第15話 道のその先で
夢見島に辿り着いた僕は、前方に広がる生い茂った木々を前にして唖然としていた。美幸が言うにはこの島に別荘があるという話なのだが、目の前に広がるジャングルを見て、美幸の話が信じられなくなった。
こんなジャングルの中に家なんか建つのか?それにこの先から人の気配どころか、動物や虫の気配さえ感じられない。
「ここ・・・本当にここに別荘が?」
「まぁ、入り口だけ見たら信じられないよね~。」
困ったような笑みを浮かべた美幸。彼女も思う所があるのだろう。視線を美幸からまたジャングルの方へ向けた時、背中を指でなぞられた感触を感じ、バッと後ろを振り向く。
後ろには誰もおらず、隣にいる美幸は服の襟元をパタパタと引っ張って暑がっていた。今のは気のせいか?
「とりあえず進みましょう。このままここにいたら干からびちゃいそう。」
「う、うん・・・。」
先導する美幸の後をピッタリとくっついて島の中へと入っていく。外観から見た時はジャングルみたいな島だな、と思っていたが、奥へ奥へと進むごとにどんどん植物や木々が生い茂っており、まるで来訪者を拒んでいるよう。
ただ、こんなに生い茂っている中、僕達が歩く道だけが不自然に整ってある。使用人か誰かが道として手を加えているのかとも考えたが、周りの状況を見るに、毎日手を加えなければここまで整う事は出来ないだろう。
周囲の驚くほど成長している木々や植物、そしてここだけ道が整えられている不自然さに、僕は恐怖していた。
そんな僕とは裏腹に、前を歩く美幸は背中から見える姿だけでも楽しそうにしているのが分かる。
「なぁ、美幸。この道は誰かが手を加えているのか?」
「どうして手を加える必要があるの?ここは家へと辿る道なのよ?」
「だからこそだろ?周りは生い茂っているし、放っておけばここも草が生えて道じゃなくなるだろ?」
「ここは道の役割を持つの。周りのとは違うわ。」
いまいち美幸と会話が成立していない。周囲の環境や美幸の言動にますます恐ろしくなり、僕はなるべく周りを見ないように美幸の足元を見ながら進んでいく。
すると、視界の端で奇妙な花が映った。思わず足を止め、横に視界を移すとそこには一輪の大きな赤い花が咲いていた。その花の花びらは分厚く、黒い斑点があった。花の中央は黒一色に染められており、僕はその中央部分に目を奪われていた。
「この花・・・なんだ?」
凝視していると、花の黒い部分が開き、そこから黄色い目玉が生えてきた。
「うわぁ!?」
驚きのあまりその場にしりもちをついてしまった。幻を見ているのか?だが何度も目をこすっても花の目玉はそのまま僕を見つめていた。
その目に凝視されていると、花びらにある黒い斑点がザワザワと動いているかのような錯覚に陥った。
『ミセロ・・・ミセロ・・・ミセロ・・・。』
しゃがれた男の声が頭の中で念仏のように聞こえてくる。見せろ?一体何を・・・。恐怖で身動きが取れなくなっていると、花の目玉にギラリと光るナイフが突き刺さった。
え?っと思うや否や、美幸が目玉に刺さったナイフを抜き、何度も何度も目玉を突き刺し、美幸の体で隠れてハッキリと見えないが、花の目玉の中から真珠のような宝石?を抉り出し、それをそのままポケットに入れた。
美幸はナイフをしまい、動けなくなっている僕の方に振り向いた。美幸は笑顔だった。
「どうしたの?」
「へ?だ、だって今!?花が・・・それでその・・・!」
「暑さで頭がやられたのね可哀そうに・・・。」
流れ出る涙を拭いながら僕の頭を撫でてくる美幸。頭がやられた・・・案外そうなのかもしれない。さっきから暑さのせいで頭がボーッとしているし、さっき見たのも僕の頭が作り出した幻だったかもしれない・・・そういう事にしておこう。幻だったという事にしておけば正気を保てる気がする。
僕は差し出された美幸の手を取り、僕達は手を握りながら奥へ奥へと進んでいく。
「ねぇ、彰人君。」
「・・・なに?」
「別荘はきっと気に入るわよ。今感じている恐怖や違和感は消えていくから。」
そんな訳ない。どんな素敵な別荘でも、さっき見た花もこの奇妙な島の不気味さを拭う事は出来ないだろう。
そう思っていた。この道の先に広がる世界を見るまでは。
「・・・あ。」
そこは大きく開けた場所で、夜の世界を照らすように蛍のような青い光を灯す小型の生き物達がここを照らし出し、中央に船から見えていた大きな大木があり、いくつか窓がついており、根の部分には入り口と思われる大穴が開いてた。
「この木って・・・まさかこの木が?」
「そう、これが私の別荘・・・ううん、私の居場所。」
美幸は大木に向かって走り出し、大木の入り口に立つと腕を広げて大声を上げた。
「私は、帰ってきたよ―――!!!」
その声に反応してか、周囲を照らしていた青い光がゾロゾロと美幸の周囲に近づいていき、まるで彼女を歓迎しているようだった。
「さぁ彰人君!こっちに来て!」
美幸が満面の笑みで僕の名を呼ぶと、彼女の周りを灯していた青い光のいくつかが僕の周りに来る。
近くで見て分かったが、この青い光は虫でも、ましてや妖精でもなく、人型の姿をした光だった。
その青い光に照らされてか、さっきまで感じていた恐怖や違和感が忘れていき、温かな安らぎに包まれていた。
「彰人くーん!早くこっち来てよ―――!!!」
「・・・うん!今行くよ!」
周りを照らす人型の青い光や天高く聳え立つ大木。どれも現実では信じられぬファンタジーな存在だが、今は現実感など忘れ、手を振って待っている美幸の下へ僕は走っていった。
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