樹の鼓動に【愛を与える】事に目覚め、私と同じ孤独を心に宿した者の光になろうと決心した。

そして私は、彰人君に出会った。教室の隅で虚ろな瞳で過ごす彼を。神薙家を追い出された私だけど、母親の良心で神薙の名までは捨てられていなかった私は神薙家の名の力を使って彰人君について調べた。

幼い頃に最愛の両親を失い、心を壊した彼は偽りの家族を作り上げる。例え満たされぬものだとしても、彼はそうやって自分自身を現世に繋ぎとめていたのだ。

私は彼の脆く危うい存在に愛情が芽生え、彼に私の愛を与えたいと思うようになった。


長くかかったけど、これでようやく彼を私の愛で埋め尽くせる。大樹の心臓に包まれている彼に抱きつき、心地よく眠る彼へ愛を送り込む。周りにいるステラ達も私の悲願を祝ってくれている。

幸せ・・・あの日、命を絶とうとした自分には想像もつかない程、私は幸せだ。このままステラや大樹と共に、脆く危うい私の彰人君を愛そう。


「彰人君、あなたは幸せ?私は幸せよ。ここには私の全てが揃っている。もう自分を偽らず、過去を忘れてこの時を永遠に感じられる・・・その為にも、みんなから外敵を守らないと。」


気配を察知したのは彰人君の家から出てすぐだった。ずっと私の後を追い、今ではこの島に上陸している。それも一人じゃない・・・大勢の祓い士達が。


「待っていて彰人君。私が必ずあなたを守るから。」


ようやく手にした居場所を穢させる訳にはいかない!この手が血で汚れようと!私の体が壊れようと!


「大樹よ、私を地上へお送りください。外敵を一層してまいります。」


大樹に外へ転送してもらい、空から偵察していたステラに触れる。触れた途端、ステラが視てきた情報が一斉に飛び込んできた。祓い士の数は20人。その内半分は島に結界を張っている。これでここから逃げる事は出来なくなった・・・もっとも、逃げるつもりも逃げる必要もないが。

残りの10人は固まってこちらに向かっている。


「勝手に足を踏み入れるなんて、マナーがなってないわね。」


地面に手をつき、私の中にある力を地中へ送り、森の中にいる彼らの眠りを覚ます。


「夜の森の恐ろしさ・・・教えてあげる。」

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