第4話 史料の伝える『ヤダの石のまじない』1(輟耕録 てっこうろく)

 調べるのが好きな私。もしかしたら、小説書くのより好きかも。飛んで火に入る夏の虫ならぬ、史料の沼に沈むと分かって飛び込むバカな私というところでしょうか? あるいは、ハチに刺されてもだえつつも、ハチの巣を離さぬクマか? (←テレビで見たことがある)


 いずれにしろ、すこしばかり、『ヤダの石(モンゴル語ではジャダの石となる)のまじない』について史料の伝えるところを見てみよう。


 那珂通世がモンゴル史料である秘史を訳注した『成吉思汗實錄』に漢籍より4編を漢文形式で引用しているので、これを訳してみよう。まず本話にては、そのうちの1編である輟耕録てっこうろく巻4からのもの。これは第3話を書くにおいて、最も参考になった。


『往々にして、蒙古人の雨を[祈]祷する者を見るに、浄水を1盆に取り、石子[=石のことである]数枚を浸すのみ。

 

 [石の]大なるはすう卵の如し、小なるは等しからず。

 

 しかして後、黙して密呪して持す。

 

 石子をもっ[=以]て、淘漉とうろくし、玩弄がんろうす。


[淘も漉も、(水底のものを)さらうの意味あり。恐らく、石を取り出したのだろう。

 玩弄は、石をいじくって何かをしておる程度の意味であろう。こうした儀式には各々の動作に明確な決まり事があり、また、意味があるはずである。しかし、これを記したのが漢人(元朝末期の陶宗儀とうそうぎ)であるので、その細かいところを知り得ず、こうした表現に留まったと想われる]


 此の如くして、や久しくすれば、すなわち、雨有り。


 [モンゴル語で]石子は名曰く、鮓荅。


 乃ち、走獣の腹中に産する所であり、独り牛馬のものを最もたえなり[=素晴らしい]とす。


 恐らくは、是れは牛横ごおう[=牛の胆石]・狗宝くほう[=犬の結石]の属[=たぐい]。

[ちなみに、牛横ごおう狗宝くほうは漢方薬として用いられる。『ところ変われば品変わる』ならぬ、用途変わるである]』


[]内はひとしずくの鯨により補足。


 本話はここまで。


 参考文献

 ・那珂通世訳『成吉思汗實錄』筑摩書房 1943年

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