第50話 ゴエティアの魔王達②
「――黙れ小わっぱども。これよりサタンから説明があろう」
セタスとメルディの二人に対し、氷のような冷たい視線を向けるのは冥府の女王サリエラ。
彼女は、ゴエティアにおけるアンデッド達が住まう読みの国「ミレディア」を統べる魔王の一人だ。
魔族領ゴエティアとなるとより遥か昔から、サリエラは黄泉の国を統べる存在である。
冥府の女王サリエラ――。
まるで透き通るような真っ白の肌をした、黒のゴシックドレスを着た少女のような見た目をした女性。
水色の髪を縦ロールに巻き、その姿は貴族の令嬢のようでもある。
しかしサリエラは、その見た目に反し魔王の誰よりも古くから存在しており、千年前の大悪魔アスタロトとの戦いにも居合わせた一人である。
そんなサリエラは、元々戦闘を好むタイプではない。
それ故、千年前の戦いでもサリエラは一人魔族領に残り、領地の守護を任されていた。
それでも、サリエラはあの日の出来事を鮮明に覚えている。
何故なら、サリエラは自身の能力で遠い場所の光景を映し出すことが出来るからだ。
そして映し出された光景は、まさに地獄のようであった――。
戦闘に出た魔族領の者達が次々と、しかもいとも簡単に屠られていくのだ。
その信じられない光景を前に、サリエラはこの世に生まれついて初めての恐怖という感情を抱いた。
ゴエティアが誕生するより遠い昔から、この世界を見てきたサリエラ。
そんな、悠久とも言える時の中で積み重ねた経験や知識が、一切通用しない未知なる存在――。
そんな危険な存在が、再びこの世に姿を現したことをサリエラは既に知っている。
であれば、早急にでも対処すべき問題であろう。
……あれだけは、この世界において決して触れてはならぬ存在なのである。
そう思いサリエラは、サタンへ会話のバトンを譲るのであった。
「――では、早速だが本題に入らせて貰おうか」
サリエラの促しを受け、サタンは大悪魔アスタロトが再びこの世界に現れた事を魔王達へ伝える。
サタンの話を一通り聞いた魔王達の反応は、様々であった。
セタスとメルディの二人は、アスタロトの存在は話でしか知らない。
それ故、大魔王であるサタンが何を怯えているのだというように、下卑た笑みを浮かべている。
「……なるほど。サタン様がそれだけ警戒するほど、その大悪魔アスタロトという存在は危険なのですね」
そして、サタンの話を聞いて頷いたのは、龍王ドラゲルグだった。
彼は、ゴエティアにおけるドラゴンやリザードマン達が住まう国、竜国「エルザード」を統べる魔王だ。
竜王ドラゲルグ――。
全身を漆黒の鱗で覆った、ドラゴンの最上位種であるエンシェントドラゴンだ。
他のドラゴンに比べると小柄ではあるが、その身体能力は他のドラゴンを圧倒しており、レッドドラゴンが何体束になっても敵わないほどの強大な力を秘めている。
エルザードは、代々エンシェントドラゴンが魔王を務めてきた国家である。
そのため、先代の魔王の死により、その息子のドラゲルグが新たな魔王を引き継いだ形となる。
ドラゲルグの父であるドラバルドが命を落とした理由。
それは他でもない、あの大悪魔との戦いでの敗戦である。
だからドラゲルグにとって、大悪魔アスタロトは父の仇でもある。
だがドラゲルグにとって、父は今の自分よりも確実に強かったはずだ。
正直今でも、エンシェントドラゴンである自分よりも勝る存在なんて、それこそ今ここにいるサタン様や一部の魔王のみだと思っている。
けれど、本当に当時の父で敵わなかった相手だと言うのであれば、それは最大限の警戒をすべき相手であるのは間違いないのであった。
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<あとがき>
続きます。
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