第49話 ゴエティアの魔王達①
「……それで、なんで俺達が集められたんですかい? 手短に話を済ませてくれ」
サタンの着席を待って、最初に口を開いたのは獣王セタスだった。
セタスは若干苛立った様子で、さっさと話を終わらせたそうにしている。
獣王セタス――。
身長は二メートルを超える、大柄な体格をしたライオンの獣人。
彼はゴエティアにおける、獣人達の住まう国「エルドー」を統治する魔王の一人だ。
エルドーでは、常にその国で一番強い者が魔王を務めるという慣わしがあり、定期的に行われる武闘大会の勝者が魔王を務めることとなっている。
そんなエルドーにおいて、セタスが魔王になって以降はずっと魔王の座を守っているという圧倒的な実力者だ。
そんなセタス自身も、誰よりも腕に自信があるのだろう。
魔王達の中でも、一番の武闘派としても知られている。
常に好戦的で、たとえ相手が他の魔王や大魔王であるサタンでも、常に己の腕試しをしたそうに相手を値踏みしてくるような男だ。
そんなセタスの持つ力には、サタンも信用を置いている。
獣人族にしかないその圧倒的な身体能力は、サタンをも凌駕する程の力だからだ。
通常の戦いにおいては、まずサタンが負けることはないだろう。
しかし、例えば魔法が通じないような相手が現れた場合、セタスの持つ身体能力に勝る存在はこの世界にもいないだろう。
その点においては、もしかしたらあの大悪魔が相手であっても通じるかもしれない……。
だからこそサタンは、あれくれ者ではあるがセタスの持つ力は評価しているのである。
「そうよ、私達だってやる事があるんだから、早くしてちょうだいな」
セタスの言葉に、頬杖をつきながら気怠そうに続いたのは炎の女王メルディ。
彼女は、ゴエティアのサキュバスや吸血鬼達が住まう常闇の国「ヤクリム」を統治する魔王だ。
炎の女王メルディ――。
赤く燃え盛るような長髪が特徴的な、露出度の高い黒のドレスを着たサキュバスだ。
通常、サキュバスはそれ程強い種族ではない。
けれど、このメルディだけは特別な存在なのである。
炎が燃え盛るようなその容姿のとおり、メルディの身体は炎の精霊と同化しているからだ。
それ故、炎系統の魔法は全て自在に扱うことができるメルディは、この魔族領全体を見ても圧倒的な力を有している。
精霊と同化するということは、通常では起こり得ないこと。
幼少期に精霊との波長が同調し、そのうえで精霊と契約を交わせた者のみ同化することが許されると言われているが、この長いゴエティアの歴史において、それを成し得た者はメルディを合わせてたったの三人のみとされている。
しかもメルディが同化したのは、炎の精霊。
数ある精霊の中でも炎の精霊は強い力を有しており、そんな精霊と同化したメルディの持つ力は最早圧倒的だった。
かつてヤクリムでは、代々ヴァンパイアロードが魔王を務めてきた。
対して、サキュバスはヤクリムの中での地位は低く、ヴァンパイアのために仕える存在とされてきた。
しかし、メルディが現れたことでヤクリムの事情は一変することとなる。
次々と力を持つヴァンパイア達がメルディに敗れていくことで、気が付けば誰もメルディへ逆らう者はいなくなっていたのだ。
その結果、ヴァンパイアロードが魔王の座をメルディへ譲ったことで、ヤクリムで初のサキュバスから魔王が誕生したのである。
そうした背景があるため、メルディはヤクリム内で多くの民から支持されている反面、ヴァンパイア達からは疎まれているという問題を抱えてもいるのである。
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<あとがき>
久々の更新。長いので分割します。
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