第13話 アタリの方は無人島の旅へ
夏休み4日目。足の怪我が完治し、走っても跳んでも痛みが走らなくなった。怪我が治った時、美幸は凄く残念そうな顔をしていたが。
そんなことで、今日は美幸と共に近くの公園へと来ていた。別に公園に用があった訳でもなく、ただ外の空気を吸いたくなったんだ。ここ最近、ずっと家の中で過ごしていたから外の存在が恋しくなっていた。気温は相変わらず高く暑いが、快適すぎる生活の合間に体験するには丁度いい。
しかし、僕ら高校生はもちろん、他の中・小学校も夏休みに入っているはずなのだが、午前十時になっても公園には僕と美幸の二人しか来ていない。
僕が子供の頃はよく公園に来ていたんだけどな。僕と・・・僕と・・・あれ?誰と来ていたっけ?
「なに難しい顔してるの?」
大きめの麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た美幸がベンチに座る僕の顔を覗き込んでくる。美幸の麦わら帽子のお陰で太陽の光が遮られ、彼女の恐ろしく整った顔がハッキリと脳裏にまで刻まれる。
それだというのに、僕は何故だか彼女に胸を高鳴らせる事はなかった。
「ここの公園、誰も来ないね。夏休みだってのに。」
「公園はもう子供の遊び場じゃなくなってきてるからね。今は家の中で離れた友達と遊ぶ手段なんかいくらでもあるし。」
そう言って美幸は僕の隣に座り、どこからともなく取り出した二本の棒アイスの内、一本を僕に差し出してくる。
差し出されたアイスを受け取り、小さくかじる。冷たい・・・この暑い世界に似つかわしくない冷たい。味は青い見た目通りのソーダ味。美幸のも同じ味のアイスのようだ。
「これからどうする?」
「う~ん・・・家に帰って映画鑑賞?」
「それもいいけど、せっかく夏休みなんて長い時間があるんだ。時間をかけて何かやりたいなーって。」
「それじゃあ・・・旅行でも行く?」
「旅行か・・・。」
悪くない。だが旅行といっても候補が多すぎる。上の北海道か、下の沖縄か・・・駄目だ、僕にはこの二択しか出てこない。どうしてかこの二つは強く印象にある。
他は何だろう?東京・・・いや、止めておこう。毎度毎度ニュースとかで東京の様子を見るが、人が多すぎて居心地が悪そうだ。それに美幸ならまだしも、僕なんかが東京に行くなんて場違いだ。
「・・・ねぇ、それじゃあさ。私の別荘に来ない?」
最近ずっと美幸と一緒に過ごしていた所為か、彼女を家族の一人だと錯覚していて、別荘なんか家にあったけ?なんて思ってしまった。
そういえば、彼女は良いとこのお嬢様だったな。別荘の一つや二つ、持っていてもおかしくない。ここ最近ずっと僕の家に美幸はいるけど、両親は心配になっていないんだろうか?
「別荘って、どこにあるの?」
「無人島。」
無人島と来たか・・・。
「最近は使ってないけど、結構いい所なの。人はいないし、ここよりは涼しい風が吹いているわ。それに、あそこは夜が良いの。」
「夜の海が綺麗とか?」
「まぁ、行けば分かるわ。それでいつ行く?」
幸いな事に僕らは部活なんかには入っておらず、バイトなんかも行っていない。いつでも行ける準備は出来ている状態だ。
「なら、明日にでも行くか?」
「いいね。なら、今日は明日の為に準備しないとね・・・あ、アタリ。」
「・・・僕もアタリだ。」
「アタリのお二人は無人島の旅へお連れしましょう!なんてね。」
「言葉だけ聞いたら、誘拐犯の言葉みたいだ。」
アタリ棒を手に、僕らはベンチから離れ、明日の準備の為に公園を離れた。帰る道中、美幸から別荘の事や無人島の事を色々と聞いたり、向こうに着いたら何をするかなど、まるで子供のように楽しさを隠せずにいた。あの頃の、まだ純粋という言葉も知らなかった無知で尊い幼少の頃のように。
うっとおしい程の日差し、耳を通り抜けていくセミの鳴き声。今日も僕らは、夏の季節の中で生きている。
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