第5話
高田の葬儀から1週間、俺の中でいろんな思いが浮かんでは消え、消えては浮かんだ。
『山田隼人として、胸を張れる人間であれ』
迷っていた心を親父の言葉がそっと押した、まるでSAシューズのように。気づくと自然と歩き出していた。
「よくいらしてくれました。山田さんのことは、隆か
ら以前伺っていました。よろしければ顔を見せてやってください、隆も喜びます。」
そういうと、やつれた顔で笑顔を作った高田の母は仏壇へと案内してくれた。
「隆はきちんと仕事していましたか?ご迷惑をお掛けして無かったですか?あの子、就職してからはめったに連絡も寄越さなくて。」
俺は高田の働きぶりや評判、俺とのさまざまなやりとりを話した。彼女のやつれた作り笑顔が少しずつほぐれ、同時に涙を堪えているのが伝わってきた。それと同時に、俺の頬にもつたうものがあった。いつもより少ししょっぱい、忘れかけていた感情だった。
「山田さんのような同僚にも恵まれて、あの子はほんとに幸せ者でした。なのにあんな…」
そういうと、彼女はそれまでの顔とは違った、少し戸惑ったような顔をした。
「大変恐縮なんですが、隆さんはどうして事故に?」
不謹慎なのは重々承知の上だった。追い返されても仕方ないとさえ思った。しかし、少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと話してくれた。
金曜の夜、俺と別れた高田は一旦家に帰り、深夜にコンビニへと出かけた。その帰りに横断歩道のない道路を渡ろうとして、車にはねられたとのことだった。防犯カメラにも千鳥足で道路に向かう彼が写っており、警察も酔った末の不運な事故として処理したそうだ。
帰りがけに、彼女の視線がSAシューズに向かっていることに気付いた。
「この靴、仕事用に支給されたものなんです。行く行くは商品化して、今回のような事故も未然に…」
ここで俺は強烈な違和感に襲われた。それと同時に言いようのない恐怖と、あの日高田と話したことが頭を埋め尽くした。
『問題はその証拠なんだ』
固まる俺を知ってか知らずか、彼女はこう教えてくれた。
「隆も事故にあった時履いてたんですよ。難しいことはよくわかりませんが、靴で事故を防げる未来、あの子のような人が1人でも減るよう、陰ながら祈っています」
背中をつたう冷たい汗を感じながら、恐る恐る俺は彼女に高田の靴を見せてほしいと頼んだ。
「靴なら先ほど会社の方が持っていかれましたよ。あなたと同じように事故を未然に防ぐために、この教訓を活かすって言って。名前は確か…」
帰り道、俺の中の様々な違和感がつながっていくのが分かった。そんなことのために?考えを巡らせながらも、脚は自宅へと向かう。これは自分の意思なのか?親父の言葉なのか?もしくはSAシューズに歩かされているのか?感情が追いつかないなか、無事自宅に帰れた安心感もあり、その日はシャワーも浴びず寝てしまった。
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