第2話

「そんな辛気臭い顔すんなよ。」

同期入社の高田、年は俺より1つ上の24歳。

「同じトラックを何周もして、タイムを上げてゴールを目指す。これまでやってきたことと何も変わらねーよ。」

関東出身の高田とは、地元も学年も違うが、陸上時代の種目が同じ長距離だったこともありウマがあった。居心地がいいとは言えない社員食堂で、こうして昼食を共にすることが多い。知らない部署の知らないやつらが、知らない話をベラベラと話しているなか、俺は誰にいうでもなく、こぼすように言った。

「そのゴールが見えんから辛いんや。俺らはどこに向かって走らされとるんやろか…」

俺の所属する『開発部スーパーアシストシューズチーム』通称SAシューズチームは、今年からできた社長肝入りのチーム。同期は俺と高田、チーム紅一点の吉井の3人だ。上司は4人、チーフの北岡さんはバリバリの体育会系で2児のパパ、サブの石川さんと砂川さんは中学からの同級生コンビで家族ぐるみで仲がいい。最後の1人、青木さんはあまり会社では見かけないが、外回りやテレワークがほとんどらしい。某大手メーカーから社長直々に引き抜いたとの噂もある。共通点は全員元陸上部、とくに中長距離出身者ばかりだ。チームの課題は今俺たちが履いている“SAシューズ”の商品化であり、チームメンバーにのみプロトタイプとして支給されている。SAシューズの特徴は、人工知能を搭載した最新のems機能付きシューズで、人が歩いたり走ったりする動きをアシストする。行く行くは老人の運動補助や徘徊防止、半身不随者の歩行介助など医療の分野にも目を向けているらしい。難しいことは分からないが、この壮大な話に当時の俺は心が踊った。

「またそんな話してるの?いいじゃない。業務量もほどほどで残業もなし、給料も比較的もらえて今時珍しいくらいホワイト企業だと思わない?」

そう言いながら、吉井は俺たちのテーブルに加わる。俺はこの女が苦手だ。冷めているというか、割り切っているというか、どこか大人びているというか。俺とは違うその感覚に、言いようのない感情が顔を出す。

「北岡チーフもいい人だし、他の先輩も優しい素敵なチームだと思うわ。青木さんはよく分からないけど。」

「俺はただ…」

言いかけた言葉を飲み込み、2人を残して席を立った。

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