僕の日常は唐突に変わった(彰人視点)
第7話 安寧の地
『お父さん・・・お母さん・・・?』
真っ暗な空間で、小さな男の子が僕を涙を浮かべた瞳で見つめている。どこか見覚えのある・・・他人とは思えない男の子だ。
『僕の・・・僕の親はどうしていなくなったの?』
知らないよ。そんなの僕の方が聞きたい。どうして僕の両親が殺されたんだ。どうして僕を残して死んでしまったんだ。
『僕はどうすればいいの?』
どうするって、それは・・・それは・・・僕は。
「僕は、どうすればいいんだ・・・!」
穴が・・・心にポッカリ開いた穴から氷のように冷たい感覚が血液となって体内を流れている。
辛い・・・苦しい・・・寂しい・・・誰か、誰か僕を助けて。
『大丈夫よ。』
「・・・え。」
目の前にいた男の子はいつの間にか消え、頭上には光に包まれた人影が現れ、心地よく優しい声色で手を差し伸べてきた。
なんだ?いや、それよりも・・・ああ、心地がいい。彼女の声が凍えた僕の体に温かさを灯す。広がった心の穴は塞がっていき、彼女の声が僕の心を覆う。
眩しい、けど決して嫌な気はしない。むしろ安心する。
『あなたには私がいる。さぁ、私の手を。』
鈍く重い自分の手を光り輝く彼女の手へ伸ばす。あともう少しで届きそうだが、僕には頭上にいる彼女には手が届かない。
「届かない・・・届かないよ。」
『なら私があなたを掴んであげる。あなたがもう迷わないように私の中にしまってあげる。』
そう言って、彼女は僕の手を掴み、眩い光の中へと僕を引き寄せた。ああ・・・本当に心地がいい。このままこの光に溶けていきそうだ―――
「・・・ぁぁ。」
光の中で再び目を開けると、そこは見知った自分の部屋の天井だった。夢を見ていたのか、僕は。
なんだ・・・やっぱり僕を救ってくれる人なんて・・・。
「痛っ!」
布団から起き上がると自分の足裏から激痛とまではいかないが、刺すような痛みが走った。布団の上に座り、自分の足を見ると、両足には包帯がグルグルと巻き付けられてあった。
怪我をしていたのか?だけど包帯を巻いた記憶が無い。それどころか、雨に濡れて帰ったあの日から記憶がおぼろげだ。確か、僕はお風呂に入って、その後は・・・駄目だ思い出せない。そこから先の事は何も思い出せないんだ。
違和感を覚えながらも、僕は足裏から感じる痛みに耐えながら部屋から出ていき、一階へと降りていく。
すると、一階のリビングから料理音と共に優雅な音楽が聴こえてきた。リビングへ進んでいくと、そこにはキッチンで手際よく料理している美幸がいた。
「美幸さん・・・?」
「ん?あら、彰人君!目を覚ましたのね!」
「うん・・・あの、どうして僕の家に美幸さんが―――」
「おかしい事かしら?あなたの大切な人があなたの家にいるのは?」
美幸さんが大切な人?そんな事は―――いや、何を思っている。美幸さんは僕の大切な人だろう。そんな彼女がここにいるのは何もおかしい事なんてない。
寝起きだからか、頭がモヤモヤしていてそんな事も忘れていたのか?
「・・・この音楽。」
「【安寧の地】心を病んだ男が辿り着いた安寧の地を表した曲。」
「なんだか・・・とっても心が落ち着く。」
「そうでしょ?ほら、足怪我してるんだから座って。」
美幸はテーブルの席を引いて、そこへ僕を座らせた。しばらく待っていると料理を運んできた美幸がテーブルに料理を並べていき、まるで感謝祭のような光景が出来ていた。
今日はクリスマスか?絢爛豪華な料理を眺めていると、向かいの席に美幸が座り、優しい微笑みで僕を見つめてくる。
「彰人君。一つ聞いておきたい事があるんだけど。」
「ん?何ですか?」
「玄関の壁に掛けてある写真に写ってるのは一体誰?」
「誰って・・・もちろん僕と、美幸だよ。」
おかしな事を聞くもんだ。美幸は納得したのかニッコリと笑って僕の頭に手を置いた。
「そうよ。ごめんね、変な事聞いて。」
そう言って笑う彼女の表情は優しく包容力があった。一瞬、違和感が芽生えたが、僕の頭を撫でる彼女の手の感触でそんな違和感なんてどこかへ消えてしまった。
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