第7話

「青木チーフ、少し時間よろしいですか?」

出勤早々にそう声をかけ、目を丸くした彼を会議室に連れ出した。困惑したその目を見て切り出す。

「チーフの名刺を見せて下さい。」

彼は何かを悟ったように、1つ深呼吸を挟んだ後、名刺を見せてくれた。

「やっぱり…」

俺の言葉に、やれやれと言った表情で尋ねてきた。

「いつから気づいていたんだい?」


2人で部屋に戻ると、サブの2人が慌ててデスクに向かうのが見えた。俺はまっすぐ2人の元に向かう。

「石川さん、砂川さん、本当のことを話して下さい。」

驚いた表情でこちらを向く2人からは、明らかに視点が定まらず、動揺しているのが見てとれた。

「山田君、何のことかな?」

ドラマでよく見る表情で、石川が口を開いた。

「先程青木チーフと何を話していたのか、まずはそちらの話から教えてもらいたいね。」

石川の口調は、自信さえも感じさせるものだった。砂川は依然として目を合わせず、ちらちらと石川の方を見ている。

「分かりました。単刀直入に聞きます。高田を事故に見せかけて殺害しましたよね?SAシューズを使って。」

砂川の挙動不審が強まる。しかし石川は動じることなく、怪訝な表情で俺を見ている。

「自分が何を言っているか分かっているのか?証拠もなく上司を殺人犯に仕立て上げるなど…」

「証拠ならあります」

俺は上着のポケットから1枚の名刺を取り出した。そこには『チーフ 青木雄馬』の文字が印刷されていた。

「これは高田の母からお借りしました。うちの職員と思われる人間が、高田のSAシューズを持って行く際に残したものだそうです。」

石川の表情が少し緩む。彼は余裕そうに青木の方をチラリと見た。

「でもおかしいんです、青木さんは本当はチーフ代理で、チーフとしての名刺は持ってないんですよ。」

そういうと、先程青木から受け取った名刺を彼ら2人に見せた。

石川の表情がみるみる強張っていくのが分かる。砂川は脚を震わせ今にも崩れ落ちそうだ。

「そ、その名刺を渡したのが誰かも分からないのに、おかしなことを言うな。第一、高田の死因も酔ってはねられたんだろ?馬鹿馬鹿し…」

ガチャッ

「しゃ、社長!!」

このフロアに来るはずのない人物の登場に、2人の混乱は一段上のステージへ進んだようだ。

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