第6話 強引に、残忍に

昨日、彰人君の家に行き、彼の心の闇を知った。最初は興味本位で彼を見てきたけど、もうそんな軽はずみな想いではいられない。

あれから家に帰り、サボテンに愛を注ごうとしても彰人君を思い浮かべてしまう。彼の弱った顔・彼の痩せた体・彼の愛に飢えた瞳を。


「・・・彰人君。」


彼の姿を思い浮かべながら、私は縄・スレッジハンマーをカバンに入れ、自宅から出ていく。外に出ると、空は曇り空に覆われ、彰人君の家に着く頃には雨が降り始めた。

家のチャイムを押し、しばらく待っていると扉が開き、中から昨日と同じく顔色が悪い彰人君が顔を出してきた。


「彰人君、約束通りお見舞いに来たよ。」


「・・・。」


一言も話さずまた彰人君は扉を開いたまま家の中に戻っていった。中へ入ると、昨日よりも家の中は荒れており、玄関前にまで物が散らかっていた。散らかっている物に混じって、所々に血が落ちている。リビングへと歩いていく彰人君の足元を見れば、彼が通った跡に新しい血が点々と続いていた。

靴を脱いで歩けば足裏に破片が刺さる為、彰人君には悪いけど土足で家の中へと入っていく。

リビングにまで行くと、昨日は床に転がっていた二体のマネキンがソファに肩を並べて座っていた。あれから彰人君が動かしたんだろう。証拠に男性のマネキンの頭部が元に戻っている。

そんな二体のマネキン、もといご両親の前で猫のように横になっている彰人君。私はカバンを床におろし、中から縄を取り出してゆっくりと彰人君に気付かれないように背後へと近づく。


(少しだけ乱暴するね、彰人君。)


横になっている彰人君の背中に乗り、両腕と両足を縛る。縛る時に抵抗してきたけど、弱った彼の力・上に乗られている為、大した抵抗にはなっていなかった。

彰人君が身動き出来ないようにした後、ソファに座っている二体のマネキンを床に投げ飛ばし、カバンから持ってきたスレッジハンマーを取り出す。ハンマーを引きずってマネキンの方へ行き、彰人君の顔を横目で見る。彰人君は目玉が飛び出そうなくらい大きくかっ開いて呼吸を荒くしていた。


「これが両親だとあなたは言った。けど、現実は違う。今から現実を教えてあげる。」


ハンマーを両手で握り、ゆっくりと振り上げる。


「や、やめ―――」


彰人君の声を聞き流し、勢いよくマネキンの頭部に向けて振り下ろした。ガンッ!という音と共にマネキンの頭部が粉砕し、その欠片が周囲に散らばる。間髪入れずにハンマーを振り上げ、もう一体のマネキンの頭部も粉砕した。


「あ・・・あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


彰人君の悲痛な叫び声が胸へと突き刺さり、罪悪感で手と足が震える。たとえマネキンだとしても、これが今の彰人君にとって両親そのものなんだ。その両親が目の前で残虐に殺されたのを目にすれば発狂もする。

私は湧き上がる罪悪感を歯を噛み締めて抑え込み、持っていたハンマーを放り投げて彰人君の目の前に砕け散ったマネキンの頭部の欠片を見せた。


「見て!あなたが両親と呼んでいたのは人形なの!」


「いぃひ・・・あぅぁぃぃぃ・・・!」


「しっかりして!このままあなたが現実から目を背いてばかりでは前へ進めないの!」


未だ変わらず発狂している彰人君。駄目だ、あともう一つ何かが必要だ・・・写真、写真だ!

玄関の方へ走っていき、壁に掛けていた写真を外して彰人君の元へと持っていく。


「これを見て。あなたとあなたのご両親の写真。玄関の壁に掛けてあるくらいの仲のいい家族が一つだけ、それもあなたが幼少期の写真しか飾っていないのはおかしいの。」


「ぁ・・・ぁぁぁ・・・。」


「よく思い出して。あなたのご両親はどうしたの?こんなになるまでどうしてあなたを放っておいたの?」


「・・・母さん、父さん・・・。」


言語が戻ってきた。荒れていた呼吸は徐々に戻っていき、見開いていた目は閉じていき、目元からは涙が流れている。


「二人は・・・旅行に、結婚記念旅行で・・・そこで、そこで・・・!」


その後の言葉が口から出る事は無く、小さな子供のように泣きじゃくってしまった。


「ああぁぁぁぁ!!!」


「っ!?ごめん、ごめんね!辛い過去を思い出させてしまったよね?私、酷い人間ね。こんな強引なやり方なんて・・・ごめんね。」


彰人君の傍に座って泣いている彰人君の顔を掴んで私の腹部に押し込んだ。彰人君の震える声が腹部に響いている。


「大丈夫・・・あなたには私がいるわ。」


あぁ・・・ようやく見つけた。私の愛を受け止める物じゃなく、私の愛を飲み込んでくれる物を。離さない・・・彰人君もきっと望んでくれるはず。

だってそうでしょう?あなたは愛に飢えているんだから、私が必要でしょう?私の事を好きにならなくてもいい・・・私の愛を望んでくれれば、それでいい。

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