第16話
大樹の中に入ると、そこは漫画やゲームで見るようなファンタジー世界の内装になっていた。円形のテーブルを中心に、本棚や小さな調理場が置かれており、外にもいた青い人型の光がこの空間を照らし出している。
「なんというか・・・ファンタジーって感じだね。別世界に来たみたいだ。」
「結構内装頑張ったんだよ~。」
「え?美幸がここを?」
「私って多趣味なものですから。」
多趣味っていうか、これは最早趣味の域から超えて職人芸だ。
「なぁ、さっきから聞こうと思ってたんだけど・・・この青い光は何なんだ?」
「ステラよ。星のように綺麗で美しいでしょう?この島で初めて見た時は私も驚いたわ。」
僕も最初は驚いたが、この青い光を見ていると落ち着く。余計な感情が消えていくようだ。
「さて、荷物も置いた事だし、上に行きましょ!」
「上?」
すると美幸は壁に掛けてあった長い棒を持ち、天井に棒の先端を引っかけて引っ張った。引っ張った天井部分だけ開き、そこから梯子がおりてくる。美幸はそそくさと梯子を上っていき、僕も後に続いて梯子を上っていく。
梯子を上ればそこは広い空間になっており、頂上へと続く長い螺旋階段が底の見えぬ程続いていた。
「これを上るの・・・?」
「さ、早く!」
「いや、長すぎるって・・・下でゆっくりして―――うわぁ!?」
「うだうだ言わずに行くぞー!」
戸惑う僕の手を掴み、美幸は強引に階段を上り始めた。美幸の階段を上る速さは凄まじく、少しでも足を休めれば手を掴んでいる美幸もろとも転んでしまう程。しかもこの螺旋階段には手すりは存在せず、上れば上るほど落ちてしまうんじゃないかという不安や恐怖感が大きくなっていく。
それだというのに、美幸は楽しそうに階段を上り続けている。
「はぁはぁはぁ・・・これ無理だって・・・。」
尽きていく体力、無限にも続く同じ光景に諦めかけていた。その時、僕の胸ポケットから眩い青い光が漏れ出し、そこから青い光、もといステラがひょこりと顔を出した。ステラはポケットから飛び立ち、僕の肩に座ると小さな手で僕の頬を撫でてくる。
ステラの光のお陰か、はたまたステラが励ましてくれたからか、尽き果てようと思えていた体力に活気が戻り、鬱蒼としていた気分が明るくいい気分へと変わった。
「おぉ・・・ありがとう、ステラ。」
ステラにお礼を呟くと、ステラは僕の肩から飛び立ち、僕達が進むその先の道を照らし出してくれた。僕達はステラの光を辿り、底の見えぬ螺旋階段を上っていく。
あれからどれだけの時間が経ったか。ずっと同じ景色・同じ動きをしている為か、時間の感覚が失われていた。
しかし、すでにゴールは目の前にまで近づいていた。螺旋階段の先にあったのは扉。扉を開け、その中に入るとそこには今までで一番の幻想世界が広がっていた。
無数のステラが飛び回っており、その中で一際目立つ緑色に発光している謎の球体。植物とも見れるが、時折脈打つ姿に生物的な印象を持った。
「これは?」
「これはね、この大樹の核。つまりは心臓よ。」
「心臓・・・あれだけ大きな木なのに、心臓は案外小さいんだね。」
「人間も同じでしょ?大きな体をしていながら、心臓は手の平と同じくらい。生き物の一番重要な部分は何だってその身より小さいものよ。」
「・・・触ったら・・・駄目、だよね?」
好奇心から無理なお願いをしてみた。すると予想していた反応とは違い、美幸は穏やかな表情で僕の手を掴み、そっと大樹の心臓へと導いていく。
僕の手が大樹の心臓に触れると、手の平から大樹の鼓動が伝わってくる。穏やかで優しい鼓動だ。手の平から伝わってきた大樹の鼓動が僕の体の中を巡っていき、まるで青空に浮かんでいる清々しい気分になってきた。
「ぁぁ・・・何だか気持ちがいい・・・これは・・・・・
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