第55話 現実と痛み

 アスタロトさんの展開した魔法陣から出てきたのは、見知らぬ悪魔だった。

 白髪の男性で、アルスの目から見てもとても美しい容姿をしていた。


 その悪魔の名は、ジークというらしい。

 ジークはアスタロトさんの前に歩み寄ると、そのまま跪く。

 その仕草一つ一つが優雅で洗礼されており、言われずともその悪魔がとても高貴な存在である事が伝わってくる。


 そんな二人は、さながら物語に出てくるお姫様と王子様。

 あまりにも美し過ぎる二人の姿に、アルスは胸にチクリとした痛みを覚える――。


 ――そりゃ、そうだよね……。


 アスタロトさんは、悪魔の頂点である大悪魔。

 だからこの男性のように、強くて高貴な人が他にも沢山仕えているに違いないのだ。


 アスタロトさんと自分では、あまりに立場が違い過ぎる。

 それにまだ、アスタロトさんの事を何も知らない。

 そんな現実を今更になって思い知らされたアルスは、自分が場違いである事を自覚する。


 さっきは、どこか不機嫌に思えたアスタロトさん。

 そんなすれ違いも相まって、ふとアスタロトさんと目が合うも、アルスは気まずさからつい目を逸らしてしまうのであった――。


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