第12話 映画鑑賞

悪戦苦闘しながらも、どうにか午前の内に予定のページ数を終わらせる事が出来た。美幸が現文でつまづかなければもっと進んでいたが、そんな事を考えても仕方がない。

ソファに座って氷が入った麦茶をチビチビと飲んでいると、美幸が昼食をお盆に乗せてやってきた。

昼食は氷が入ってある大皿の中に入ってある素麺と素麺のつゆ。それから刻んだネギとショウガといった薬味が小皿に並んである。


「「いただきます。」」


一玉の素麺を箸で掴み、つゆに存分に漬けてから飲み込むかの勢いですする。


「美味しい。」


シンプルisベスト。日本人が暑い夏に食べる物といえばこれだろう。簡単で美味しいし、腹も膨れる。非の打ちどころが無い。一つ難点を挙げるとするならば、飽きやすい所だろう。


「「ごちそうさま。」」


美幸が手早く食器を片付け、10分もしない内に僕の隣に戻ってきた。


「さて・・・どっち!」


「どっち?」


すると、どこからともなく美幸が二つのDVDを取り出した。いや本当にどこから出てきたんだ?

美幸が持っている二つのDVDは、【サンセットビーチ】【サマーナイト】と書かれてあった。

おそらくどちらかがホラー映画なのだろう。名前的にサマーナイトがホラー映画な気がするが、もう一つの方がホラーという可能性もある。

別にホラー映画は嫌いでも苦手でもないが、たまに酷くグロテスクな物が存在する。今さっき昼食を済ませたばかりで、グロテスクな描写を見てしまえば気持ち悪くなってしまう。


「・・・それじゃあ、こっちで。」


「サンセットビーチね!じゃあ再生しておくね!」


この作品を選んだ理由は、サンセットビーチという言葉の意味は綺麗な夕日が見えるビーチだというのをどこかで聞いた事があるからだ。おそらく海外のロマンス映画だろう。少々気まずくなるかもだが、気持ち悪くなるよりはマシだろう。

そんな事を考えていると、映画が始まった。さてさて、どんな内容かな?





映画が終わった。とりあえず言わせてほしい。どうしてホラーアドベンチャー映画なんだ?始まりは主人公のトーマスが友達と綺麗な夕日が見れる海に行く流れで、一行は若者特有のバカ騒ぎで楽しみ、気になる女の子と良い感じになったりと、序盤まではよくあるギャグよりの恋愛映画だった・・・だったんだ。

始まって20分のところで、友人の内一人が砂浜に飲み込まれて死んだ。まぁ、ここで度肝を抜かれたね。あまりにも唐突に始まった謎展開に理解が追いつく前に、また不思議な現象が起き、今度は砂浜から死んだはずの友人が現れて主人公一行を襲う。

それから謎展開は怒涛の勢いで流れていき、クライマックスは主人公とヒロインが砂浜から湧き出てきた財宝を車一杯に詰め込んで帰っていく。

エンドロールが流れ始めても、僕の中ではまだ序盤の砂浜に飲み込まれるシーンで思考を巡らせていた。


「・・・こんなZ級映画、誰が―――」


エンドロールの最後。監督の名前が暗闇から浮き上がってきた。監督の名前はアメリカ人でも中国人でもなく、夢乃 間という日本人の名前であった。


「いや、日本人が作ったのかい!逆に凄いな!」


モヤモヤとしたまま、隣にいる美幸に目を向けると、彼女は一滴の涙を流していた。えー・・・呆れるとか笑えるとかじゃなくて感動するのかー。


「良い・・・映画だったね。」


「え?・・・まぁ、うん・・・。」


こんな映画に嘘でも良かったなんて言いたくないが、泣くほど絶賛する美幸の前で軽々しくそんな事を言えやしない。

こんな事ならもう一つのサマーナイトの方を選べば良かった。


「美幸、もう一つ映画あったよな?晩御飯までもう一本観るだけの時間はあるから、観てみようよ。」


「いいね!それじゃあ準備するね!」


さてさて、今度はマシな物が観れるはずだ。名前からして王道のホラー映画だろう。内容は多分、【夏の夜、友人のキャンプ場に訪れた主人公。そこで恐ろしい殺人鬼と遭遇してしまい、主人公一行はキャンプ地から逃げようとするが・・・】という感じだろう。


「それじゃあ再生するね!」


「よし・・・今度はマシなはず。」


「え?何か言った?」


「いや、何でもない。」





映画が終わった。映画の感想?・・・滅茶苦茶怖かった。予想通り、主人公一行が旅行に行くという王道な流れだった、だが旅行に行った場所が凄かった。

マテバ村という孤立した集落に行き、主人公達は村の住人からもてなされ、楽しい一日を送っていた。

しかし、翌朝目が覚めると、主人公達は檻の中に監禁され、独自の宗教観がある住人達に一人一人、丁寧に殺されていく。この時の村の住人達の表情が怖いんじゃなくて、ひたすら笑顔だったのが不気味だった。残虐な行為を行っている時も笑顔を絶やさず、夜になれば次に犠牲になる人物の所へ行き、優しい言葉を掛けながらハグをする。一人ずつ、最愛の人を抱きしめるように。


「怖かった・・・旅行なんて一生行きたくない・・・。」


エンドロールが流れていき、監督の名前が徐々に暗闇から浮き上がってくる。これだけ恐ろしい映画を作ったんだ。さぞ有名な監督なのだろう。


【夢乃 間】


「なんでだよ!?」


思わず叫んでしまった。さっき観た映画はZ級、あるいはそれを下回る映画だったのに、それと同じ監督がここまで恐ろしい映画を作るとは。映画監督とは奥が深い。

ふと、隣にいる美幸に目を向けると、やはり涙を流していた。それもそうだ、かなりショッキングで恐ろしい場面が立て続けに流れてたんだ。怖くて泣いたっておかしく―――


「良い・・・映画だったね。」


・・・もう、美幸が選んだ映画は観ないようにしよう。

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